物騒な事件をニュースなどで頻繁に耳にするようになりました。旅行や出張などでいつもより長く自宅を不在にした際、「空き巣に入られていない?」「帰宅して、侵入者と鉢合わせしてしまったら?」など、不安を感じることがあるのではないでしょうか? とくに空き巣に狙われやすい秋の行楽シーズンや、夏・年末年始の帰省時には、事前の対策が大切です。
いま、住宅の防犯システムの分野でもにわかに注目されているのが「スマートホーム」。家のなかの家電や設備をインターネットに常時接続することで、自動化したり遠隔操作したりできるようにする仕組みです。
家を空けることが多いひとり暮らしなら、なおさら備えておくと安心。この「スマートホーム」による防犯対策について、警視庁から捜査協力の依頼を受ける防犯のプロであり、自宅でも実際に延べ300を超えるスマートホームデバイスを試しているという、公益社団法人 日本防犯設備協会 防犯設備士委員会 副委員長の松尾たけしさんにうかがいました。
この後編では、自宅の“スマートホーム化”による防犯対策を具体的に解説いただきます。
犯罪を諦めさせる!
「スマートホーム」で行う先回りの対策
前編でもお伝えしたように、共同住宅や賃貸物件で大掛かりな防犯設備を後付けすることは難しいですが、原状回復しやすい防犯デバイスであればDIYで設置することが可能です。
そこでおすすめしたいのが、自宅の「スマートホーム」化。家を留守にしていても、外出先から家の状況をスマートフォンで確認・操作したり、自動でオンオフさせたりするなど、ひとり暮らしの強い味方となってくれます。
スマートホームとは?
「ひとことで言えば、インターネット回線を使って、自宅の家電やデバイスの状態を確認したり操作を行ったりするものです。具体的には、家電を動かすための赤外線を発信できるIoT(Internet of Things(モノのインターネット)の略)リモコンを自宅のWi-Fiと接続することで、外出先のスマ-トフォンから自宅の家電を操作できるようになります。電池式のデバイスはWi-FiではなくBluetoothで接続するため、それを外出先から操作するためには『ハブ』という中継器が別途必要になります」
手に入りやすい価格で、かつ取り付けも簡単なものが増えているそう。
「インターネットの普及やIoT機器の進化により、家電やセンサーなどのデバイスを手軽にスマートフォンに接続し、一括操作できるようになりました。また、普及にともない価格も安価になってきました。たとえば、窓や扉の開閉を知らせてくれるセンサーは、ハブと組み合わせても数千円程度と手頃な価格で、しかも両面テープで貼るだけなので取り付けも簡単です」
ただし注意点も。
「家庭用のWi-Fiルーターは同時接続が30台程度しかできないものも多いため、DHCPというIPアドレス自動取得機能を使う場合、スマートホームデバイスを買い過ぎるとIPアドレスを奪い合って、接続ができなくなる場合がある点に注意が必要です」
ひとり暮らしのスマートホーム化
まず何が必要?
スマートホームの構築に向けて必要なものを見てみましょう。
・自宅のWi-Fi環境(ただしスマートホーム機器は5GHzに非対応なものが多いので注意)
・スマートフォン(OSの種類や世代によってはアプリが非対応な場合もあり)
・ハブ(IoT赤外線リモコン)やWiFi接続可能なスマートホームデバイス
・赤外線リモコン付き家電やBluetooth接続のスマートホームデバイス
「AC100V電源で、自宅のWi-Fiに直接接続が可能な防犯カメラや、コンセント、LED電球などは、それ単体ですぐに外出先からの監視や操作が可能です。
一方、電池式のスマートホームデバイス(玄関錠やカーテン開閉ロボット、ドア開閉センサーなど)は、電池の消費を抑える目的からBluetooth接続(電波飛距離約10m)しかできませんので、外出先から確認・操作したい場合はWi-Fiに接続されたハブを中継して行う必要があります」
電池式のBluetoothデバイス設置に必要な「ハブ」って?
