ライフスタイル
2023/11/30 20:00

銭湯大使が教える初心者が銭湯を楽しむ奥義と全国のこだわり3銭湯

冷えた体を温めるには、バスタイムにお湯に浸かるのが効果的。現代では自宅での入浴が当たり前になりましたが、かつて一般家庭にお風呂がさほど普及していなかった時代、銭湯は地域の公衆浴場として、なくてはならないものでした。家庭におけるお風呂の普及率が高まったことで、現在銭湯の数は減少しているものの、ここ数年のレトロブームやサウナブームも相まって、これまで銭湯を利用していなかった若い世代からの支持や関心は高まっています。

 

日本銭湯文化協会の銭湯大使として活動する「銭湯OLやすこさん」こと奥野靖子さんに、銭湯の魅力と楽しみ方を教えていただきました。

 

銭湯の大きな浴槽は
緊張をほぐし、リラックスできる場所

家庭に浴槽があることが当たり前となった今、銭湯を利用するメリットはどういったところにあるのでしょうか?

 

「やはりリラックスできることだと思います。私が銭湯に通うようになったきっかけは、仕事がとても忙しかった若手時代のこと。会社と家との往復で自分の時間が取れなかった際に、会社帰りにふと思い立って行ってみたのが銭湯でした。それまでは仕事でミスをすると家に帰って考え続けてしまい、オンオフの切り替えができなかったんです。それが、銭湯に行ったことで『明日も頑張ろう』と気持ちの切り替えができるようになりました」(奥野靖子さん、以下同)

 

銭湯に通うことで心の変化を感じたという奥野さん。またメンタル面だけでなく、肩こりや首のこわばりが楽になるなど、身体面でのリラックス効果も期待できるのだといいます。

 

「大きい浴槽は深さがある分、体に水圧がかかり血行が促進されるそうです。家庭用の浴槽でもある程度は気持ち良いのですが、浴槽が大きく深くなれば、その効果も高まります。また、浮力による効果もあります。例えば水中だと、うさぎ跳びのポーズをしてもしんどいと感じないですよね。浮力のおかげで体が軽くなるから。筋肉の緊張がほぐれることでリラックス効果が期待できるそうです。その浮力と水圧の効果が高まるのは、大きいお風呂ならではの魅力です」

 

若い世代や企業の力が加わり
時代とともに銭湯が変化

かつて利用者の年齢層は比較的高かった銭湯ですが、今は20〜30代の若い世代の利用が増えているといいます。客層が変化した背景には、どんな理由があるのでしょうか?

 

「施設がリニューアルすれば必然的に新しい顧客が増えることはあります。ですが、リニューアルしていない銭湯でも足を運ぶ若い世代は増えています。そうした銭湯は、貼り紙にこだわってみたりイベントを行ったりと、できることから工夫して『若い人も歓迎するよ』という意思表示をされているんです」

 

各銭湯だけでなく、業界全体で利用者が増えるよう組合でもさまざまな取り組みを行なっています。

 

「東京都浴場組合の例で言えば、都内の銭湯を巡るスタンプラリーを期限を設けずに行っています。区によっては期間限定の景品がもらえるなど、1度だけでなく、また次も来てみようと思えるような工夫がされていますね。ほかにも“ゆっポくん”という全国の浴場組合公認キャラクターの効果も。かわいいキャラクターがいることで、小さいお子さんからも注目される機会も増えました」

全国浴場組合のマスコットキャラクター「ゆっポくん」。

 

グッズで企業とのコラボやタイアップも増えたとか。

 

「例えば常連さんからTシャツやステッカーを作ろうという話があるなど、店主だけでなく周りの人たちと一緒にグッズを作る取り組みは多いですね。ほかにも銭湯映画とのコラボや、化粧品会社からのシャンプーのタイアップなど、高頻度で企業とのコラボの話を耳にします。また、店主のお子さんやご家族がSNSを担当されるなど、SNSで情報を発信する銭湯が増えたのも、ここ数年で変化した点だと思っています」

 

銭湯デビューのために
押さえておきたいポイントとマナー

銭湯は常連さんばかりで初めてでは入りにくい……そう感じる人もいるでしょう。そこで、初心者が銭湯ライフを楽しむためのポイントとマナーを奥野さんに伺いました。

 

銭湯を楽しむポイント

・まずは「挨拶」。会釈だけでもOK
「銭湯は間違いなく、挨拶をした方が良い場所です。大きな声での挨拶が緊張する場合は、会釈だけでも大丈夫。挨拶することで、『慣れていない子が来たから何かあったら教えてあげよう』と思ってくれる常連さんも多いんです。そのためにもまずは挨拶することが大切です」

