フランスにはアートの国らしい優れたデザインの文房具がたくさんあります。でも、同国で「使いやすい」と高く評価されているのは、細部への配慮がなされている日本製品。日本の文房具を専門的に取り扱うオンラインショップやセレクトショップが増えていたり、日仏のコラボ製品も登場したり、フランスでは日本製文房具への注目度が上がっています。なぜなのでしょうか? 現地からレポートします。
知る人ぞ知る日本の文房具
フランス在住の日本人の筆者が、日本製文房具の中でも特に優れていると感じるのは消しゴムです。フランスの消しゴムは日本製と比べて跡が残りやすく、消しゴムのカスが散らばってしまうことがしばしば。質が悪いものだと、余計に汚くなってしまうこともあります。
「小学生たちが困るのではないか」と思いますが、実はフランスでは小学生から万年筆やボールペンを使用するため、あまり消しゴムの需要がありません。しかしその一方で、美術専攻の学生やアート関係の仕事をしている人には消しゴムが必需品です。
フランスでアニメーションに特化した文房具を販売しているアダム・イーショップは、人気の消しゴムとしてトンボ鉛筆の商品を紹介。「トンボ鉛筆の日本製消しゴムはスムーズに消すことができる!」と絶賛しています。
しかしながら、購入する人たちがトンボ鉛筆の消しゴムは日本製だと知っているかどうかは疑問。日本のメーカーといえば、トヨタ、ソニー、ユニクロなどは有名なものの、文房具メーカーは意外と知られていません。
調査会社のXerfiによれば、フランスの筆記具はフランスのビック社と日本のパイロット社が独占しているとのこと。事実、フランスではパイロット社のボールペン「フリクション」が爆発的にヒットしました。
上述したように、何十年もの間、万年筆が学童用品の必需品だったフランスでは、1972年に学校でボールペンを使用することが認められました。しかし万年筆は廃れることなく、ボールペンとうまく共存してきたのです。それでもフリクションが台頭したことから、万年筆の売り上げは近年大きく落ち込んでいる模様。
とはいえ、トンボ鉛筆と同様にフリクションも日本で開発されたものだと知らないで使っている人が多く、「えっ! パイロットって日本のメーカーなの?」と驚かれます。フリクションはスーパーの棚に並ぶほど有名になったのですが……。
日本製の文房具といえば、フランス人は可愛い系やアニメのキャラクターなどを思い浮かべるようです。ちなみに2023年9月の新学期に小学生に人気だった通学用のカバンは、ドラゴンボールZやポケモンの柄でした。
一般的な認知はまだまだなものの、文房具が好きなフランス人は日本製の品質を高く評価しているため、近年は日本の物を専門に扱う店のパペトゥリー・マックラやラ・ジャパペトゥリーなどが登場しています。日本製の文房具は「創造性とインスピレーションを駆使してデザインされている」と絶賛され、ノートや和紙テープ、メモ帳、ペン、消しゴムなどが人気です。
専門店以外でも、ハンコやシールなどを販売するセレクトショップもあります。例えば、パリのプロダクトブランドであるパピエ・ティグルでは、オリジナルグッズのほか、日本の文房具ブランド・MIDORIの製品などを取り扱っています。パピエ・ティグルは東京にも店舗がありますが、創設者は日本をリスペクトしていたそう。なぜならフランス人はデザインには敏感なものの、日本のように「紙」を重視する文化がないため。紙が持つ繊細さや折り畳み方、包装の文化を賛美していたといいます。
その紙は、フランスをはじめヨーロッパの文房具市場で2024年の重要なキーワードになりそう。2023年10月にドイツで開催された国際見本市・インサイツXでは、今年の文房具分野に影響を与えるトレンドが紹介され、その主役は紙であることが発表されました。
すでにフランスでは、日本の紙製品が高く評価されています。例えば、大成紙器製作所のノート「PAD NOTE」は、パリの有名なセレクトショップの一つ、メルシーのオーナーが自ら使ってファンになり、メルシーのロゴ入りノートを作ることになりました。
また、同じくパリで販売されている同社のノートの表紙には、日本とフランスから2人ずつ選ばれたアーティストによるイラストが描かれています。
和紙、書道、折り紙など、日本の文化では紙が重要な位置を占めており、今年はフランス文房具業界とさらなるコラボレーションが生まれる可能性がありそうです。
執筆・撮影/Lambe