ドイツの首都、ベルリンで毎年開催されるエレクトロニクスショー「IFA」で、2019年後半に向けてポータブルオーディオ系の新製品を多数発表しました。久しぶりに復活したAndroid搭載のハイレゾ対応“ウォークマン”など、それぞれの特徴を考察してみたいと思います。
Androidを搭載したスマホのようなウォークマン
ハイレゾ対応のウォークマンはプラットフォームが独自の組み込みOSから汎用性の高いAndroid 9.0に切り替わりました。Android搭載のハイレゾウォークマンは2015年に発売された「NW-ZX2」以来になります。
新製品は2機種が発表されました。エントリーモデルの「NW-A105」は350ユーロ(約4万円)。カラフルな5色バリエーションが揃います。そして高音質な上位モデルの「NW-ZX507」は830ユーロ(約9万7000円)を予定。色はブラックが基本で、参考展示のモデルとしてシルバーも並んでいました。ヨーロッパでは11月から各国へ順次出荷がスタートします。日本でも発売が予定されている製品です。
どちらのモデルも約3.6インチ、解像度は1280×720画素という液晶タッチディスプレイを搭載しています。インターネットにはWi-Fiで接続して、音楽配信や動画配信のサービスを“いい音”で楽しめるようになるのが、独自の組み込みOSから変更された時の一番大きなメリットになります。
特にSpotifyなどの定額制音楽配信や、YouTubeの動画もいい音で聴きたいという声が、それぞれのサービスがポピュラーになってきたことによってまた高まってきたことから、Android搭載のハイレゾウォークマンが復活したのだとソニーの担当者がコメントしています。Google Playストアで配信されている多くのアプリが利用できるということは、ソニーのワイヤレスヘッドホン・イヤホンを使っている方にとっては専用アプリの「Sony Headphones Connect」をウォークマンにダウンロードして、各種の設定がウォークマンからできるようになることも魅力的ではないでしょうか。
本体の設計や細部パーツの選定にまで音質にこだわり抜いているウォークマンだからこそ、同じハイレゾが再生できるスマホよりも音楽再生の点では際立つ上質な体験を味わえることは大きな魅力に感じられると思います。普段スマホはiPhone派だけれど、Android端末も使ってみたいという方にはスタンダードな価格帯のNW-Aシリーズをおすすめします。
また、ウォークマンの誕生40周年を記念したAシリーズベースのアニバーサリーモデルも登場。カセットテープが回る様子を再現したスクリーンセーバーが利用できます。なおスクリーンセーバーはAシリーズ、ZXシリーズの通常モデルにも搭載されています。
ウォークマンはセルラー通信機能をもっていないため、Spotifyなど音楽配信サービスのストリーミングを聴く時にはWi-Fi接続が必要になります。スマホのテザリング機能を使えば外出の際に移動しながら聴くこともできますが、ならばスマホで聴けばいいじゃないかとも思います。なので、Spotifyなどの音源を外出時にAndroidウォークマンで聴きたい場合は、出かける前にストレージに音源をダウンロードする使い方が現実的。
Android OSを搭載すると駆動時のバッテリー消費が大きくなるため、新しいNW-Aシリーズ、NW-ZXシリーズともに連続音楽再生時間は短くなりそうです。とは言え有線接続のヘッドホン・イヤホンを使う場合は最長で20時間以上のリスニングタイムが確保されているので、実用性は問題ないでしょう。ただし、もしBluetooth接続によるワイヤレスリスニングを中心に使う場合は、Aシリーズの連続再生時間は約10時間になることも覚えておきたいところ。
そしてもうひとつ押さえておきたい、従来モデルからの変更点はデジタル接続の端子がウォークマン独自のWMポートからUSB Type-Cに、今回の2機種から変更されることです。最新のスマホやポータブルオーディオ機器の中には同じUSB Type-Cを充電に使う製品が増えてきたので、出かける時に持ち歩かなければいけない充電ケーブルが1種類に絞れるのはガジェットファンにとってありがたいのではないでしょうか。
IFA会場ではそれぞれの新製品をソニーのヘッドホンで試聴できました。どちらのモデルもまた一段と、低音の安定感と豊かな音場の広がり、音像の立体感に磨きがかかっていました。上位モデルのNW-ZX507はボーカルの艶っぽさ、高域の透明感がとても魅力的だと思います。また日本でゆっくりと聴ける機会が楽しみです。
最新のフラグシップ「1000Xファミリー」が勢揃い