 

・わからないことは遠慮なく聞く
「例えば、桶が置いてある場所や勝手がわからないことってありますよね。そんなときは『すみません、桶はどこにありますか?』って聞いてみる。聞かれて嫌だと思うよりも、むしろ教えてあげたいという気持ちの常連さんが多いので、わからないことは実は“聞いた者勝ち”です。周りにどんどん聞いてみてください」

 

・基本は手ぶらでOK
「必要なものはレンタルや販売品などで用意されているので、基本は手ぶらで行けるところがほとんどです。また、髪を洗わなくても、大きな湯船に浸かってリラックスするだけでも十分です」

 

・近所の銭湯から行ってみる
「どこの銭湯に行けばいいか迷った場合は、まずは近所の銭湯に行ってみることをおすすめします。馴染みのある地域であれば、常連さんと話すときも、ご近所の話などができて会話が弾みますよね。仲良くなったらおやつを交換したり、お風呂上がりに飲みに行ったり、なんてことも。年齢問わず繋がりができるので、ぜひ近所から行ってみてほしいです。自分の住んでいる地域に居場所ができるうれしさもありますよ」

 

銭湯を利用する際のマナー

・浴槽に入る前に洗い場で体を洗う
まずは、洗い場に直行し体を洗ってから浴槽に入ると、周囲の利用者も気分よく使えそうです。

 

・泡や湯が周りの人にかからないようにする
「ほかのお客様に、自身のシャワーや石鹸の泡などが飛んでしまわないように気にかけていただけたらと思います。ただ、気を付けすぎていても疲れてしまうと思うので、万が一かかってしまったときは『すみません』と言えることが大事です。ちょっとした周りへの気遣いも銭湯の醍醐味として、楽しむ気持ちでいていただければよいですね」

 

・お風呂上がりは体を拭く
「それぞれの銭湯や地域によって、細かいマナーは異なると思いますが、お風呂上がりの濡れた体を脱衣場に入る前に拭くことは共通で抑えておきたいところ。濡れた体で脱衣場を歩いてしまうと、ほかのお客様に迷惑をかけることになるので、浴槽から上がったらその場でざっと体を拭く、ということだけ覚えておいていただけたらと思います」

 

銭湯がもっと好きになる!
一歩進んだ楽しみ方とは

銭湯に慣れてきたら、もっと踏み込んだ楽しみ方を見つけてみましょう。奥野さん流の銭湯を全力で楽しむためのアドバイスをうかがいました。

 

・交互浴で「ととのう」を体感する

「私は温かいお風呂と冷たいお風呂に交互に入る『交互浴』が好きなんです。体をじんわりと温めた後に冷たい水風呂に入ると、まるで自分の体がレタスのようにシャキッとする感じがします。この温度差によって生まれる心地よさは、家庭のお風呂では味わえないはず。先に述べたように、大きなお風呂に入るだけでももちろんメリットはありますが、温冷交互浴をセットで行うことで、何にも代えがたいリセット感が生まれますね」

 

・銭湯セットを数パターン用意する

「銭湯が好きになるとこだわりの銭湯道具も決まってくると思います。私は持っていく道具を何パターンか用意しているんです。試供品のシャンプーとリンス、薄めのタオルだけの超軽量セットもあれば、ヘアパックやシャンプーのボトルごと持っていくゴージャスなセットも。美顔ローラーを持っていかれる方もいます。時間がないときは軽量セットにし、しっかりとリラックスしたい日はゴージャスなフルセットで行くなど、いくつかのパターンで用意しておくと、銭湯を無理なく日常の一環として取り入れられるのではないでしょうか」

 

・グッズにこだわってみる

「銭湯グッズを軽量化するのであれば、手ぬぐいが軽くておすすめです。とはいえ髪や肌にやさしいのはやはりタオル。最近のお気に入りは三重県津市にある老舗タオルブランド『おぼろタオル』さんの商品。いくつか種類がありますが、中でも私が好きなのは『専身タオル』です。石鹸の泡立ちがよく、肌触りが心地よいのに、軽い! こうしたアイテムを探していくのも楽しみの一つです」

デリケートなお肌をやさしく洗い上げる。おぼろタオル「専身タオル」各1100円(税込)。

 

