昭和30年代のレジャーブームで花開いた日本の観光地には、必ずと言っていいほどロープウェイがつくられました。ちょっとスリリングで、眼下に広がる雄大な景色が楽しめる「空中電車」は大人気で、山頂には回転展望台や食堂、遊戯施設などもつくられ、昭和40年代後半ぐらいまではどこも賑わっていたようです。しかし、レジャーが多様化していくなかでその多くが姿を消し、残ったロープウェイもほとんどが最新式に架け替えられています。新しいだけあってそうしたロープウェイの乗り心地は快適なのですが、古きよき昭和の面影はそこにはありません。
ところが、そんな時代の流れに影響されることなく、いまでも昔の面影を色濃く残している観光地もあります。昭和レトロブームのいま、旧式のロープウェイに乗って、昭和へタイムスリップしてみましょう! 紅葉ロープウェイ、デートロープウェイに引き続き、今回もロープウェイ愛好家として全国のロープウェイに詳しい松本晋一さんに解説してもらいます。
丸みのあるゴンドラはまさに昭和!――宝登山ロープウェイ
埼玉県・秩父の長瀞はライン下りで有名ですが、川の反対側にある山では“ザ・昭和”といった雰囲気の宝登山ロープウェイがいまでも現役で稼動中です。開業した昭和36年から一度も架け替えていないというゴンドラは、まるでコッペパンのような丸みのあるデザインが特徴的。いまどきのシャープなデザインにはない「やさしさ」や「かわいげ」さえ感じさせます。
駅舎のデザインも古いロッジを思わせるような建築で、どこをどう見ても昭和のまま。山頂にある小動物公園は規模的にはこじんまりとしていますが、サルやシカに餌をやりながらまったりと過ごすのも悪くありません。手作りのお弁当を持って山頂で食べるという昭和的な楽しみ方もできそうですね。
【アクセス】
電車:秩父鉄道「長瀞駅」下車徒歩20分
車:花園インターチェンジ出口から約20km
時が止まったレトロスポット――須磨浦ロープウェイ
兵庫県にある須磨浦山上遊園も昭和で時が止まったかのような観光地。山陽電鉄の須磨浦公園駅を降りるとそこがロープウェイの駅でもあります。赤と白というシンプルなデザインのゴンドラは、平成19年につくられた3代目とのこと。走行中は海から吹き込む心地よい風を感じることができます。山頂に到着すると、今度は「カーレーター」という、現在では唯一、ここにしか残っていない乗物でさらに上を目指します。公式サイトでも謳っているこの「乗り心地の悪さ」は一生忘れられないでしょう。
山頂に到着するとまず目に入るのが丸い建物の回転展望閣。床がゆっくり回転していて、座りながら360度の景色を楽しめるというもので、昭和の観光地ではよく見かけた施設です。そのほかモノレールやリフトなどもあります。どこを見てもまったく平成を感じさせるものがなく、これほどまでに昭和が残る観光地は希少なのではないでしょうか。
【アクセス】
電車:山陽電車「須磨浦公園駅」下車すぐ
車:阪神高速神戸線若宮ランプ出口より国道2号線で約3km
現存する日本最古のロープウェイ――吉野ロープウェイ
鉄道ではSLが大人気ですが、ロープウェイのSL的存在といえば奈良県の吉野ロープウェイ。戦前につくられたロープウェイで、開業はなんと昭和4年! 現存する日本最古のロープウェイです。まだロープウェイという乗物が一般化する前につくられたので、独特の形状をしており、日本機械学会による「機械遺産」にも認定もされています。大きな機械の変更やリニューアルもしておらず、戦前の乗物を体験できる貴重な存在といえるでしょう。
吉野山が桜の名所とあって春は大混雑しますが、普段は近隣住民の交通手段としてのんびりと動いているので、ローカル線のような趣もあります。素朴な機械の振動を感じるロープウェイに揺られながら、昭和ロマンに触れる空中散歩を楽しんでみてはいかがでしょうか。
【アクセス】
電車:近鉄「吉野駅」から徒歩で約3分
車:名古屋市内から東名阪自動車道→名阪国道→針I.C経由で、約3時間
いかがでしたでしょうか。ある世代以上には懐かしく、若い人には新鮮な“レトロロープウェイ”、ぜひ一度訪れてみてください。ロープウェイは天候に左右されやすい乗物なので、お出かけ前に各会社のホームページで営業時間、運行状況などを確認することをおすすめします!
【教えてくれた人】
松本晋一さん
子どものころに持っていたロープウェイのおもちゃを大人になってから
ホームページ:「歓喜の索道」http://sakudo.
ブログ:「頭の中はロープウェイ」http://plaza.