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カメラ
2020/8/2 19:30

衝撃の登場から約1年、新たな活躍の場も――異色のフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp」を改めて振り返る

カメラに興味がある人なら「フルサイズ」という言葉を見たり聞いたりしたことがあると思う。最近ではキヤノン、ニコン、ソニーが相次いでフルサイズミラーレスカメラの新型機を発表し、話題になっている。この「フルサイズ」は「35mm判」「ライカ判」などとも呼ばれるカメラの画面サイズ(センサーサイズ)の一種で、フィルム時代から人気が高く、歴史も長い。

 

デジタル一眼レフやミラーレスカメラで広く普及している「APS-Cサイズ」や「マイクロフォーサーズ」よりも画面サイズの大きなフルサイズは、一般的に画質面で有利とされている。ざっくり言えば、写りのいいカメラが欲しいならフルサイズを選びましょう、といったところである(フルサイズ以上にセンサーが大きいカメラもあるが)。

 

それも手伝って、カメラ好きや写真好きの間ではある種のステータスとなっているのだが、カメラ本体も使用するレンズも大きく、重くなりがちという泣きどころもある。まあ、プロカメラマンやその道の趣味の人たちが本気で撮るための道具としてはそれでもいいのだけれど、逆に言えば本気を出さないと持ち歩くのが大変なカメラでもあるわけだ。たとえば、家族との温泉旅行だとか、親戚の結婚式だとか、友人との飲み会だとかに持っていくには大げさで野暮ったくもある。ちょっとした散歩のお伴には似合わないのである。

 

そんなところに登場したのが「SIGMA fp」。レンズメーカーとしても名高いシグマが発売したフルサイズミラーレスカメラだ。昨年発売された製品ではあるが、再びフルサイズミラーレスへの注目が高まっているいま、改めてこの異色な存在感を放つカメラについて語ってみたい。

↑フルサイズなのに手のひらに乗るコンパクトさ。それがSIGMA fpのいちばんの魅力だ。2020年7月末時点の実売価格(税込)は、ボディ単体で20万4440円、45mm F2.8 DG DN レンズキットが23万1100円

 

圧倒的に小さくて軽いフルサイズカメラ

↑ボディサイズは幅112.6×高さ69.9×奥行き45.3mm。重さはバッテリーとメモリーカードを含めて422gだ

 

SIGMA fpのいちばんの特徴は、ご覧のとおりの小ささ。そして軽さである。といっても、シャツの胸ポケットに入れるには厚みがありすぎるし、レンズを着けた状態では上着のポケットにだってあやしい。が、ほかのフルサイズのカメラに比べれば圧倒的に小さくて軽い。なんたって、現行のフルサイズのカメラとしては世界最小・最軽量なのだ。ボディサイズは幅112.6×高さ69.9×奥行き45.3mm。重さはバッテリーとメモリーカード込みで422gしかない。

 

ちなみに、現行のフルサイズミラーレスカメラでは600g台後半のものが多く、重いものは1kgを超えてしまう。そういうなかでの422gなのであって、「わずか」とか「たったの」といった修辞を添えて語られる軽さなのだ。

↑厚みはそこそこあるのでシャツの胸ポケットにはきついが、十分にポケットサイズと言える小ささだ。なお、マウント部の黄色いぴかぴかはレンズ着脱指標の代わりに筆者がつけたラインストーン

 

↑撮像センサーは有効2460万画素のローパスフィルターレスCMOS。マウントにはドイツの名門ライカSL/Tシリーズと同じLマウントを採用している

 

↑レンズキットに同梱の45mm F2.8 DG DN Contemporaryを装着。金属製のかっこいいレンズフードを取り付けた状態でも677gという軽さだ

 

↑ボディの小ささに対して上面のダイヤルはかなり大きめ。小型化しても操作性が悪くならないように工夫されている

 

つまり、温泉旅行や結婚式や飲み会に持っていくのが苦にならず、野暮ったくもならない稀有なフルサイズカメラ。それがSIGMA fpのすごいところのひとつである。

 

足りないものはアクセサリーでカバー

小さくて軽いSIGMA fpだが、その代わりにいろいろなものがない。

 

主なフルサイズミラーレスカメラでファインダーを内蔵していないのはSIGMA fpだけだし、液晶モニターが固定式なのもほかにはない。スマートフォンからSNSに投稿したりするのに欠かせないWi-Fi機能もなければ、すでに7割近くが搭載しているボディ内手ブレ補正もない。そのうえ、握りやすくするためのグリップさえ省かれている。

