2023年8月19日(土)、全国から応募のあった親子20組 (小学生10、中学生10)を迎え、「富士通パソコン組み立て教室」が開催された。実は本イベント、島根富士通(Fujitsuブランドのパソコンやタブレットなどを生産する国内最大規模のパソコン工場)では2005年から継続的に開催しており、今年でなんと回を重ねて第16回目! 実に長い歴史を持つイベントなのだが、今回たまたま縁あって、GetNavi総合プロデューサーの私も参加できることになった。私が組み立てるモデルはFMV LIFEBOOK 「WU-X/H1」(参加者によっては「WU2/H1」のケースもあり)だ。
この「WU-X/H1」は、14型ノートパソコンとしては世界最軽量のモデル。驚愕の「約689g」を実現したもので、その軽さ・薄さはちょっと信じられないレベルだ。カバンなどに入れると持った感覚を感じないほどの軽量性で、ちょっとモバイルPCとしてのその本質的な価値は他の追随を許さない一台となっている。
マットブラック(ピクトブラック)の見た目もカッコよく、とにかくスマート。そう、ものすごくスマートなのだが、そこは富士通クライアントコンピューティングのPCである、ただ「クール」で「軽い」だけではない。この極薄スペースに有線LAN端子までも搭載されており、「まだ有線使う人もいるかもしれないし、そんな人にもこのモデルを使ってほしい」という「ユニバーサルおもてなし精神」が大爆発しているのである。もちろんイヤホンジャックもしっかり搭載。「いまどきBluetoothでいいんじゃないか」と私なんかは思ってしまうわけだが、その辺も決して「諦めない」姿勢に、FCCLの「軽いけど、みんなに優しい」を目指す信念が感じ取れる。とてもいい。日本的で、素敵だ。
ということで、パソコン組み立てを通じ、ぜひこのあたりの「魂」を私も学ぼうと思ったわけだ。ふと後ろを見やると「FCCLの顔」ともいえる齋藤邦彰会長が席に陣取り、エプロンルックで「私も作るぜ」と、ドーンと構えている。2022年の教室では大隈健史社長が参加していたとのことで、このあたりのトップの現場参画意欲もとても素敵だ。
今回の組み立て教室では41点の部品を扱い、約90分で組み立てるとのこと。作業量を実際のものから今回の教室用のものへとダウンサイズし、小学生でも組み立てられるようにカスタムしてくれているわけだが、さらに優しいことに、各参加家族に、一人ずつ島根富士通のマイスターが指導員として参加。私にも1人(安田元樹さんというナイスガイ)がアテンドしてくれているわけだが、小学生や中学生に教えるのならまだしも、老眼に悩む超年上の47歳の担当とは、安田さんもさぞ苦行だったことだろう。
安田さん曰く「実際の生産ラインでは258点の部品を使用し、12-13分で組み立てる」とのこと。目の前に並ぶパーツ、特に各所に使うネジは恐るべき小ささで、ちょっとした鼻息でも吹っ飛びそうなサイズだ。質問が飛ぶ。「あ、あの、、、工場で、もしこのネジがなくなったら、どうするんですかぁ」。ピュアな質問である。うんうん、やっぱり気になるよね。子どもっていうのは純真だなぁ、ということではなく、これは47歳児・松井の質問だ。こんな愚問にも安田さんは丁寧に応えてくれる。「ラインを止めて、見つかるまで探します。万が一筐体に入ったまま出荷してしまったら大問題ですから」。モノづくりにどこまでも真摯なのである。
作業難易度は想像以上に高い! 「人の手」もまだ欠かせない
組み立てが開始される。
まずはパーツの配布だ。ネジなどの細かいパーツはすでに机に配備されているが、液晶モニターなどの大きなパーツは、はAGV(自動搬送車)で供給される。そのAGVだが、何と今回は「(伝統芸能)石見神楽バージョン」。竜の姿をしたAGVが自動で動き、働く姿は圧巻である。竜に運ばせる必然性はいまいちわからないところであるが、とにかく動くものには竜をあしらっておく、という「島根愛」はビンビンに感じられた演出であった。
作業の最初はキーボードのネジ締め。実際の作業工程では70本以上のネジをロボットが締めるとのことだが、今回は手作業で実施。老眼殺しともいえる極小ネジに四苦八苦しながらも、なんとかキーボードを無事に取り付け、次の工程「メインボードの取り付け」に移る。この作業は実際の現場でも人の手で行う作業とのことで、そのくらい繊細な感覚が必要だという。何が繊細かって、メインボードを置くとケーブル類がその下に潜り込んでしまうこと。この位置決めがなんともセンシティブだ。
