本・書籍
2018/1/18 11:00

93歳の大作家・佐藤愛子が真剣にふざけた孫との年賀状が面白すぎる

最近、ここまでお腹を抱えて笑ったことがあっただろうか?
そもそも、この1年、あまり笑っていなかったような気がする。

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昨年の節分の日に、義父が亡くなってから、なんだかしょんぼりしてしまい、毎日をやりすごすという感じだった。
だから『孫と私の小さな歴史』(佐藤愛子・著/文藝春秋・刊)を読んだのだろう。私は元気がなくなると、いつも佐藤愛子さんの本を読んでは立ち直ってきたからだ。

 

 

ひたすらに笑った、それも、3段階に

それにしても、今回はお腹を抱えてではすまなかった。苦しいほどに笑った。それも、3段階に分けて…。まずは写真で笑い、エッセイで笑い、対談で笑った。種類が違う笑いだった。

 

『孫と私の小さな歴史』は、佐藤愛子さんと孫の桃子さんが、この20年間、作り続けた写真付きの年賀状をまとめ、それにエッセイをつけたものだ。

 

1度だけ、自宅を建て直すために、マンション住まいをして忙しかったので年賀状どころではなく、撮影しなかったという。適当にお茶を濁して作ることも出来ただろうに、著者はそれをしなかった。

 

手を抜いて作るという「譲歩」は著者にはできないことだからだ。

 

 

奇っ怪でいながら、胸に迫る年賀状

孫と一緒の写真付き年賀状というと、着物姿もあでやかな作家が、かわいらしい赤ちゃんのお孫さんを抱いているといった画像を思い浮かべるだろう。けれども、そういう気持ちで、1992年の年賀状を見たら、きっとのけぞる。

 

笑うのも忘れてのけぞる。

 

猫の着ぐるみを身につけた佐藤愛子が、パンダの着ぐるみを着たお孫さんを抱いている。
それも、おばあちゃんの方が派手だ。そして、嬉しそうに笑っている。さらには、あぐらをかいている。

 

一方、膝に抱かれた桃子ちゃんは、ちょっと悲しそうな顔をしている。「とっつかまった」という表情で、きょとんとしている。佐藤愛子さんは全身で猫になりきっているのだが、桃子ちゃんはかぶりものだけ…。

 

ひとつ謎なのが、二人の前に、お仏壇の鈴がおいてあることだ。二人の姿も理解するのが難しいが、鈴の存在は理解不可能だ。
けれども、笑える。ただ、ひたすらに、笑ってしまう。

 

 

20年間の頑張り

それにしても20年もの間、こんなに頑張り続けたものだとうならないではいられない。毎年、テーマを決め、構図を考え、小道具を用意する。ふざけているように見えて、真剣そのもの。プロの技だ。それでいながら、カメラマンにはプロを頼まない。

 

佐藤さんのお嬢さんであり、桃子さんのお母さまである響子さんが、プロデューサーとして頑張り、カメラマンとなり、年賀状の完成まで責任をもってとりしきるのだ。

 

佐藤さんの体の具合が悪くても、思春期に入った桃子さんが気が乗らなくても、マンネリ化によるスランプに陥ろうとも、とにかく響子さんは撮り続けた。佐藤愛子さんの無茶ぶりにも負けず、桃子ちゃんをなだめ、締め切りまでにきちんと完成させてきたのだ。

 

すごい。『孫と私の小さな歴史』の本当の作り手は、響子さんではないだろうか。

 

 

爆笑しないではいられないテーマ

年賀状のテーマは以下の通り

1992年 パンダの巻
1993年 トトロの巻
1994年 カリブの海賊の巻
1996年 幼稚園児の巻
1997年 インディアンの巻
1998年 カンフーの巻
1999年 ドラキュラの巻
2000年 コギャルの巻
2001年 運動会の巻
2002年 赤ちゃんの巻
2003年 幽霊と三つ目小僧の巻
2004年 泥棒の巻
2005年 晒し首の巻
2006年 どじょうすくいの巻
2007年 メイドカフェの巻
2008年 夫婦喧嘩の巻
2009年 ままごとの巻
2010年 大根踊りの巻
2011年 葬式の巻
どれも傑作だが、私はとくに「大根踊りの巻」と「晒し首の巻」と「どじょうすくいの巻」が好きだ。

 

しかし、佐藤愛子さんは自分に厳しい。
2001年の「運動会の巻」は菊池寛賞を受賞して、多忙を極め、疲労のあまり満足できるものに仕上がらなかったと、反省している。

 

人はどう思うか知らないけれど、あれは私の生きざまのあかしとなるもの、そう思って心血注いで作って来ているものです。緻密な考察、準備、心構えが必要なのです。

(『孫と私の小さな歴史』より抜粋)

す、すごい。
こうして、抜き書きしていても、熱気が伝わってくる。写経のように、本の全部を移したくなるほどだ。

 

 

佐藤愛子の文章を写し続けたときがあった

私はエッセイを書き始めた頃、好きな作家の文章をノートに写し、その字配りや、表現、接続詞の位置などを、腕というか、体に覚えさせようとした。

 

佐藤愛子の小説も写した。漢字の場所や、段落替えなど、私にはできない技術がちりばめられているのを感じないではいられなかった。そして、私には到底、小説を書くのは無理だと思い知った。才能があるってこういうことなんだなと感じた日々であった。

 

それでも、『老残のたしなみ』という本が文庫化されたとき、なぜか私に解説を書くようにという依頼があった。恐れ多いと思ったが、書かせていただいた。そのことを一番、喜んだのは、何を隠そう(隠してはいないが…)亡き義父の三浦朱門だった。

 

義父は「へぇ、愛子さんの解説するの?よかったね~~」と、本当に嬉しそうだった。

 

そんなわけで、私もしょんぼりしているのを卒業し、『孫と私の小さな歴史』を傍らに、笑って2018年を生き抜こうと思う。

 

 

【著書紹介】

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孫と私の小さな歴史

著者:佐藤愛子
出版社:文藝春秋

これは……誰?!  新年早々の生首に衝撃を受け、美貌で知られる作家本人と知り、もう一度衝撃を受けるーー。初孫の誕生以来、ごく親しい友人だけに送り続けた2ショット年賀状。トトロやコギャル、はては生首まで登場する扮装は驚愕、爆笑を誘い、ついに伝説になった。20年に及ぶ「理由なき暴走」を単行本全収録。祖母・母・孫3代座談会で明かされる年賀状作成秘話、理不尽に耐えた孫の激白を大公開。書き下ろしエッセイや、かつて書いた孫の成長記録も収録。

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