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ヘッドホン
2017/7/18 17:30

繊細で広大な音空間が楽しめる! アコースティック・リサーチ初の平面型ヘッドホン「AR-H1」誕生秘話

Acoustic Research(アコースティック・リサーチ)は、小さな筐体で大型機なみにパワフルな重低音を再生する独自のスピーカー技術を武器に、アメリカで成長を遂げてきた老舗オーディオブランドです。日本のポータブルオーディオファンには、2015年に国内でも発売されたハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤー「AR-M2」が最もなじみ深い製品かもしれません。

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↑AR-M2

 

そのアコースティック・リサーチがブランド初のヘッドホン「AR-H1」を正式に発表しました。7月15日・16日に開催されたポタフェス2017の会場で、さっそく試聴された方も多くいるのではないでしょうか。

↑Acoustic Research初のヘッドホン「AR-H1」
↑Acoustic Research初のヘッドホン「AR-H1」

 

本機が誕生した経緯と、ほかのヘッドホンにはない特徴についてVOXX International社でアコースティック・リサーチのブランドを担当するエリック・スー氏に聞いてみました。

↑VOX InternationalでAcoustic Researchを担当するエリック・スー氏(右)とレイモンド・チャン氏(左)
↑VOX InternationalでAcoustic Researchを担当するエリック・スー氏(右)とレイモンド・チャン氏(左)

 

平面駆動方式とは?

AR-H1の最も大きな特徴は、平面駆動方式というユニットの動かし方にあります。同方式を採用するヘッドホンは一般的に「平面型ヘッドホン」とも呼ばれ、板状のフラットなかたちをした振動板が搭載されています。平たい振動板に埋め込んだコイルに電気を流して、生まれる電磁力で振動板を動かして音を鳴らす仕組みです。

↑AR-H1の振動板。コイルは片側だけに配置して軽量化を図った
↑AR-H1の振動板。コイルは片側だけに配置して軽量化を図っている

 

ドーム型の振動板を搭載するダイナミック型ヘッドホンに比べて、平面駆動方式の場合は入力された信号に対して振動板の全面が一律に動くため、歪みのないスムーズな音を出せることが技術的な長所であるといわれています。反対に平面型の振動板の課題は能率が低く、鳴らしにくいことであるとされていますが、これを克服するための技術にも各社の腕の見せどころがあります。

 

平面型振動板の開発と製造には独自の高度な技術が必要であったことから、これまではヘッドホンブランドもハイエンドモデルを中心に採用したり、あるいはプロフェッショナル用モニターヘッドホンにちらほらと採用されたりするぐらいでした。ところがこの1~2年ぐらいのあいだに、アメリカのオーデジーが平面駆動方式を採用するイヤホン「iSINE 20」を発売したり、フォステクスからは2万円台というエントリー価格帯のヘッドホン「T50RP mk3g」が発売されるなど、平面駆動方式のヘッドホン・イヤホンが一段と注目を浴びはじめました。一般のダイナミック型ヘッドホンとの最大の違いは音のキャラクター。店頭で平面型ヘッドホンを見かけたらぜひ試聴してみることをおすすめします。

 

アコースティック・リサーチはなぜ、初のヘッドホンに平面駆動方式を選んだのでしょうか。スー氏は「ブランドが理想として追求する音を実現できる方式であることと、ヘッドホンとしてのコストパフォーマンスを考えた際に平面駆動型がベストの選択肢だったからです」と答えています。音質については、入力されたオーディオ信号に対してリニアなレスポンスが得られる平面型ならではの特性にも魅力を感じたそうです。製造に必要な振動板などのパーツを仕入れるコストを考えると、通常は広く普及しているダイナミック型を選択した方が有利だと思いますが、アコースティック・リサーチの理想の音を実現するためには平面型が一番の近道だったということなのでしょう。

 

平面型ヘッドホンをラインナップに持つブランドは、当然ながらそれぞれに独自の高音質化技術による差別化を図っています。AR-H1の場合、振動板の片側だけにコイルを配置してユニットの駆動効率を高めたところが大きな特徴。現在の開発拠点のひとつであるドイツで設計・組み立てを行っているそうです。振動板の前後を強力なネオジウムマグネットで挟み込んで、発生した強力な電磁界で振動板を動かしています。レスポンス特性が高く、インピーダンスも33Ωと低めに設計されているので、最近の単体ポータブルオーディオプレーヤーであれば十分に力強いサウンドを鳴らせます。

↑ハウジングの中に強力なネオジウムマグネットとともに組み込んでいる
↑ハウジングの中に強力なネオジウムマグネットとともに組み込んでいる

 

繊細で広がりのあるサウンド

今回は「AR-H1」と、アコースティック・リサーチのプレーヤー「AR-M2」も一緒に借りて音を聴いてみました。

↑AR-M2につないで音質を確認
↑AR-M2につないで音質を確認

 

