イタリアの伊達なブランド、アルファロメオはいつの時代もカーマニアを唸らせてきた。その一番の魅力は美麗なスタイリングとスポーティな走行性能にあったが、ブランドの新体制における第一弾製品は、小型のSUV。近年、最も流行りのボディタイプで、アルファロメオはいったいどのような味わいを持たせることができたのか。イタリア車に精通する清水草一がレポートする。
■今回紹介するクルマ
アルファロメオ トナーレ
※試乗グレード:Ti
価格:524万~589万円(税込)
販売立て直しが必須のなかで登場した、アルファロメオのSUV
アルファロメオはイタリアの名門。エンブレムを見ただけで「なんかステキ!」と思ってしまうブランドで、私もこれまで2台購入している。
ただ、今世紀に入ってからは不振が続いている。アルファロメオと言えば「オシャレなデザインと痛快な走り」というイメージだが、経営戦略の迷走により、あまりオシャレでも痛快でもなくなってしまったからだ。
アルファロメオはもともとフィアットグループの一員。フィアットはクライスラーと合併し、近年、プジョー/シトロエンとも合併して、多国籍自動車製造会社ステランティスとなった。ステランティスグループのいちブランドとして、アルファロメオはどのような立ち位置を目指すのか、まだはっきりしていないが、とにかく販売を立て直さなければならない。
トナーレはセダンタイプ「ジュリエッタ」の後継モデルだが、欧州で最も売れ筋のコンパクトSUVセグメントにボディタイプを変更した。もはやSUVじゃなければ販売の拡大は見込めないのだ。痛快な走りを身上とするアルファロメオとしては、それだけで若干ハンデだが、仕上がりはどうだろう。
典型的なクロスオーバーSUVだが、随所に感じられるデザイン性
まずデザインを見てみよう。フォルムは典型的なクロスオーバーSUVで、いまやどこにでもありそうな形だ。アルファらしいデザインのキレが感じられない。決して悪くはないが、あまりにもフツーと言うしかない。さすがにフロントフェイスの盾形グリルだけはアルファロメオの伝統に則っており、一目でアルファロメオだと判別できるが、それを除けば、アルファロメオらしさはあまり感じられない。
ただ、細かく見れば、アルファロメオらしさはちりばめられている。3連ヘッドライト風のシグネチャーライトは、かつてのアルファロメオSZを彷彿とさせ、5つの円を組み合わせたホイールデザインも、アルファロメオ伝統の造形だ。
しかしこういう小技だけでなく、全体のフォルムで「ひええ! オシャレすぎる!」くらい言わせないと、アルファロメオとは言えないのではないか。トナーレのデザインは、あまりにも定番すぎて、ほかのSUVに埋没してしまいそうだ。
1.5L 4気筒直噴ターボに48V駆動モーター、さらにBSGも搭載
パワートレインは、新開発の1.5L 4気筒直噴ターボに48V駆動のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドで、7速DCTで前輪を駆動する。トナーレは、「ステルヴィオ」に続くアルファロメオのSUV第2弾にして、初の電動化モデルなのである。
電動化と言っても流行りのバッテリーEVではなく、ガソリンエンジン主体のマイルドハイブリッドという点はアルファロメオらしいが、ハイブリッド王国・日本のユーザーとしては、「いまさらマイルドハイブリッドで電動化もないだろう」と感じてしまったりする。
試乗したのは、エントリーモデルのTi。「Ti」とは「ツーリズモ・インテルナチオナーレ」の略だ。国境を越えて走るってこと。島国の日本ではムリだけど。
新開発の1.5L 4気筒ターボエンジンは、エンジン単体では160PS/5750rpmと240Nm/1700rpmを発生させ、そこに20PS/55Nmを生み出すモーターが加勢する。さらに12Vのベルト駆動スターター・ジェネレーター(BSG)も搭載されている。一般的なマイルドハイブリッドシステムはBSGだけだが、トナーレの場合は20km/hぐらいまでの低速なら、電動モーターだけで走ることもできる。つまり、マイルドハイブリッドでも、ちょっと進んだヤツではある。