なんとかメインボードを金具で取り付け、その流れでキーボードをつなぐ。キーボードとメインボードは「フレキケーブル」というエイヒレのようなケーブルで接続するのだが、この時点でエイヒレをイメージしている時点で、もうちょっと、私は疲れているのかもしれない。細かな作業の連続に、目と手先が悲鳴を上げている。そんでもって、このエイヒレならぬフレキケーブルの接続(フラップの爪で噛ませて固定する)作業の難易度が超高く、うまく引っかからないのだ。フラップにまく入ったと思いきや斜めになっていたり、固定できたと思いきやスルっと抜けたりと、とにかくうまくいかない。マイスターにヘルプをかまし、なんとかクリアするも、周りのキッズたちはサクサクと進めているように見える。子どもたちの順応性って、素晴らしいのだなぁ。
休憩に入り、「しまねっこ」なる頭が出雲大社、体は猫、首にはしめ縄風マフラーを巻いたゆるキャラが登場し、刺激的なダンスを披露。同時進行的に齋藤会長のインタビューも炸裂した。もともとは技術者であったという齋藤会長だが、それでも昨今の超軽量モデルの組み立てに対しては「想像以上に難しい。匠の技術をヒシヒシと感じる」とコメント。や、確かにこの精度の作業を繰り返し、一日で多い時には1万台組み立てるとおいうその生産力には脱帽である。
ゴッドハンド安田による47歳児のスキル評価
後半戦は液晶パネル周りの接続などからスタート。ヒンジの金具に液晶パネルのケーブルが挟み込まれないよう整線する作業が実に難しい。さらに液晶パネルの上に本体を取り付ける作業でも、どうもケーブルマネジメントに悪戦苦闘してしまう。ケーブル整線過程では、ケーブルが本来あるべき場所ではないところに乗り上げないようテープで固定する、という作業もアリ。PCの筐体の内部に「テープ貼り」というアナログな作業があるとは、結構驚きである。
続けざまにカメラケーブルや「MLD FOOT」という接地パーツ、さらにはSSDなどを続々と実装していく。驚くほど薄いバッテリーを装着すると、一通り必要なパーツが全部筐体内に装着された状態になる。最軽量モデルは2CELLのバッテリーを積み軽量化を図っているわけだが、正直、それ以外の各パーツ一つひとつを見るに、「これより軽くできる可能性は、もうないなのでは・・・・・・」と思ってしまう。その点、安田さんにぶつけてみると、「これよりさらに軽くするためには、有線LANをあきらめるなどが必要かもしれない」とのこと。やりようは、まだあるのだ。島根富士通、まだまだ軽量化の記録更新に貪欲である。
組み立て工程は、最後にボトムケースを取り付け、ネジを締めて完了。筐体の反り返りを防止するための特殊なネジが使われるなど、細部へのこだわりはなんというかもう異常レベル。「異常」というとマイナスな言葉に感じるかもしれないが、そうではない。この「異常なこだわり」を「普通のこと」としている島根富士通の匠たちは、やっぱりものすごい。神の国出雲らしく、なんだか神々しいまでに、自社製品愛に輝いているのである。
そんなゴッドハンド安田に、聞いてみた。「あの、私の組み立て、どうでしたか? 私、島根富士通で通用しますかね?」「まあスムーズだったんじゃないですかね」と、私の作業に関しては、ものすごくドライな寸評をいただいた。
このあとも「パソコン生産ライン見学」や「匠と勝負! 競争ネジ締め競争」、「島根富士通チャレンジクイズ」など、楽しいコンテンツは盛沢山。キッズたちは大変エンジョイしているようで、島根富士通の「次世代を担う小中学生に対してICT技術への興味や関心を育成する」というビジョンは120%成功しているように感じた。
なお、今回のこの教室、自分で組み立てたPCは、匠たちの検品を経て、ご家庭に届く形になっている。子どもたちへのアンケートでは「今回、自分で作ったパソコンが家に届いたら、何をしたいですか?」という設問があった。その回答のほとんどが「調べもの/学習」で埋め尽くされており、なんだか頼もしい。日本のモノづくり精神は島根の地でものとことん輝いていたし、その魂を感じたキッズたちが、パソコンをつかって学びを深めたいと思っているなんて、最高じゃないか。「日本はダメになったダメになった」と世の中騒がしいけど、そんなことはない。現場も見てないくせに、そんなこと言ってんじゃねえぞ! モノづくりの楽しさにハマる、子どもたちの笑顔と、それを支えるマイスターの本気度を見るに、つくづくそう思うのだった。
一方47歳の筆者は日帰り島根の旅程。島根の美味を堪能することなく帰路に就くのが悲しくて、すがるように「出雲縁結び空港」のなかの居酒屋にピットイン。「ビールとつまみのセットだとお得な価格で楽しめるのかぁ」と言いながら、つまみセットを3周、4周と繰り返し酩酊したわけで、こんなおじさんは早いところ次世代に仕事のバトンを渡さないといけないなと思いつつ、帰路についた。
キッズもマイスターも、お疲れさまでした!