ダイソン初となるウェアラブル製品、「Dyson Zone空気清浄ヘッドホン」が日本で5月23日に発売された。
Dyson Zoneはダイソンが得意とする空気清浄機能を搭載したヘッドホン。ヘッドホンのハウジング部分のコンプレッサーで外気を取り込み、2層構造のフィルターで微細な粒子を除去して、きれいな空気を口元に届けるのが大きな特徴となっている。
ではどのような環境で使うと、身をもってDyson Zoneの良さを体感できそうか。最近だと考えられるのは、カナダの森林火災が影響を及ぼしているといわれるニューヨークだ。微細な「PM2.5」などの粒子状物体が占める濃度は、ニューヨークで過去最大レベルとなっており、実際にマスク姿で黄色く霞んだ街を歩く人の様子も多方面で報じられている。
一方の日本はどうかというと、ニューヨークほど身体に害を与える環境ではないように思う。「tenki.jp」で主要都市のPM2.5分布予測を確認したところ、黄色やオレンジ色で「非常に多い」「極めて多い」と示されているのは、日本ではなくお隣の韓国や中国だった。これは6月28日時点でのデータだ。
ダイソンによるプレゼンテーションの際も、大気が汚染されている主な街としてニューヨークや中国が紹介され、「日本がめちゃくちゃ汚れている」という発言はなかった。Dyson Zoneの空気清浄機能について身をもって体感するなら、日本を離れて使う必要がありそうだ。
少し長い前置きになったが、必要にかられて使用する製品ではない。だが、ジャンルとしては新しく、製品の完成度は気になるところ。そこで、今回Dyson Zoneを試してみた。
シールド装着の手間はあるものの、マスクよりも快適
実際に装着してみると、シールドからの風当たりは心地良く、夏場は特に口元が蒸れてくるマスクを長時間しつづけるよりは快適。心地良い空気が口元に当たっていて、蒸し暑い季節にはもってこいだ。
いい空気を吸っている感はあり、フィルターを通して送られてくる空気を不快に感じることはなかった。ハウジング部の静電フィルターは0.1μmまでの粒子状汚染物質を99%キャッチして、カリウムを含むカーボンフィルターが二酸化窒素(NO2)や二酸化硫黄(SO2)などの酸性ガスを捕らえるとのこと。交換は1年に1回のペースで良いという。
口元に最も近いシールドは口や顎に直接触れない構造で、装着時に圧迫感や不快感を覚えることはなかった。
だが、ヘッドホンを装着する度にマグネットでシールドを装着しなければならず、これが面倒だと感じる。シールド内のメッシュ部分を水で洗えるのと、ヘッドホン単体として使えるようにシールドの取り外しができる利点はあるわけだが、それにしても装着時にすぐに外れてしまうのが難点だ。
MyDysonアプリで周囲の空気の状態がわかる
MyDysonアプリを使うと、Dyson Zoneの状態を一目で確認でき、空気質やフィルターの寿命などがわかる。後述するアクティブノイズキャンセリング機能のオン/オフはヘッドホンのイヤーカップをダブルタップするか、MyDysonアプリから切り替えることも可能だ。
各項目の中でも特に良いのが空気質のリアルタイムモニタリングだ。これはほかのサイトからデータを引っ張ってきているわけではなく、Dyson Zoneのセンサーが捉えた二酸化窒素(NO2)や、そのほかの酸化ガスの濃度に基づき周囲の空気質を視覚的に表示するもの。空気が汚れているのか、それともきれいなのか、というデータを色付きのグラフで示す。
・赤色:とても汚れている(9.0+)
・オレンジ色:汚れている(7.0から8.9)
・黄色:やや汚れている(3.0から6.9)
・緑色:きれい(0から2.9)
都内近郊の自宅と都内で試したところ、自宅は緑色できれいな空気質、都内では黄色でやや汚れているという結果となった。ただ、空気質がわかっても、どのようなタイミングでシールドを装着すれば良いのかがわからない。たとえば、アプリで「空気質が悪いです。シールドを装着しましょう」といった注意喚起があると、さらにわかりやすいだろう。アプリのアップデートに期待したい。
ヘッドホンとしてはどう?
ではヘッドホン単体で見るとどうか。
Dyson Zoneは空気清浄機能とは別にもうひとつの機能を搭載する。アクティブノイズキャンセリング機能だ。
ヘッドホンのコンプレッサーは、1分間に最大9750回転する。ただ、コンプレッサーの回転数が高くなるに連れて、大量の空気が移動するとともにノイズも発生する。それを防ぐため、コンプレッサーを内部で吊り下げる構造とし、振動がほかの部品に直接伝わらないようになっている。
それに加えて、逆位相の音の波形を生み出すアクティブノイズキャンセリングによって、モーターの回転音や外部のノイズをかき消している。これが実に優秀で、ヘッドホンのハウジング部分にコンプレッサーが埋め込まれていることを忘れてしまうほど、静寂に包まれる。もちろん、完全に消えるわけではなく、若干コンプレッサーの音や車の走行音などは聞こえるが、数メートル離れた人の話し声は聞こえない。アクティブノイズキャンセリング機能をオフにすれば、それらの音はハッキリと聞こえる。
音質はどうだろう。テクノやダンスミュージックは、かなりズッシリ耳元で音が鳴る印象だ。ギター1本のフォークソングもカッティングの音がよく聞こえるし、ボーカルや楽器の定位感も損なわれず自然に再現できている。ただ、音数が少ない曲ほどスーというコンプレッサーの音は少し気になる。集中して音楽を楽しみたい場合は厄介だろう。
とはいえ、コンプレッサーの音を除けば、全体的な聞こえのバランスは良い。低音域や高音域が極端に際立って聞こえることはないし、バスドラムやタム、スネアドラム、ハイハットなども欠けることなくクリアに聞こえる。
新しいデバイスを持っている感はあるものの、今後に期待したい部分も
短期間ながら実機を試すと、やはり新しいデバイスを持っている感は確実にある。ヘッドホンはどれも見飽きた、という人にも試す価値はありそうだ。空気清浄機をヘッドホンに詰め込む技術力にはあっぱれだし、息がしづらいマスクをするよりもやや涼しい風が当たって快適なのは確か。
とはいえ、新しいデバイスだけにもちろん要望もある。約670gという重さや、目新しさからくる、街で装着したときの気恥ずかしさがあり、結果的に空気清浄機とヘッドホンは別でもいいかもしれない、と思わせる。約12万円の価格も難しいところ。
ただ、裏を返せばそこには改善の余地があるわけで、今後の進化に期待したいところだ。
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