ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし
2023「ブルックス」冬の陣③「グリセリン21」の巻(後編)
日本で展開しているランニングシューズを、各社の担当者に取材し、走る速度別にインプレする、このGetNavi web連載。今回はブルックス(BROOKS)の最新モデル、2024年1月下旬に発売予定の「グリセリン(GLYCERIN)21」にフォーカスする。日本では馴染みの薄いブルックスだが、本国アメリカで100年以上続く老舗中の老舗。日本を含めた東アジアでの再プロモーションが急ピッチで進められ、今後の注目度が間違いなく上がるブランドなのである。
そのブルックスのロングセラーモデルがグリセリンで、今回インプレを行うのは21代目。日本ではGetNavi webが、最初に記事として扱う機会を得ることになる。グリセリンは、ブルックスの売り上げの大きなウエイトを占める、クッション重視モデルの代表格。ランニングがライフスタイルの一部になっている人たちが、走ることそのものを楽しめる一足である。
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いよいよ、グリセリン21を試走!
この連載での試履きは、“今週末、たまにはカラダを動かそっかなぁ~”な気分に合わせ、4つのスピードでシューズのインプレを行っている。まずは、シューズに足を入れた感覚、およびウォーキング。そして、「運動不足解消」が目的で走る、1㎞を約7分(=キロ7分)の、の~んびりペース。
続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分(=キロ6分)のゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッと走」である。
【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感&ウォーキング)】
ランニングシューズは、かかとに合わせて履くのが基本。シューレース(靴ひも)を緩めて立ち上がると、さすが老舗のブルックス、グリセリン21はかかとをしっかりホールドしてくれている。ミッドソールのクッション材「DNA LOFT v3」は、体重を受け止め、わずかに沈み込む。今風のランニングシューズの軟らかさ、心地よい。
グリセリンに搭載されているDNA LOFT v3は、世界で最初にEVAをランニングシューズに採用したブルックスが開発した、EVA素材だ。EVAにラバーを配合し、窒素ガスで発泡させている。DNA LOFT v3は衝撃吸収性に優れるだけでなく、弾力性と反発性にも富む。モチっとした感覚で、リズムよく歩ける。
グリセリン21は、つま先からかかとにかけて、揺りかごのようなラウンドのロッカー構造なので、シューズが転がるように前へ前へとカラダを運んでくれる。ソールが厚底過ぎて、一歩一歩がもたもたする感じはない。スタスタと進む感覚だ。
【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】
日頃の運動不足には、必ず理由がある。しかし、いくら理由を並べても、カラダが軽くなるワケではない。“時間ができたら運動する”ではなく、日々のスケジュールに運動の時間を先手必勝で作る。週7回を決めておけば、雨や急用で運動の予定が1日や2日潰れても、大した影響ではない。
1㎞を7分かけてのんびり走る運動不足解消ジョグ。早足に毛が生えた程度のスピードだから、最初こそ辛くともすぐに慣れるはず。グリセリン21のロッカー構造は、走ると乗り味の快適さを実感できる。ミッドソールのDNA LOFT v3は、衝撃を吸収するだけでなく、跳ねてくれるので、心地よいのだ。
シューズが快適だから、明日も走ろうっかなぁ~となれば、しめたモノ。普段の生活圏からわずかに離れたエリアまで、散歩ならぬ散走するだけで、世界も拡がる。運動不足もいつの間にか解消。グリセリン21は、そんな気分にさせてくれる。
【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】
痩せるために、サウナスーツなど衣類を着込んで汗を流す。そんな御仁を、最近は目にしなくなった。理由はシンプル、走って落ちたのは水分で、脂肪ではないことに世間が気づいたから。しかも、カラダの深部の体温が上がってしまえば、運動は長続きしない。一般的には、体重(㎏)×距離(㎞)=消費エネルギー(kcal)と言われているので、体重という重りを遠くまで運んだ分だけ、脂肪は燃えてくれるのだ。
そのためにも、快適に、遠くまで走れるペースが、脂肪燃焼に効く。痩せランは、隣で走る人とおしゃべりができるニコニコペースが基本。70㎏の人が10㎞走れたら、蕎麦二人前分が消費される計算だ。ランチを抜くか、休み休みでも走ってみるか、脂肪を減らしたければ自明の理だろう(両方は、エネルギーの消費先でもある筋肉の分解を招くので、お薦めしない)。
困ったことに、グリセリン21はよく走るシューズだ。自然にスピードに乗ってしまい、何も考えないと1㎞を5分30秒ほどで走ってしまう。スピードが上がり過ぎると距離を稼げない(=脂肪がたくさん燃えない)ので、ペースを抑える必要があるほどである。
特筆すべきは、インソールの良さ。インソールは、足裏とシューズの間にある中敷きのこと。ミッドソールのDNA LOFT v3のモチっとした跳ねるクッション感を、さらにインソールが引き出してくれている。試しに別のシューズのインソールと入れ替えて走ってみたが、その差は歴然。足指がしっかり地面を掴んで蹴れている感覚。もちろん足指が疲れるような嫌な感覚ではなく、しっかり走れている好感触なのだ。
【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】
何も考えないで走ると、グリセリン21はスカッと走る速度帯で巡航する。地面を力強く踏めば、その分だけ跳ねてくれる。しかも、下り番長。靴裏の前足部の踏み面は広いので、下りでスピードを上げても危なげなく、安定した走りで下れる。
アップダウンのある丘陵地帯にお住いの方には、グリセリン21をお薦めする。上り坂でも、DNA LOFT v3のモチっとした跳ねるクッション感が、重力に抗うココロまで支えてくれるはずだ。坂道が好きになるシューズ、それがグリセリン21だ。
ランニングの楽しみ方にはいろいろあるが、颯爽とゴールを駆け抜ける“スカッと走”の爽快感は欠かせまい。日本ではゆっくり長く距離を走るLSD(ロング・スロー・ディスタンスの略)が人気だが、ニューヨークやロンドンなど海外の街で走っていると、“スカッと走”派のランナーをよく見かける。
彼ら彼女らに走力があるのかと言うと、そうでもない体型だったりするのだが、気持ちよいペースでガシガシと走って、リフレッシュしている。そんなスカッと走にも、もちろんグリセリン21はピッタリな一足だ。
ガチなランナーに人気の昨今のカーボン入り厚底シューズは、それに見合った走力とトレーニングを積まないと、想像以上の筋へのダメージを招くリスクは否定できない。筆者は、誰もがカーボン厚底を履くことには、正直、賛成はしないが、走力を高めるための“地脚を作る”トレーニングにグリセリン21を履くことには大賛成だ。
無理に流行に合わせず、そのままグリセリン21をレースでも使い、安全に確実に、フルマラソン4時間切りを狙えるシューズだと言える。空気も冷え、タイムも距離も狙える、絶好のランニングシーズン、この一足ならモチベーションも上がるはず!
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撮影/中田 悟
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