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2017/8/9 17:00

Netflixオリジナルアニメ「BLAME!」に見る「ドルビーアトモス」と「HDR」の現在地

Netflixでは7月28日から、ドルビーアトモスによる臨場感あふれるサラウンド音声に対応するアニメーション映画「BLAME!(ブラム)」の配信をスタートしました。映像も「HDR(High Dynamic Range)」の技術を使って制作された、「画も音も高品位」な本作を、ベストコンディションで楽しむ方法や見どころをレポートしたいと思います。

 

一段とリアルなサラウンドが楽しめる「ドルビーアトモス」とは?

「BLAME!」は、1997年から2003年まで講談社・月刊アフタヌーン誌に掲載された弐瓶 勉氏のコミックスを原作とした、Netflixオリジナル作品です。舞台は遠い未来の世界、無限に増殖し続ける巨大な「階層都市」。そこに身を置きながら「違法居住者」として駆除・抹殺される対象となった人類と、ロボットによる戦いを描いたSF大作は、これまで映像化は困難と言われていました。

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↑7月28日からドルビーアトモス音声での配信も始まった「BLAME!」/Netflix オリジナル映画『BLAME!』配信中©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 

今回の作品では、アニメ「シドニアの騎士」の制作に携わったスタッフが再び集結。日本のアニメ制作会社であるポリゴン・ピクチュアズとともにファン待望の完全新作ストーリーを創り上げました。総監修は弐瓶 勉氏、監督は瀬下寛之氏、副監督・CGスーパーバイザーは吉平“Tady”直弘氏という豪華な顔ぶれが制作を指揮しています。そして、本作には画期的な2つのデジタル技術が採用されています。

 

その1つ「ドルビーアトモス」は、視聴者の頭上・天井の位置を含む周囲に配置したスピーカーを使って立体的な音場を再現するサラウンド技術のこと。従来の「チャンネル」という概念に加えて、特定のサウンドを「オブジェクト」として音響空間中へ自在に配置・移動ができるので、よりいっそう立体的なサラウンド感を味わえるのが特徴です。本作は今年の5月20日に2週間限定で劇場公開も実施され、そこでも迫力のあるドルビーアトモス音声が好評を得たといいます。

 

もう1つの「HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)」は映像の輝度情報のダイナミックレンジ(幅)を拡大することにより、人間が目で見た情景に近いリアルな明暗のコントラスト感や、豊かな色合いを再現するための技術。米ドルビーラボラトリーズでは独自のHDR技術である「ドルビービジョン」を開発。日本国内ではLGエレクトロニクスの4Kテレビで楽しめるほか、今後はソニー「ブラビア」の一部機種がアップデートにより対応を予定しています。

 

Netflixでは先行してHDR対応のコンテンツを続々とラインナップに追加してきましたが、ドルビーアトモス対応のコンテンツとしては今年6月28日から映画「オクジャ」を公開。そのほか、8月25日公開の「デスノート」、12月公開の「ブライト」、2017年公開予定の「ホイールマン〜逃亡者〜」が控えています。

どんな環境で楽しめる?

つまり、ドルビービジョンのHDR技術にドルビーアトモスのサラウンド音声技術が加わると、Netflixの動画作品の世界により深く入り込めるようになるというわけです。そのためには、家庭にどのような視聴環境を揃えればよいのでしょうか?

 

まず必要になるのはNetflixの「プレミアムプラン」への登録と、ドルビーアトモスのNetflix作品が見られるデバイスです。本稿執筆時点で、国内で入手可能な対応デバイスはLGエレクトロニクスが2017年に発売した有機ELテレビと、マイクロソフトのゲーム機「Xbox One S」「Xbox One」の2機種となっています。

 

対応デバイスからNetflixにアクセスして「BLAME!」を検索すると、作品タイトルの隣に「VISION/ATMOS」のアイコンが表示されます。なお、もし自宅にドルビーアトモス対応のサラウンドアンプやサウンドバーをお持ちで、HDMIケーブルを使ってLGの有機EL以外のテレビにつないで「BLAME!」のコンテンツにアクセスしたとしても、現状では通常の5.1chサラウンドで再生されます。ドルビーラボラトリーズでは「例えばスマートOS搭載テレビの場合は、現在市場に出回っている製品の約85%が基幹ソフトウェアのアップデートによってドルビーアトモスに対応できる回路を積んでいる」と発表しているので、今後は特に4Kテレビを中心にNetflixのドルビーアトモス再生に対応するデバイスが増えていくのではないでしょうか。

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↑スマートOS搭載テレビでNetflixのサービスから「BLAME!」を検索。ドルビービジョン&アトモスに対応しているテレビであれば「VISION/ATMOS」のロゴが表示される

 

最もシンプルに「BLAME!」のドルビーアトモス再生を楽しむのであれば、LGの有機ELテレビやXboxシリーズと、ヤマハのサウンドバー「YSP-5600」の組み合わせをおすすめします。反対に、もっと本格的にドルビーアトモス音声による没入感を味わいたい場合は、ドルビーアトモス対応のAVアンプとサラウンドスピーカーの組み合わせが最高です。もしも天井にスピーカーを配置できないのであれば、水平の位置に置いても高さ方向の音を再現できる「イネーブルドスピーカー」を導入する手もあります。

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↑LGのテレビの設定画面。音声はドルビーアトモス再生が選択できます

 