 

当然、不便はある。が、不便を解消しようとすればカメラは大きく重くなる。それを避けるために、SIGMA fpでは必要に応じてアクセサリーを使ってカバーする方式が採用されている。

 

カメラを顔にくっつけて構えたい人のためにはLCDビューファインダー「LVF-11」がある。少々かさばりはするが、画面は見やすくなるし安定感も増す。握りやすさを重視するなら外付け式のグリップを使えばいい。こちらは普通サイズのハンドグリップ「HG-11」と大きめのラージハンドグリップ「HG-21」の2種類が選べる。暗いシーンでブレが気になるなら手ブレ補正を内蔵したレンズを使えばいいし、高感度の性能もいいから三脚なしでも頑張れる。

↑別売のハンドグリップHG-11を装着した状態。持ちやすさが格段にアップするので持っておいて損はしないアイテム

 

こうしたシーンに合わせてアクセサリーを組み替えて対応する変幻さも魅力の1つ。風景だったりポートレートだったりに本気で取り組みたいときのカメラとしても十分やっていけるだけの能力を備えている。それでいて、アクセサリーを外した素のままの状態に戻せば誰もが気軽に持ち歩けるお散歩カメラとしても文句なしなのだ。

 

こういうのを待ってたんだよ、と世界中のカメラ好き・写真好きが沸き立った。

 

カメラの世界では、写りのよさ、性能のよさを求めれば、大きさと重さは我慢するしかない、というのがメーカーにとってもユーザーにとってもあまりうれしくはない、けれど、受け入れざるを得ない共通の認識だった。それをSIGMA fpはあっさりとひっくり返して見せた。フルサイズならではの写りの楽しさと、軽快さを両立させてしまったのだ。

 

事前のリークやうわさが全くなかったことがあったにせよ、SIGMA fpが発表された2019年7月11日、Twitterのトレンドに「SIGMA fp」の名がおどった。加えて、アクセス殺到によって公式サイトは一時ダウン。深夜までつながりにくい状態が続いた。それだけSIGMA fpのコンセプトが注目を集めたのだ。

 

見た目もいいが、写りもいい

SIGMA fpがいちばんかっこよく見えるのは、やはりなにもアクセサリーをつけない素のままの状態だと思う。ボディの幅と高さの比率は16:10。いわゆる黄金比に近似する。ようは、かっこよく見える比率なわけだ。とはいえ、持つときに指がかかる部分があったほうがらくちんなこともあるので、個人的にはハンドグリップ HG-11などを装着するのをおすすめする。

 

軽いカメラなので右手だけで持ってもかまわないが、左手で下から支えるようにして持つのがいい。そうすると右手の仕事が減るので、そのぶんダイヤルやボタンの操作に専念できるわけだ。

 

さて、SIGMA fpのカメラとしての実力は上々と言っていい。描写はキレがよくて被写体の細かい部分まできっちり表現してくれるし、階調再現もいい。発色はややこってり系で、天気のいい日中なら気持ちよく色が乗る。露出を少し暗めにしてやると渋い雰囲気の仕上がりになって、これもまた楽しい。レンズキットの45mm F2.8 DG DN Contemporaryもコンパクトタイプながらシャープでボケもいい。

↑45mm F2.8 DG DN Contemporaryでのスナップ。シャープな描写が気持ちいい

 

↑カラーモードをシネマで撮ったカット。鮮やかさを抑えた渋い色味に仕上がる

 

↑発色はやや濃厚で色ノリがいい。控えめがお好みならカラーモードをニュートラルにするといい

 

↑天気がいい条件だとちょっと強気なぐらいに色が出るのも楽しい

 

↑画面右手の標識にピントを合わせていて背後の建物は少しボケているのだが、そのボケ具合が自然で美しい

 

カメラ好きや写真好きが注目しているのは、新しく加わった「ティールアンドオレンジ」というカラーモード。オレンジ系とその補色のティール系(シアンっぽい青)を強調するモードで、人物を引き立たせる効果もあるが、秋の風景にもマッチするのが評判になった。

↑カラーモードに新しく加わった「ティールアンドオレンジ」。暖色系が強調されるので紅葉などの秋の風景にぴったりだと評判になった

 

↑カラーモードをティールアンドオレンジに変更すると、オレンジ系の部分がぐっと引き立つ

 