・銭湯で一気に打ち解けられるモテ台詞を言う

「最近、これは間違いないなと思っているモテ台詞がありまして。お風呂に入ったときに『あっつい!』などの感想を声に出してみると、近くにいる人と一気に打ち解けられるんです。『水で薄めようか』といってくださる方や、『熱いよね』と共感してくださる方、『こっちの方がぬるいよ』と教えてくださる方など反応はさまざまですが、この一言だけで話が広がります。そのあとは、『いつもこんなに熱いんですか?』と聞くと、常連さんは毎日のように入っているので張り切って教えてくれるはず。打ち解けやすい一言です」

 

・銭湯のチャームポイントを見つけてみる

「私は銭湯の内装やちょっとしたあしらいなど、アートな一面を観るのも好きなんです。有名なペンキ絵だけでなく、例えば小さな豆タイルでも、1枚だけ取り替えた部分がアクセントになっていてかわいいとか。『ここの銭湯のチャームポイントはなんだろう』と考えながら入るのが楽しみになっています」

 

銭湯大使がおすすめする
こだわり満載の銭湯 3選

最後に、奥野さんが愛してやまない銭湯の“名所”を、絞りに絞って3カ所、教えていただきました。

 

[東京]帝国湯 〜どこか懐かしい宮造りの銭湯〜

故早川利光絵師による富士山のペンキ絵が見事。そのほかのタイル絵にも注目を。

 

「“レトロ銭湯のドン”ともいえる銭湯神社仏閣のような建物の素晴らしさはもちろん、縁側から見える庭がとても素敵なんです。池では鯉が泳ぎ、四季折々の花が咲き、どの季節に行っても花やモミジが色づいています。熱めの湯でしっかり温まり、縁側でじっくりとクールダウンを。天井も高く広々とした洗い場はそれだけでも開放感がありますが、窓が開いている季節は風が抜けて心地良いですよ」

縁側は古き良き時代にタイムスリップしたような雰囲気。

 

帝国湯
所在地=東京都荒川区東日暮里3-22-3
TEL=03-3891-4637
入浴料=520円

HP

 

[神奈川]いやさか湯 〜露天風呂からの湯上がりメシが最高〜

洗練されたデザインで、神殿を訪仏とさせる女湯の露天風呂。

 

「浴室が広く、開放感があります。露天風呂もあり、男湯は岩風呂で女湯は洋風……私は『ローマ神殿風』と呼んでいます。湯だけじゃなく空にも癒されますし、サウナも人気です。また、おいしいごはんが食べられるのも魅力の一つ。2階の食堂では食事も可能です。おすすめは本格的な『深大寺そば』と、パウダースノーでできたかき氷。サウナ好きに人気の、オロナミンCとポカリスエットを割った『オロポ』のかき氷もあり、ふわふわの食感が楽しめます」

名物の「深大寺そば」は普通盛り600円。つるつるしこしこの喉越しが、風呂上がりに最適。

 

いやさか湯
所在地=神奈川県横浜市鶴見区馬場1-7-23
TEL=045-583-5161
入浴料=500円

HP

 

[北海道]まさご湯 〜旅先として行きたくなる銭湯〜

主浴槽のほか、バイブラジェットバス、薬湯の3つの湯が楽しめる。

 

「銭湯だけでなく、ラーメン店、さらにはゲストハウスという『食べて、泊まれる銭湯』です。所在地である浦河町は、太平洋と日高山脈に囲まれた自然豊かな町。サラブレッドの産地でもあります。代表の方は町内の自然ガイドツアーもされているので、長期滞在をしながら自然を楽しむ人も多いようです。
銭湯は多くの人の近所にある日常空間。だからこそ、知らない町の銭湯に行くことで、その町の日常にぐっと近づくことができるんです。札幌からバスで約3時間45分と移動時間はかかりますが、わざわざ目的地にしていきたい銭湯の一つです」

2階はゲストハウスに。地域の廃材をリユースした空間が心地良い。

 

まさご湯
所在地=北海道浦河郡浦河町堺町東1-11-1
TEL=0146-22-2645
入浴料=490円

HP

 

 

レトロな外観の銭湯にごはんが充実している銭湯など、どこも個性豊か。お気に入りの銭湯をぜひ探しに出かけてみませんか。

 

Profile

東京都浴場組合 銭湯大使 / 銭湯OLやすこ(奥野靖子)

東京都浴場組合および札幌浴場組合公認ライター。北海道出身で、東京都在住の会社員。「銭湯はもう一つの我が家」とし、銭湯での人とのかかわりを楽しみながら、日本各地の銭湯を巡っている。女性会社員視点でのブログ「銭湯OL日誌」を2013年に開設。以降、TV・雑誌・ラジオ・Webメディア等で銭湯の魅力を紹介している。
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