「電池式のBluetoothデバイスは、直接Wi-Fiに接続することはできません。そこで、ハブとよばれる中継器を間に入れてインターネット接続を行います。ハブの多くは赤外線リモコン機能を有し、登録したエアコンやテレビ、照明といった家電を外出先から操作できます。
温度・湿度センサーや、スケジュール(週間タイマー)機能を備えた製品も多く、そうした機能を活用して家の照明や家電を自動的にオン/オフさせれば在宅を装うことが可能です。
ただし、赤外線信号が操作したい家電に届くようにハブを遠くに離し過ぎず、また遮蔽物がないように設置する必要があります。また、赤外線信号は学習できますが、FM信号などは学習することができませんので、操作したい機器のリモコンがFM信号の場合は注意が必要です。AIスピーカーと組み合わせれば、声で操作することも可能になり大変便利です」
空き巣対策に導入すべきスマートホーム機器
空き巣対策には、どんなスマートホームデバイスが有効なのでしょうか? 松尾さんは、長期不在時の空き巣対策には、以下の2つの視点でデバイスを揃えることができると言います。
・居留守ならぬ留守居(本当は居ないが居るふり)を装う
・侵入しようとする泥棒を威嚇する、もしくはリアルタイムで検知し、通報する
■ “留守居”で空き巣のターゲットになるのを防ぐ
実際は不在だが、スマートデバイスを使って“居る”ふりをすることで、空き巣のターゲットになるのを防ぎます。
1【スマート電球】タイマー(スケジュール)で照明のスイッチ管理が可能
「Wi-Fiに接続可能なスマート電球を使用すれば、リモコンがない照明器具でも外出先からスマホで照明のオン/オフができます。スケジュール機能を使って、毎日決まった時刻に自動でオン/オフさせることも可能。夜間に自宅が暗い状態が続くと不在を悟られてしまいますが、照明がつけば在宅を装えます」
2【スマートインターホン】外出先から来客に応答
「スマート電球のスケジュールによって照明がついていても、不在確認のためにインターホンを鳴らす泥棒もいます。スマートインターホンを利用すれば、外出先からでもスマートフォンでインターホンの呼びかけに応答可能。即時応答できれば、空き巣狙いの抑止力になります」
3【スマートカーテン】留守中も朝晩、自動で開閉
「スマートカーテンを利用すれば、不在時でも自動でカーテンの開閉ができるため、在宅を装うことができます。スケジュール機能や明るさで開閉のタイミングをあらかじめ設定することもできるので、旅行先で楽しい時間を過ごしているときに、開閉のし忘れを気にする必要はありません。ただし、カーテンレールが傷んでいるとうまく動作しない場面があります」
■ 侵入しようとする泥棒を威嚇する、もしくはリアルタイムで検知し、通報する
自宅が空き巣のターゲットになり、侵入されそうになった場合に役立つのが、通知機能のあるスマート防犯カメラ。即座に侵入者を検知し、動画で確認、音声や警告音により威嚇したり、撮影動画を警察に証拠として提出したりすることができます。
1【スマート防犯カメラ】侵入者をリアルタイムで確認
「動体検知機能と通知機能をオンにすれば、撮影画面内で何かが動いた瞬間にスマホへ通知が届きます。スピーカーを内蔵した製品が多く、スマホのマイクを介して侵入者に話しかけることもできます。最近は、犯人が防犯カメラの存在に気付いた上で犯行を行うケースも珍しくなく、侵入してすぐに防犯カメラを破壊したり向きを変えたりすることも。しかし、メーカーオプションの有料クラウドサービスに申し込めば、記録画像が常時クラウドにバックアップされるので、カメラを壊されてもその直前の画像がクラウド上に残る場合があります。外出先から記録画像を再生する際、製品によっては人体検知、動体検知がタイムライン上に表示されるため、簡単に検索できます。
そのほか、動きのある物体だけを追尾して撮影する自動追尾機能を搭載したものや、ID&パスワードが漏洩してアカウントが乗っ取られそうになっても2段階認証でブロックがかけられるものなど、さまざまな機能を搭載した製品があります。
夜間でも鮮明な映像を映し出すには、赤外線LED灯や高性能なレンズ、高解像度の撮像素子などが必要なため、買った後で『あまりキレイに映ってない』とならないためにも、撮影場所に応じた機器選定が行える防犯の専門家からアドバイスを受けるようおすすめします」
