ミキサーは、現代の日本で必ずしも生活必需品とはいえませんが、ネパールでは急速に普及している家電です。ネパール料理にはスパイスが不可欠で、スパイス作りの道具はこれまで石の台の「シロウタ」が主流でしたが、今日ではそれがミキサーに変わりつつあります。ネパールでミキサーはどのように役立っており、どこの国の物が使われているのでしょうか?
伝統と革新
ネパール人は毎日、シロウタでスパイスやニンニク、唐辛子などを潰します。同様に、ネパールの定番料理であるダルバートに添えるアチャール(チャツネ)という酸っぱ辛いソースもシロウタで作ります。
ところが最近では、このシロウタの代替品としてミキサーがよく使われるようになりました。ネパールのミキサーはミル付きであることも多く、スパイスを潰すのにとても便利なのです。
ネパール人は家族が多く、客をもてなすことを大切にするため、たくさんすり潰さなくてはならない場面が少なくありません。そのため、ミキサーは次第に市民権を得つつあるのです。この調子でいけば、いずれは一家に一台は必要な家電になるのかもしれません。
とはいえ、いまのところシロウタは、ミキサーを使っている家庭にもあることが多く、存在感を失っていません。シロウタとミキサーが共存しているのは、それぞれに良いところがあるからでしょう。
そこで、シロウタとミキサーの特徴を比較してみました。
【シロウタの特徴】
台となる大きな石と、手に持ってすりこぎのような役割をする小さな石を使う。木や金属など他の材質のものもある。
<長所>
・購入せずとも自分で材料を拾って加工することもできるため、安価もしくは無料
・故障などなく長持ちする
・すぐに手軽に使える
・手入れが楽
・スパイスに独特な味わいが出るといわれる
<短所>
・大量のすり潰しには向いていない
・手作業のため時間と労力がかかる
【ミキサーの特徴】
ネパールではミキサーとスパイス用のミルをセットにした物が売られている。
<長所>
・大量のスパイスをすり潰すのに便利
・体力を使わなくて済む
・時間を大幅に短縮できる
<短所>
・1000円足らずから購入できるものの、シロウタと比べると高価
・故障の際は修理にお金がかかる
・コンセントにつながなくてはならず、調理場が屋外の場合や停電時は使えない
・シロウタに比べ洗うことや手入れに手間がかかる
このように、手軽さや価格面ではシロウタが勝り、作業にかかる時間や労力面ではミキサーが勝ります。そのため、大量のすり潰しの時にはミキサーを、それ以外ではシロウタをと分けて使っている人も見かけます。
人気はインド製。日本製は…
現在のネパールでよく見かけるのは、中国製、インド製、ネパール製のミキサー。価格は、中国製の物は手ごろで、インド製は高めです。でも、TulipやBaltra、 FAMOUSなどのインド製、またCGやDiamondなどのネパール製を求める人が目立ちます。一般的に「中国製の家電は壊れやすく、インド製は丈夫」というイメージがあるからでしょう。
また、日本人にも馴染みがあるメーカーでは、パナソニックなどの物が販売されていますが、かなり高級品といえそうです。
日本ではスムージー用に携帯できる充電式のミキサーも見かけますが、ネパールは停電大国で、調理場の手軽な位置にコンセントがないことも多いので、充電できるミキサーが販売されれば重宝されると思います。
日本製のクオリティの高さは、日本製家電が簡単には手に入らないネパールでも認識されています。もし日本製で手ごろな価格のミキサーがネパールで売り出されたら、ネパール中の家庭のキッチンで日本製ミキサーが活躍することもあるかもしれません。
執筆・撮影/Yui.N