ヘッドバンドタイプの「WH-1000XM3」、完全ワイヤレスイヤホンの「WF-1000XM3」に続いて、しばらくアップデートのなかった1000Xシリーズのネックバンドスタイルのワイヤレスイヤホンが遂に新しく生まれ変わります。型番は「WI-1000XM2」。完全ワイヤレスはM2を飛ばしてM3になったのに、ネックバンドタイプはM2としてきました。ヨーロッパでは2020年1月ごろに330ユーロ(約3万8000円)で発売を予定しています。
現行モデルのWI-1000Xからデザインが大きく変わり、ノイズキャンセリング性能と音質もソニー独自開発の「QN1チップ」を搭載したことから、大きな飛躍を遂げていることがわかります。WI-1000Xのハウジングは横広なデザインだったためか、筆者の場合は時々耳から落ちることがありました。新しいモデルはハウジングから伸びるノズルに角度を付けたデザインとしているため、装着感がとても安定しています。ケーブルもしなやかにしなり、無造作にくしゃっとコンパクトにまとめられるようになったので、ポーチも小さくなってポータビリティが劇的に向上しています。
ノイズキャンセリング性能についてはIFAの会場で短時間試してみたところ、自然で素直な消音効果が心地よく感じられました。消音レベルの強弱については、機会があればまた飛行機や地下鉄の中などで試して実力をみたいところです。音質は文句なしのハイクオリティ。音像の立体感が向上しているように感じられました。
完全ワイヤレスイヤホンが急成長したことで、ネックバンドスタイルのワイヤレスイヤホンへの注目度にも影響が出ているといわれていますが、イヤホンを外しても肩にかけて常時身に着けられたり、1000Xシリーズの場合はハイレゾ相当の音質でワイヤレス再生が楽しめるLDACにも対応することから、WI-1000XM2は要注目の新製品と捉えるべきだと思います。
ノイキャンヘッドホンから完全ワイヤレスも登場
カジュアルにハイレゾ再生が楽しめて、デザインやカラーリングもスタイリッシュな“こだわり層”をターゲットにしたソニーのポータブルオーディオ「h.ear(ヒア)」シリーズのヘッドホン、イヤホンに新しいラインナップが加わります。
IFAではアラウンドイヤースタイルのヘッドホン「WH-H910N」だけが正式に商品として発売されることがアナウンスされており、残りのオンイヤータイプのヘッドホン「WH-H810」と完全ワイヤレスイヤホン「WF-H800」は参考出品の製品として紹介されていました。
WH-H910Nはヨーロッパで今年の12月以降に順次出荷開始を予定しています。価格は300ユーロ(約3万5000円)を予定しています。
カラーバリエーションが現行モデルから大きく代わり、“真っ赤”なレッドやオレンジなど若々しい印象に生まれ変わりました。ブラック以外のモデルは本体色がツートンカラー。ブラックとオレンジはイヤーパッドにアクセントとなる模様も加わっています。
密閉型のハウジングに搭載するダイナミック型のドライバーは現行モデルの40mm口径から大幅にサイズダウンした25mm口径としながら、ハイレゾ対応の高音質、パワフルな押し出し感あふれるサウンドには一切の妥協がありません。IFA会場でWH-H910NのサウンドをウォークマンNW-A105との組み合わせで聴くことができましたが、従来のh.earシリーズの快活なサウンドが、より1000Xシリーズに近い上品なバランス重視のサウンドに変わった印象を受けました。
ノイズキャンセリングもハウジングの表裏側にマイクを載せて、周囲の不要な環境音を消音するハイブリッド方式のテクノロジーを搭載しています。専用アプリからノイズキャンセリングと外音取り込みのバランスを自動的にコントロールする「アダプティブノイズキャンセリング」や、20ステップで強弱を変えられる機能も上手に使いこなしたいところ。
ソニーのノイズキャンセリング機能を搭載するワイヤレスヘッドホンにはh.earシリーズよりもエントリー価格帯のモデルもあります。上位のWH-1000XM3を加えて、ユーザーの好みや用途にフィットする1台が必ず見つかる豊富なラインナップ展開ができるところがソニーの大きな強みです。
なおh.earシリーズの完全ワイヤレスイヤホン、WF-H800も会場で少しだけ音を聴くことができました。こちらのモデルの詳細についてはまた日本で正式発表された後でお伝えしたいと思いますが、BluetoothのオーディオコーデックはAAC/SBCの対応になります。特に中低域の伸びやかさが印象的で、なおかつディティールの再現性にも富んだh.earシリーズらしいイヤホンだと思います。あとはどれぐらいの価格になるのか気になるところ。筆者としてはAppleのAirPodsの良きライバルになりそうなモデルだと感じました。
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