2【Bluetooth開閉センサー(扉・窓用)】侵入を見逃さない
「開閉センサーをドアや窓に両面テープで取り付けるだけ(※)で、ドアや窓が開いた瞬間にすぐさまスマートフォンに通知が届き、侵入者に気づけます。また、防犯カメラや照明を連動させることで、扉が開いたら自動的に撮影する、照明をつけるといった運用もできるようになります」※ 別途ハブが必要です。
3【Bluetooth人感センサー】人の動きを検知し知らせる
「人感センサーでその空間に入った人の動きを検知します。不審者を検知した瞬間にすぐさまスマートフォンに通知が届きます。屋内カメラと一緒に使用すれば、不審者を検知した際に自動で撮影することも可能です。スマ-トフォンから音声で泥棒に警告を送る音声機能付きのセンサーもあります」
編集部が選んだ
スマートホームセキュリティアイテム 5選
製品の機能や価格、使い勝手などを考慮し、スマートホーム初心者でも導入しやすいアイテムを紹介します。
1.すべての家電をスマホ1つで操作する「スマートリモコン」
Nature「Nature Remo 3(ネイチャー リモ 3)」
9980円(税込)
IoT機器の開発製造を行う日本企業、Natureのスマートリモコン。赤外線の届く範囲が10mと広く、部屋の広さや設置場所を気にせず使えます。また、温度、湿度、照度、人感の4種類のセンサーを搭載しているため、人が近づいたら照明をつけるといった自動化が可能です。
2.360°首振り!クリアな画像で細部まで映す「防犯カメラ」
TP-Link「パンチルト ネットワークWi-Fiカメラ Tapo C200」
3490円(税込)
低価格ながらも自動追尾機能を備え、フルHDで撮影できます。自宅のWiFiに直接接続可能なので、これ1台で外出先からスマートフォンで映像と音声を確認することができます。動体検知も行うことができるので侵入者を検知した瞬間に、スマートフォンにすぐ通知が届きます。オプションとしてクラウドサービスも用意されています。低照度環境でも撮影できる「ナイトビジョン」に対応しているので夜間の録画も可能ですが、屋外に設置する場合は屋外仕様のモデルを選びましょう。
3.ドアや窓の開閉を検知する「開閉センサー」
SwitchBot 「SwitchBot 開閉センサー」
2980円(税込)
貼るだけの簡単設置でドアの開閉状況を確認できます。ハブと連携すれば、開錠時にスマートフォンに通知が届きます。また同社の防犯カメラと連携することで、開錠された時点で防犯カメラを起動し録画します。
4.玄関に人が入ったら知らせる「人感センサー」
SwitchBot「SwitchBot 人感センサー」
2980円(税込)
卓上に置いたり、壁や天井に貼ったり、あるいはマグネットが内蔵されているので冷蔵庫へ設置したりすることも可能です。不審者を検知するとスマホへ通知が届きます。同社の防犯カメラと一緒に利用すれば、検知した不審者を自動で撮影できます。
5.簡単に“留守居”を装える「スマート LED ランプ」
TP-Link「スマート調光LEDランプ Tapo L510E」
2100円(税込)
単独でWiFi 接続が可能なため、ハブの必要がありません。スマートフォンでアプリを使って外出先から遠隔操作できます。価格もお手頃なので、まずはスマートデバイスを試してみたい方にぴったりのアイテムです。スケジュールやタイマー設定も可能です。
スマートホームと聞くと、何だか大掛かりで設置がむずかしい印象を受けますが、工事不要で取り付けでき、WiFiにつなげるだけで自動的にマッチングする製品も多く、意外とセッティングは簡単です。スマートホームを構築できれば、ひとり暮らしの強い味方になります。まずは導入しやすいスマート電球から試して、自宅のセキュリティ強化を図ってみましょう。
Profile
総合防犯設備士 / 松尾たけし
公益社団法人日本防犯設備協会 防犯設備士委員会副委員長 総合防犯設備士。カギと防犯設備、およびスマートホームに関する総合的なサービスを行う、株式会社目黒ロックサービスの代表取締役社長。公益社団法人日本防犯設備協会では防犯設備士テキストの編集に長年携わり、古今東西の防犯設備機器に精通している。本業では「安心してお客様に薦められる」商品のみを提供するべく、新製品はまず自宅に設置して徹底的に検証を行う。