2023年10月下旬、オーストラリアで「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」(以下、BWSC)が開催されました。通常隔年で開催されている大会ですが、コロナ禍による大会中止もあり、今大会は4年ぶり。全世界20以上の国から大会を待ちわびていた約40チームが参戦する大会となりました。
過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を獲得してきた東海大学は、大きなアクシデントを乗り越え総合5位で完走。さらに公正かつ紳士的な姿勢が評価されデイビット・ヒューチャック賞を受賞するという、大きな成果を残しました。
「優勝を目指していたので悔しさは残ります。でも攻めた結果、無事ゴールできたのはうれしい」と語ってくれたのは、学生代表の宇都一朗さん。今回は、2023年の大会を終えた東海大学のソーラーカーチームに大会の感想と今後の目標、そして決意を伺います。
気象変化や大きなトラブルを乗り越え、
無事完走できたことがなによりの喜び
BWSCは、オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線距離3020kmを、太陽の力だけで5日間走り続ける大会です。世界最高峰のソーラーカーレースと言われており、世界各国の大学や企業など多くの団体が集結します。
これまで数々の試練を乗り越えてきた東海大学のソーラーカーチーム。優勝も期待されるなかで迎えた4年ぶりの大会でした。ところが、ゴール目前でリタイアを検討するほどの大きなトラブルが発生。それを決死のチーム力で乗り越え、無事総合5位という好成績でゴールを切りました。
今大会はコロナ禍で2021年大会が中心になったことも影響し、初参加となった学生が大半を占めていたといいます。工学部3年生の小平苑子(そのこ)さんは、初めてのBWSCを次のように振り返ります。
「国内の大会には参加していましたが、世界大会は初めて。初めて見る車体や技術に触れて、素直に、世界は広いんだなと実感しました。オーストラリアをたった5日で縦断するので、環境の違いにも驚きました。いろいろなトラブルもありましたが、無事ゴールできたことが本当にうれしかったです」(小平さん)
大会時に司令車から学生たちの活躍を見守っていたのは、チームを統括する木村英樹教授。大会全体を通じて、まず気象面での変化を実感したそう。
「今大会は、前半戦の日照量が少なく全体的に記録が悪くなったチームが多かったですね。完走できなかったチームも少なくありません。ソーラーカーレースは、気象条件に左右される大会ですが、今年は気象の他にもブッシュファイヤー(森林火災)の影響もありました。天気予測のために衛星映像を確認するのですが、火災による煙で黒い雲が発生していたんです。煙によって太陽光が遮られるため発電量は減りますし、道路に迫るほどの距離に炎が届く場所もあったほど。地球温暖化の影響を肌で感じる、そんな大会でもありました」(木村教授)
そう今大会の“難しさ”を総括してくれました。では今大会でチームが目にしたものとは?
BWSCを象徴する
“リスペクト文化”
BWSCでは、意外にも参加チーム間の交流が盛ん。大会後には、ユニフォーム交換まで行われるそう。とくに東海大学のユニフォームは各国の学生から「交換してほしい」と大人気になるほど。ライバル同士であるはずの学生たちを結びつけるのは、お互いを尊重する「リスペクト文化」だといいます。
「コミュニケーションが盛んなことも、BWSCの魅力だと感じます。大会中はピットで作業することが多かったのですが、それでも5〜6チームと交流して、個人のSNSのアカウントを交換することもできました。初めての大会でしたが、世界中にソーラーカーが好きで、一緒に頑張っている仲間がいるのは素敵なことだなと感じています」
そう語るのは、チームの機械班リーダーを務める、工学部4年の小田侑斗さん 。また、今大会のチームを率いた工学部の福田紘大教授は過去の傾向と比較しながら教えてくれました。
「最先端の技術が集まる大会なので、正直、過去にはペナルティ合戦になっていた部分もありました。東海大学では、一貫して『フェアにいこう、技術もオープンにしていこう』、そんな精神で取り組み続けていたので、それがデイビット・ヒューチャック賞受賞にも繋がったのだと思っています。コロナ禍で大会が中止になったことで世代が一新されたこともあり、『もうそういうのはやめようよ』と、大会全体がポジティブな雰囲気に変わっていったのもあるかもしれませんね」(福田教授)
お互いの良いところを認め合い、仲間とともに切磋琢磨する。BWSCはこれまで以上に未来をつくり、技術と心を育む大会へ発展しているのかもしれません。
進化はまだ終わらない?
