昨年末、G1レース6連勝を誇り最強馬とも言われたイクイノックスの引退に驚かれた競馬ファンも多いでしょう。毎年たくさんのドラマを見せてくれる競走馬も必ず「引退」します。そんな引退した馬がどうなるかご存知でしょうか?
『ボス猫メトとメイショウドトウ』(佐々木祥恵・著/辰巳出版・刊)は、引退馬が穏やかに余生を過ごせる北海道の牧場ノーザンレイクでの日々が記録されたフォトブック。この牧場のスタッフ、そして競馬ライターとしても活躍されている佐々木祥恵さんの文章が沁みます……。今回は、かわいい写真にほっこりしながら引退馬についてもじっくり考えたくなる『ボス猫メトとメイショウドトウ』をご紹介します。
牧場を開場した3日目に現れた、ボス猫のメト
『ボス猫メトとメイショウドトウ』の表紙から馬と猫の仲の良さが伝わってくるのですが、なんとこのメトさん、突然この牧場に現れたネコだったそう。
突然現れたその猫は、堂々と厩舎の廊下を闊歩して、私の目を真っ直ぐ見据えて大きな声で鳴いた。まるで仲間に入れてくれと訴えているようだった。去勢されていたので、以前は飼い猫だったのかも知れない。
(『ボス猫メトとメイショウドトウ』より引用)
運命的な出会いから、メトという名前がつき、馬や人間と仲良く過ごすようになったのだとか。メトはSNSでも大人気で、昨年には猫雑誌「猫びより」にも掲載されるほど! 『ボス猫メトとメイショウドトウ』の中でも、堂々とした態度が本当にかわいく、放牧地の中をお散歩したり、馬の背中に乗ったり、夜の厩舎を巡回したり、馬に猫吸いされたり(笑)、微笑ましい姿がたくさん掲載されています。
写真を見ていると引退馬に会いたいな〜なんて思ってくるのですが、馬はとっても臆病な性質のため、しっかりとルールを守って見学することが大切です。「競走馬のふるさと案内所」というウェブサイトにも詳しく詳細が書かれてあるので、よ〜く確認した上でお邪魔するようにしましょうね!
引退馬が穏やかに暮らす牧場、そして馬を看取るお仕事
たくさんの写真が掲載されている『ボス猫メトとメイショウドトウ』ですが、写真とともに佐々木さんの文章が綴られています。その中で、とっても驚いた文章がありました。
引退後、メイショウドトウやタッチノネガイ、アシゲチャンのように余生を送れる馬もいるが、多くは食肉用として屠畜に回る。乗馬として働けなった馬もほぼ同様の道を辿る。
(『ボス猫メトとメイショウドトウ』より引用)
牧場で穏やかな日々を過ごしたり、種牡馬として後世に遺伝子を残したりできる馬はほんの一部。その多くが肥育場に送られ馬肉になるのです。「え、お肉になるの!?」と私の中でいろんな感情が巡ってしまいました。
まだ整理ができていないくらいなのですが、まずはこの事実を知ることができてよかったと思います。良い・悪いということではなく、余生を過ごせる馬を一頭でも増やしたい、引退馬たちのことも知ってほしい、と自分なりに考える時間ができたからです。
ノーザンレイクにいる馬たちは、さまざまな事情からこの牧場にたどり着いています。ただし共通しているのは、この牧場で看取ってもらえるということ。レースで力を振り絞り、5〜6歳という若さで引退、種牝馬や繁殖牝馬として頑張った後、25〜30年ほどでその生涯を終える馬。同じ命あるものとして、生涯をともに過ごせる場が増えてほしい、支援していきたいと強く感じました。
フォトブックの売上の一部は、引退馬たちに使われる!
現実を知り、なんとかしたいと思っても、今日、明日で引退馬の環境を劇的に変えることはなかなかできません。飼育する場所や経費、人だって必要です。これまでクラウドファンディングやSNSでの呼びかけによって、少しずつ引退馬への支援が広がってきています。
『ボス猫メトとメイショウドトウ』を通じて、引退馬たちの余生を過ごせる場所を増やしてあげたい! と思ったら、さまざまな方法で支援することが可能です。『ボス猫メトとメイショウドトウ』の売上の一部も、ノーザンレイクで暮らす馬たちのために使われるとのこと。
写真を見るだけでも癒されちゃいますが、『ボス猫メトとメイショウドトウ』を読み終わった後、心に残る思いは本当に大切にしてほしいなと感じます。私もできることから……と、微力ですが認定NPO法人 引退馬協会に寄付してみました。いつの日か馬と人間が穏やかに暮らせる、そんな世界になったらいいな〜と思わせてくれる1冊です。
【書籍紹介】
ボス猫メトとメイショウドトウ
著者:佐々木祥恵
発行:辰巳出版
大人気のG1ホース・メイショウドトウをはじめ、5頭の競争引退馬たちが暮らす北海道新冠町の引退馬牧場・ノーザンレイク。牧場の窮地を救ったのはなんと1匹の猫! 突如現れた茶白のオス猫・メトは、牧場内での暮らしを謳歌し、馬たちとの交流を楽しみ、馬の背や人の肩に乗るのが大好きな自由猫。その愛らしさで多くの人を虜にし、ノーザンレイクをたくさんの人に愛される牧場へと導いています。メトと馬たちの交流を感じられる撮りおろし写真の数々から、ノーザンレイクで日々馬たちを世話する著者が綴る猫、馬たちのエピソード、メトの日常から引退馬についてまでを知ることができる充実の内容です。今は亡きプリサイスエンド、タイキシャトルも登場。