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2016/11/7 19:00

これからオーディオは“フルデジタル”の時代! クラリオンが挑む次世代ヘッドホン「ZH700FF」

CDの普及により一般的になった“デジタルサウンド”という言葉だが、これまでのオーディオは、実は完全にはデジタルサウンドとはいえなかった。CDやMP3などのデジタル音源は、スピーカーやヘッドホンなどに出力する前に必ずアナログ変換されていたのである。そして、デジタル信号をアナログに変換するときには、現代の高い技術を持ってしてもノイズの混入や信号の劣化が避けられない。もし、デジタル信号をアナログ変換せずに、デジタルのままスピーカーやヘッドホンに出力することができれば、未知のサウンドが聴けるのではないだろうか。

 

そんなオーディオファンの長年の夢を実現した革命的な製品が、カーナビやカーオーディオを製造する車載音響機器メーカーのクラリオンから登場した。同社のマーケティング部 井上陽介氏によれば、「音の100年の歴史を変えるといっても過言ではない」というほどの自信作が、10月より発売を開始したフルデジタルヘッドホン「ZH700FF」だ。

↑クラリオンのフルデジタルサウンドヘッドホン「ZH700FF」。価格はオープンだが、店頭想定価格は14万円前後
↑クラリオンのフルデジタルサウンドヘッドホン「ZH700FF」。価格はオープンだが、店頭想定価格は14万円前後

 

同社は2012年にフルデジタルサウンドシステムの第1弾を発売して以来、その開発に力を注いできたが、今春にはフルデジタルサウンドカーオーディオシステムの第2弾を発売。本製品はそのノウハウを活かしながらほぼ並行して開発が進行していたものだ。

↑クラリオンが今春発売した車載用フルデジタルサウンドシステム
↑クラリオンが今春発売した車載用フルデジタルサウンドシステム

 

フルデジタルで音を再生するメリット

このヘッドホンの最大の特徴は、入力からスピーカーの駆動まですべてをフルデジタルで行うことにある。その中枢に使われているのが「Dnote」という技術。DAコンバータもパワーアンプも不要としているため、既にカーオーディオでは最小限の電力で高音質化を実現するシステムとして高い評価を得ている。これは同時にヘッドホンでもメリットにつながるというわけだ。

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↑「Dnote」技術によりデジタル信号をそのままドライバーまで届けることが可能

 

なかなか理解しがたいのは、スピーカーの駆動までデジタルですべて行っている点だ。今までは“デジタルオーディオ”とはいっても、スピーカー直前でDA変換(Digital to Analog:デジタル信号をアナログ信号に変換すること)を行っており、ヘッドホンを含めスピーカーへの入力は必ずアナログ信号で行われていた。それ故、「どうして?」と悩む人がいても不思議ではない。

 

その原理をたどると、デジタル信号に3段階の電圧情報を加え、その情報をボイスサーキットに渡すことで振動板を振幅させることで音が出る、というのが基本的な流れ。これに4つのボイスサーキットを組み合わせると振動板を駆動させる“パワー”は9段階で表現可能になる。「わずか9段階で音が表現できるのか」という疑問も湧くが、1回の振動が0.02μsという超高速で行われるため、「しっかり滑らかな音が再現できる」(井上氏)という。

 

本製品ではもう一つ画期的な技術が使われている。「フローティングフラットドライバー」と呼ばれる世界初の技術で、平面振動板を穴の開いたケースとネオジウムマグネットで挟み込んだというもの。平面振動板はフローティング構造となっており、エッジやダンパーが不要となったことから振動板の面全体をデジタル信号で高速応答して駆動できる。これにより歪みの発生を最小限に抑えることに成功したという。

 

ふかふかイヤーパッドによる上質なフィット感

前置きが長くなったが、ここからは本製品の具体的な解説に入ろう。実機を手にすると大きめのサイズ感は明らかに「外出用というよりホームでじっくり使いこなす」というタイプだ。深みのあるソフトパッドを多用し、その感触は度重なる専門家の意見やサプライヤーと協議によって生み出されたもの。イヤーパッド前後の厚みに変化をつけ、振動板を最適位置に傾けて左右パーツの位置を最適化するなど重量バランスにもかなり気遣っている。

↑イヤーパッドの形状は上下だけでなく前後に変化をつけ、フィット感を高めている
↑イヤーパッドの形状は上下だけでなく前後に変化をつけ、フィット感を高めている

 