ソーラーカーは最先端技術の結晶
また、BWSCでは、優勝チームが技術を惜しみなく公開するという文化も根付いているそう。今回2連覇を達成したベルギーのInnoptus Solar Teamが優勝した要因はどこにあったのでしょうか? 佐川耕平総監督(工学部講師)に伺いました。
「BWSCは、技術力を競うだけでなく情報戦も行われています。大会ごとに高い技術力を発揮するだけでなく、ソーラーパネルやバッテリーに関わる最新情報やトレンドをどこまで取り入れるかも、重要な戦略になります。今回優勝したInnoptus Solar Teamは、技術だけでなく情報面、資金面でも優れていると痛感しました。もはや軍事レベルと言っていいほどの高い技術が集約されていたので、その情報を知ることができたのは大きな収穫と言っていいでしょう。
彼らの勝因をどう活かすか、また私たちがどこまで反映できるのか、そこに今後がかかってくると思います。次の大会まで2年、というと長そうですが、実は意外と時間がないのです。一度すべてを疑って、改善すべきところは改善し、いいところもより高めるためにはどうしたらいいか検討し、さらなる高みを目指していきたいです」(佐川総監督)
1996年の大会から参加してきた木村教授は、ソーラーカーの魅力を次のように語ります。
「20年以上ソーラーカーの進化の過程を見ていますが、『これが限界かな?』と思えば新しい技術が出てきて、面白いほどに進化が止まる気配がありません。ソーラーカーの技術ってなかなか限界が来ないんですよ。アスリートが次々と新記録を塗り替えていくように、ソーラーカーの進化も日々限界突破していく、そんな部分に魅力を感じます」(木村教授)
向かうは2025年!
かけがえのない経験を次の世代へ
大きな収穫があっただけに、2025年に行われる次回大会に向けての意気込みは強いものがある様子。最後に、これからの目標を聞きました。
「2019年に次いで2回目となる大会でしたが、今回はゴール地点に家族や友人が待っていてくれて、とてもうれしかったです。またともにレースを戦った仲間、日本からレースを支えてくれていた仲間たちにも感謝したいですし、帰国後もたくさんの励ましや応援の言葉をもらえて、一生の思い出に残る大会にできたと思います。うれしいことだけでなく、レースの過酷さは経験してみないとわからないこと。今回、写真や動画でたくさんの記録を残してきたので、次の世代にも『何もかもが過酷だぞ! でも楽しいぞ!』ってことを伝えていきたいですね」(宇都さん)
「自分たちが作ったソーラーカーで3000kmを走り切る……そこに携われただけでも大きな意義のある大会でした。次の世代へは、経験することでしか得られない緊張感や雰囲気を、言葉にして伝えていきたいです。僕はレース前の車検を担当したのですが、ここを通さなければレースに出られないという、今まで経験したことのない緊張感を味わいました。身をもって経験したことを次の世代へ受け継いで、知識として役立ててもらいたいです。そして次の大会では、どっしりとかまえられる自分でいたいと思います(笑)」(小田さん)
「太陽の力だけで走るってあらためて凄いことだと実感した大会でした。ソーラーカーは、SDGsなど未来を支える技術にも関わってきます。BWSCに参加して、私も社会貢献できる一員になれるかもしれない、そんな気持ちを抱くことができました。レースにおいては『自分たちが作る車体が一番だ』と自信を持つことも大切ですし、勝つ経験を積み重ねていくことの大切さを得ることができました。経験値を高めて、2年後の大会でリベンジを果たしたいです」(小平さん)
「ソーラーカーの大会に参加している人の多くが、学生などの若者です。新しい技術に若者たちが挑戦している、そしてリードしていると思うとワクワクしますし、あらためて素晴らしい大会でした。東海大学ソーラーカーチームを卒業して社会人になった若者の多くが、ここでの経験を活かして空飛ぶ車や電気自動車など、“未来をつくる仕事”に就いています。ソーラーカーの技術はきっと学生たちの未来を育む武器になる。挑戦であり大変な戦いであるBWSCに、今後も学生たちとともに挑み続けていきたいですね」(福田教授)
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次の大会は2025年! 残り2年で、東海大学のソーラーカーチームはいったいどんな進化を遂げるのでしょうか? 技術の進歩や環境変化にも対応しながら、どんな未来を描いていくのか、今から楽しみになる取材でした。@Livingでは引き続き、その活躍を追っていきます。
Profile
東海大学ソーラーカーチーム
大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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