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↑高さ成分の音を天井に飛ばしてバウンスさせ、天井にスピーカーを配置した状態と同じ効果をもたらすイネーブルドスピーカーも発売されています

 

ドルビーの視聴室で「BLAME!」の映像とサウンドを体験

今回筆者はドルビージャパンのデモルームを訪ね、「BLAME!」のHDRと立体音響によるプレミアムな視聴体験をする機会を得ました。視聴室に並べられた2台のLGの有機ELテレビで、通常版(SDR:Standard Dynamic Range)とドルビービジョンのHDR版の映像を見比べてみると、HDR版では明部・暗部の解像感が高まるだけでなく、色合いの豊かさと輪郭の精彩感までもが格段に高いことが一目でわかります。細部まで恐ろしいほどパリッと鮮明なのに、いかにもCGらしい不自然さをどこにも感じさせないほど丁寧に製作された映像に、思わずため息がもれました。

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↑左がHDR、右がSDRの「BLAME!」のワンシーン。写真は斜めから撮影したものなのでややわかりにくいですが、明暗の鮮やかなコントラストや色彩の豊かさに違いが表れています

 

続いて、“自動工場”での戦闘シーンを、テレビに内蔵されているスピーカーと、デモルームのサラウンド音響システムとで聴き比べてみます。広々とした工場の奥行き感や、シンと静まりかえった空間に響き渡る武器の金属音、迫り来るロボットの鈍く不気味な足音が、ドルビーアトモス対応の環境で再生するといっそうの緊迫感とともに伝わってきました。セリフの明瞭度と肉付きもぐんと良くなるので、まるでキャラクターが目の前でしゃべっているような錯覚に戸惑ってしまうほど。ドルビービジョンとドルビーアトモスによるコンビネーションならではといえる究極の没入感は、ぜひ一度体験してみる価値があると思います。

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↑7.1.4chのスピーカーを配置した視聴室でドルビーアトモスの臨場感あふれるサウンドを体験

 

本作品をはじめとするNetflixのドルビーアトモス対応コンテンツが楽しめる環境は、今後さらに広がっていくのでしょうか? 先述の通り、インターネットに接続できるスマートOSテレビについては今後も製品が徐々に増えていくことが期待できそうです。スマホなどモバイルデバイスについては、NetflixがドルビービジョンによるHDR版コンテンツの提供を開始しています。ただ残念なのは、それを視聴できる端末がいまのところ海外でのみ発売されているLGエレクトロニクスの「LG G6」に限られていること。「BLAME!」のようなコンテンツが評判を呼んで、早く他社のスマホにも対応機種が広がることに期待したいですね。

 

副監督・吉平“Tady”直弘氏が語る見どころ&制作スタジオ見学

今回は「BLAME!」の見どころを、副監督・CGスーパーバイザーを務めたポリゴン・ピクチュアズの吉平“Tady”直弘氏に語っていただきました。

 

「本作は約1年半の制作期間をかけて、クリエイター全員が一丸になってつくりあげました。弐瓶 勉氏のすばらしい原作を映像化するために、ジャパニメーションの要素と最先端の3D CGの技術を融合させて、映像や音にもアーティストの熱い思いを凝縮しています。仕上がりのクオリティには自信があります。ぜひ多くの方々に見ていただいて、応援してほしいと思っています」(吉平氏)

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↑「BLAME!」の副監督を務めた吉平“Tady”直弘氏。ポリゴン・ピクチュアズのオフィスで作品の魅力をうかがった

 

そして、ドルビーアトモスを採用した効果について吉平氏は、「空気感を伝えるアンビエント音までもリアルに再現できるので、仮想の世界がまるで目の前に広がっているように感じてもらえるのでは」と期待を込めて語っていました。

 

また、ポリゴン・ピクチュアズのスタジオも見学。3D CG技術を用いたアニメ制作の現場を垣間見ることができました。

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↑ キャラクターデザイン原画をもとに、3Dアニメーションのモデリングツール「Maya」やペインティングツール「ZBrush」を駆使してコンピューターグラフィックスの中で“立体化”していきます/Netflix オリジナル映画『BLAME!』配信中©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 

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↑リギングと呼ばれる作業では、3Dモデリング済みのグラフィックスへさらに豊かな質感を与えていく。「BLAME!」の劇中にはアンドロイドのキャラクターも登場するが、人間のようなスムーズな動きと、機械として説得力のある金属の冷たい質感のバランスを整えながら仕上げていく作業が困難を極めたといいます/Netflix オリジナル映画『BLAME!』配信中©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 

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↑ 絵コンテからアニメーションへ、3D CGならではの表現を生かした演出を加えていくのがアニメーションディレクターの仕事。カメラワークを決めるスペシャリストでもあります/Netflix オリジナル映画『BLAME!』配信中©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

 

「BLAME!」の舞台は常時うす暗い地下空間となるため、闇の中に煌めく閃光と、その灯りに映し出されるキャラクターの表情など「照明効果=ライティング」から多くの情報が読み取れる面白さがあります。Netflixでは本作をドルビービジョンだけでなく、「HDR10」の技術をベースにしたHDR版としても配信しているので、自宅にHDR対応のテレビをお持ちの方はぜひ、ポリゴン・ピクチュアズのクリエイターが特にこだわった光と暗闇による物語の演出にも注目してほしいと思います。今年の夏休みは、わが家でリッチな動画配信コンテンツを満喫しながら過ごすのも良さそうですね。