この状態で装着すると実に心地良い。耳を覆うオーバーイヤー型であるため若干締め付ける感じはあるが、そのフィット感がタダモノじゃない。長時間にわたって装着していてもまったく苦しさはないし、かけた感じがピタッ~と吸い付くようにフィットする。やや重めと思われる510gある重量もこの左右の密着の良さにより負担を感じさせない。この巧みさには正直驚いてしまった。

↑深みのあるソフトパッドは長時間の装着でも実に心地よい
↑深みのあるソフトパッドは長時間の装着でも実に心地よい

 

見た目のデザインもかなりこだわった様子が見て取れる。アーム部にはアルミダイキャストを用いてその軸にはヘアライン仕上げを施し、樹脂ハウジングのカバーはアルマイト仕上げのアルミ製カバー。外周にはダイヤカットで仕上げる。この細部までの徹底したこだわり。まさに高級ヘッドホンに相応しい仕上がりといっていいだろう。

↑アームは片持ちのアルミダイキャスト製を採用。軸部にはヘアライン仕上げも施した
↑アームは片持ちのアルミダイキャスト製を採用。軸部にはヘアライン仕上げも施した

 

スペックを見ると、再生周波数帯域は10Hz~48kHzを確保しており、ハイレゾロゴマークも取得済みだ。対応するデジタル入力は192kHz/24bitまでのPCM音源で、DSDの場合は機器側でPCM変換してから入力する必要がある。入力端子はmicroUSB端子と光/ステレオミニ兼用端子を備え、PCとはUSBケーブルを介して、スマホとはOTGケーブルなどを介してつなぐ。またDAP(デジタルオーディオプレーヤー)の光デジタルから出力信号はもちろん、一般的なプレーヤーとアナログ接続することもできる。ノイズ対策を施した「専用USBケーブル」も付属する。

↑光デジタルの入力はミニプラグ形状の兼用タイプとなっているため、一般的な光ケーブルの場合はアダプターで変換する必要がある
↑光デジタルの入力はミニプラグ形状の兼用タイプとなっているため、一般的な光ケーブルの場合はアダプターで変換する必要がある

 

操作系はとてもシンプルだ。ボリューム操作は右側のハウジングに装備し、側面にはバッテリー残量を示すインジケーターも用意するので、一目でバッテリー残量がわかるようになっている。入力の切り替えは電源ボタンを短押しすることで順番に切り替わっていく。操作時は“ポッ”とアラームが鳴るため、装着しながらの切り替えでも不自由はない。

↑入力中の信号はアームのそばにあるインジケータで把握できる
↑入力中の信号はアームのそばにあるインジケータで把握できる

 

フルデジタルならではのキメ細かいサウンド

ヘッドホンを装着するとその瞬間から周りの音が一気に遮断される。ソフトパッドの密着度が極めて高いためだ。そして再生。無音状態から音楽が始まると立ち上がりから圧倒的なレンジの広さには鳥肌が立つほどだ。音の粒立ちがとても細かく、高い解像度がそのまま広がりへとつながっている。デモで用意されたオーケストラの演奏を聴くと、背景で演奏されるコントラバスの低音がズンズンと控えめに聞こえるが、控えめであっても存在感を伝えてくるのだ。その表現力の豊かさには思わず言葉を失ってしまった。

↑試聴には光デジタル出力を備えた定番のDAP「Astell & Kem AK300」を組み合わせた
↑試聴には光デジタル出力を備えたポータブル音楽プレーヤー「Astell & Kem AK300」を組み合わせた

 

なお、充電時間は約4時間で、電池持続時間はUSBモバイル接続の場合で約6時間、光の場合は約12時間、アナログの場合は約10時間となっている。長時間にわたって聴いていられる十分なスペックといっていい。

↑左側側面で表示するバッテリーのインジケーター。通常時は青で、満充電時は緑、30%以下は赤で表示
↑左側側面で表示するバッテリーのインジケーター。通常時は青で、満充電時は緑、30%以下は赤で表示

 

まさに音楽を味わい尽くせるヘッドホンといっていいが、強いて難を挙げるのであればそれは実売価格だろう。一応オープン価格とはなっているが、実売は14万円前後を想定し、発売後約1か月が経ったいまも13万円台後半となっているからだ。これに対応プレーヤーを組み合わせればちょっとした高級オーディオシステムが揃えられてしまう。とはいえ、良い音を自宅で楽しむにはそれなりの環境も整備しなければならない。そうした背景を考えれば、このヘッドホンの存在意義が見えてくる。周囲を気にせず音楽に浸ってみたいという人に、ぜひおすすめしたいヘッドホンだ。

 

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