高感度にも強いので、室内や夜スナップなどの暗いシーンはISO3200とかISO6400で対応できる。このあたりはフルサイズならではの強みでもある。

↑フルサイズならではの高感度性能も見どころ。ISO6400でも普通に使えるぐらいの写りなのだ

↑上の写真の画面右上の建物をピクセル等倍で切り出したもの。ISO6400の高感度なのに、ノイズらしいノイズはないし、シャープさも素晴らしい

 

電源をオンにしてから撮影可能になるまでが遅いとか、動きの速いものにはAFが追いついてくれないといった欠点はあるが、持ち歩くだけでも楽しいフルサイズカメラというのはほかにはない魅力だと思うのだ。

 

ウェブカメラにも使える動画機能も見どころ

もうひとつ見逃せないのは、SIGMA fpには映画カメラとしての顔もあるところ。

 

「動画」ではなくてあえて「映画」と書くのは、すでにSIGMA fpだけで撮影した映画が制作されていて、その道のプロからも高い評価を得ているからだ。

 

高度な画づくりにも対応できるCinemaDNGという形式での4K動画記録が可能なことに加えて、外部レコーダーとの連携機能も充実している。記録メディアとして外部SSDが使えるあたりがもう尋常ではない。

 

長時間の動画撮影や高温下でもオーバーヒートしにくいようにヒートシンクを備えていたり、内外の業務用シネマカメラの見え具合をチェックできるディレクターズビューファインダーというユニークな機能もヘビーなプロユースを意識したものだろう。

↑上面左手側に電源スイッチがあって、そのとなりがCINE/STELLスイッチ。誤操作を防止するために向きも変えてある。液晶モニターとボディ本体のあいだに放熱用のヒートシンクを備えている

 

↑上がSTILL(静止画)モードでのメニュー画面。CINE(動画)モードに切り替えるとメニューの構成も下のように動画仕様に切り替わる仕組みだ

 

↑業務用途を意識したディレクターズビューファインダー機能を使うと、ARRI、SONY、REDのシネマカメラでの見え具合をシミュレートできる

 

↑ディレクターズビューファインダー機能をオンにしたときの画面。映画撮影用のカメラで実際に写る範囲を簡単に確認するための機能だ

 

そんなSIGMA fpがこのところ注目されているのがウェブカメラとしての活用法だ。

↑SIGMA fpはUSBケーブルでパソコンにつなぐだけでウェブカメラとしても活用できる

 

SIGMA fpはライブストリーミングなどに活用するためのUSB Video Class(UVC)に対応している。そのため、パソコンとUSBケーブルで接続するだけでウェブカメラとして機能する。フルサイズならではの高画質の、である。なかにはSIGMA fpをモニターの上に固定するためのブラケットを自作している強者までいるというから楽しみすぎなぐらいである。

 

20万円からするフルサイズミラーレスカメラをオンライン会議用のウェブカメラに使おうと最初に考えたのが誰なのかはわからないが、そういう使い方もできる自由度の高さもSIGMA fpの持ち味だ。

 

問題は、SIGMA fpに似合うレンズが現時点ではまだ1本しかないということ。

 

レンズキットに同梱されている45mm F2.8 DG DN Contemporaryはフルサイズ対応レンズとしては小型軽量で画質もいい。見た目もSIGMA fpにマッチしている。……のはいいとして、ほかのシグマ製レンズはどれも大きくて重い。これは高性能タイプのレンズが多いからでもあるのだが、標準ズームの24-70mm F2.8 DG DN Artは835gあるし、それより重いレンズもざらにある。というか、大半が1kgオーバーだったりするのだから、422gしかないSIGMA fpには大きすぎ、重すぎですこぶるバランスがよろしくないのである。

↑標準ズームの24-70mm F2.8 DG DN Artを着けるとこんな感じ。高性能タイプだからしかたがないとはいえ、SIGMA fpには不釣り合いな巨大さだ

 

マニアックな人たちにならってマウントアダプターとM型ライカ用のレンズ(小型軽量でかっこいいものが多い)を着けるのも手だが、気軽に楽しむにはやはりAFが使えるレンズが欲しい。

 

そんな声が届いているのだろう、同社社長みずからがSIGMA fpに似合うレンズを増やす予定だと発言しているので、このへんは期待してよさそうだ。45mm F2.8 DG DN Contemporaryと同じテイストの広角レンズや望遠レンズが登場すれば、SIGMA fpの魅力はさらにアップするはず。まだまだこれからも楽しめそうでうれしいかぎりである。