宇多田ヒカルのアルバム「Utada Hikaru SINGLE COLLECTION」から「Traveling」では、前奏から深く沈み込む躍動感の豊かなベースが響き、ボーカルのウェットで滑らかな質感、自然な余韻などに平面型ヘッドホンならではの魅力を感じます。分離感も良好で、ボーカルとバンドの楽器がそれぞれあるべき位置に明快に定位して、音が聴こえてくるようです。中高域はクリアで解像感がとても高いので、打ち込みの効果音も粒立ちがキリッと引き締まっています。

 

開放型ハウジングなので音の抜けが爽やかで、音場の高さ・広さともに伸び伸びとしています。オーケストラの楽曲を聴いてみても、楽器の旋律がクッキリと鮮やかに浮かび、壮大なスケール感も見事に描きだしました。

↑オープンエア(開放)方式のハウジングを採用。音抜けが良く切れ味鋭いサウンドが特徴
↑オープンエア(開放)方式のハウジングを採用。音抜けが良く切れ味鋭いサウンドが特徴

 

マイケル・ジャクソンのアルバム「Off The Wall」のタイトル曲では冒頭から肉付きのいいベースラインが炸裂します。AR-M2は非常に駆動力の高いプレーヤーなので、平面型ヘッドホンのAR-H1も鳴りにくいどころか、凹凸感に富んだ元気なサウンドをぐいぐいと引き出してくれます。楽曲によっては勢いが出過ぎるように感じる場合もあるので、別売オプションとして発売されているAR-M2専用インピーダンスアダプター「AR-AC7IA」を間につないでも良いかもしれません。

 

プレーヤーを筆者がふだん使っているオンキヨーのハイレゾスマホ“グランビート”に変えて、ボリュームを少しずつ上げていくと、これもまた平面型らしいスムーズできめ細かな質感が前面に出てきてよい組み合わせでした。

 

クッション性の高いイヤーパッドと、本革の幅広なヘッドバンドの自動アジャスト機構によって、身につけたときに穏やかに頭部を包み込まれるような装着感が得られます。長時間装着して音楽を聴き込んでみても、ヘッドホンの重さを負担に感じることはありませんでした。

↑革製のヘッドバンド。頭の形に柔軟に沿う
↑革製のヘッドバンド。頭の形に柔軟に沿う

 

↑クッション性の高いイヤーパッド
↑クッション性の高いイヤーパッド

 

ケーブルは本体から着脱が可能です。パッケージに同梱されているケーブルは3.5mm/3極のアンバランスコネクタのもの。ヘッドホン側は両出しで2.5mm/2極のコネクタになります。アコースティック・リサーチ担当のスー氏は「本機の発売後、間を置かずにバランス接続のケーブルも出したい」と計画を語っています。ソース機器側の端子が4.4mm/5極の”ペンタコン”を搭載するようなので、ソニーの「NW-WM1Z/WM1A」やヘッドホンアンプ「TA-ZH1ES」など、同じペンタコンの搭載機にバランス接続をしてもまた良い音が味わえそうです。

↑ケーブルは本体左右両側から出ている。2.5mm/2極の着脱式コネクタ
↑ケーブルは本体左右両側から出ている。2.5mm/2極の着脱式コネクタ

 

なお、アコースティック・リサーチもペンタコンを搭載するハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤー「AR-M200」を年内の発売に向けて準備中です。純正のバランスケーブルはOFC導体に金メッキプラグを組み合わせた100ドル前後のレギュラー版と、より純度の高い導体にロジウムメッキ処理のコネクタを組み合わせた400ドル前後のプレミアム版の2種類を発売する予定。

↑年内に発売を予定する新型プレーヤー「AR-M200」
↑年内に発売を予定する新型プレーヤー「AR-M200」

 

先述したように、AR-H1はハウジングが開放型なので、メインで使うシーンはアウトドアよりも周囲から、そして周囲への音漏れを気にせず楽しめる家の中が中心になりそうです。音楽リスニングはポータブル派という方にはやや物足りなく感じるかもしれませんが、スー氏は「AR-H1をベースにした密閉型ヘッドホンも現在開発中」であることを教えてくれました。これもまたとても楽しみなアイテムになりそうですね。

 

平面型ヘッドホンの魅力は、何といってもダイナミック型のヘッドホンと根本的に異なる駆動原理による音のキャラクターの違いにあります。一度試してみると、いままで何度も聴き込んできた音楽がまた別の表情を見せてくれるはず。AR-H1はリケーブルを楽しんだり、イヤーパッドも交換しながら長く使えるヘッドホンなので、けっして高すぎない買い物といえるのではないでしょうか。