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イヤホン
2019/2/6 20:25

フェンダーのイヤホンってどんな音? 期待のニューフェイス「Pro IEMシリーズ」3機種を聴いた

FENDER(フェンダー)の名を知らぬ者、ギター弾きにあらず。かつての偉人がそういったかどうかはわかりませんが、アメリカの楽器メーカーであるフェンダーはギターとベースを愛する人、またはフェンダーの楽器を弾くミュージシャンのファンにまで広くその名が浸透するブランドです。そのフェンダーがイヤホンを手がけていることはご存知でしたか。昨年秋に発売された最新の「Pro IEMシリーズ」を紹介したいと思います。

 

Pro IEMシリーズは米国テネシー州ナッシュヴィルのフェンダー本社にある拠点「Fender Audio Design Lab(ADL)」で設計と開発、デザインが行われています。側面に大きく配置されたブランドロゴがカッコイイですね。イヤホンを担当するチームには多くの音楽制作の現場でも活躍するエンジニアやミュージシャンが在籍しているそうです。TEN3とNINE1は組み立てもナッシュヴィルの工場でハンドメイドで行なっています。またPro IEMシリーズのハウジングは、フェンダー最大級のギターファクトリーであるカリフォルニア州コロナの工場で、ギターと同じ手法を塗装をしています。

 

Pro IEMシリーズの製品名にはある法則があります。最初のアルファベットがダイナミック型ドライバーの口径を、後ろの数字がBA型ドライバーの数をそれぞれ表しています。例えば「TEN3」なら「10mm口径のダイナミック型ドライバー」と、「3つのBA型ドライバー」を組み合わせたハイブリッド方式のイヤホンです。

↑Pro IEMシリーズ

 

エントリークラスのNINEは9.25mm口径のダイナミック型ドライバー1基で、高解像かつパワフルなサウンドを鳴らせるイヤホンです。

↑ダイナミック型ドライバー1基のみのシンプルな構成とした「NINE」(実売価格1万4280円

 

NINE1はNINEとほぼ変わらないサイズでありながら、9.25mm口径のダイナミック型ドライバーとBA型ドライバー1基を搭載したハイブリッド方式のイヤホン。Pro IEMシリーズにとって“秘伝のタレ”とも言える独自の音づくりの技術「HDBA(Hybrid Dynamic Balanced Armature)」によって、種類の違うドライバーをコンパクトな本体の中に組み合わせて、一体感の高い音にまとめています。

↑ダイナミック型/BA型ドライバーを1基ずつ搭載する「NINE1」(実売価格3万6280円)

 

↑NINE1に付属するイヤホンケースにもフェンダーのロゴを配置

 

TEN3は10mm口径の高密度ダイナミック型ドライバーに加えて、中/高/超高域の帯域を各々に受け持つBA型ドライバーを組み合わせています。その上位としてさらに「TEN5」「THIRTEEN6」というモデルもありますが、TEN3はフェンダーが誇るプレミアムサウンドの登竜門的なイヤホンです。

↑上位モデルのTEN3はダイナミック型ドライバー1基とBA型ドライバー3基の構成(実売価格10万9980円)

 

↑強靱なハードケースが付属します

 

エントリークラスのNINEとNINE1まで、イヤホン本体からケーブルが着脱できるリケーブル対応であることにも要注目です。2ピン形状の端子は土台に凹凸の溝を設けて装着時の安定感を向上させる独自の「Talonコネクタ」を採用。

↑イヤホン側リケーブル端子は2ピン仕様。土台に凹凸を設けて外れにくくしたTalonコネクターを採用しています

 

粘性が高いシリコン素材を使ったTPEイヤーチップと低反発フォーム素材のイヤーチップは複数サイズを同梱しています。

↑粘性の高いシリコン製イヤーチップと低反発フォームのイヤーチップを同梱しています

 

それでは気になる各イヤホンの音をチェックしてみましょう。オーディオプレーヤーにはAstell&KernのA&norma SR15を選びました。

↑Astell&KernのA&norma SR15をリファレンスのプレーヤーとして試聴しました

 

まずはNINEとNINE1から。どちらもコンパクトなイヤホンなのに驚くほどスケールの大きな音を鳴らし切ります。フェンダーの楽器といえばエレキギターやエレキベースがとても有名で、何となくロックやポップス、ジャズのミュージシャンが多く愛用しているイメージがあるかもしれませんが、Pro IEMシリーズはどんなジャンルの音楽にもマッチします。バランスがフラットでクセがなく、特定の帯域を強調しないサウンドはクラシックや落ち着きのある女性ボーカルの魅力を素直に引き出します。クールなエレクトリック系EDMのビートもスピード感満点。低音も力負けしません。

 

フェンダーの本拠地であるテネシー州ナッシュヴィル出身の歌姫、テイラー・スウィフトのアルバム「1989」から「Blank Space」を聴くと、上位のNINE1は艶のあるボーカルの伸びやかなメロディ、活き活きとしたベースラインの輪郭がさらにくっきりと、立体的に浮かび上がってきます。やはりBA型ドライバーが加わるぶん、繊細なニュアンスの再現力がグンと高まる手応えがありました。リードボーカルとバックコーラスによるハーモニーがふんわりと優しく溶け合うようなリスニング感も実においしく味わえました。低音の透明感も増してくるので、空間の奥行き方法への広がりが生まれ、楽曲の緊張感が一段と引き締まってきます。電気グルーヴの楽曲「MAN HUMAN」も迫力が一皮むけます。

 

最近はアナログのイヤホンジャックを搭載するスマホが少なくなってしまいましたが、変換アダプターを活用すればステレオミニプラグで接続するイヤホンもまだまだ活躍してくれます。特にNINEとNINE1はサイズ的にもスマホとの組み合わせにマッチするし、オーディオプレーヤーに比べるとやや力不足である一般的なスマホでも十分に心地よく鳴らせる能率の良さを備えています。もし店頭などで試聴する際には、お手元のスマホにつないで試してみると「音楽の聴きやすさ」を実感できるかもしれません。

 

アニキ分のTEN3はNINEとNINE1に比べると価格もゼロがひとケタ上がる上級機ですが、やはり声の透明感、ほとばしるエネルギー、楽器の音の存在感はずば抜けています。まるで目の前にプレーヤーが立って演奏しているような光景が目を閉じると頭の中に浮かんできます。音の芯がしなやかで、抜群に安定しているので、ロックやジャズのアグレッシブな楽曲はメロディの弾力感に富んでいて、とても高い鮮度が味わえます。まさしく漁港で獲れたての刺身を味わっているような音楽リスニング。音場感も広く、テイラー・スウィフトの楽曲はボーカルが真ん中にキリッと定位して、そこから縦横無尽に広がるバンドサウンドの迫力に圧倒されてしまいました。

 

NINE1、NINEに比べるとややイヤホン本体が大きめに見えますが、耳に装着してみると驚くほど素直にフィットしてくれます。フェンダーでは多くの人から耳型のサンプルを取り、最新の3Dプリンティングの技術を活用しながら試作を繰り返して、遂にこの快適なユニバーサルフィットにたどり着いたそうです。フェンダーをこよなく愛する方でなくても、TEN3は長く愛着を感じながら使い込めるイヤホンのベストチョイスになってくれそうです。

 

生の音楽のリアリティをありのままポータブルオーディオ環境で再現できるPro IEMシリーズの醍醐味を、ぜひお気に入りの楽曲と一緒に味わってみてほしいと思います。