本・書籍
2015/4/1 0:00

出でよ!名もなき味の求道者たち

少し前、”青黒/金白問題”が話題になった。イギリスで売られているドレスのストライプが青と黒に見える人、金と白に見える人の二つのグループに分かれた、あの出来事だ。 さまざまなサイトで展開された解説をまとめると、この現象は錯視といい、青黒に見える人は右脳の活動が活発な感覚的・クリエイティブ型人間、金白は左脳が活発な論理的・数学型人間であるらしい。

 

ただ、脳内で起きる奇妙な現象は視覚に限ったものではない。

 

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体を張った食のフィールドレポート

前々から気になっていた『プリンにしょう油でウニってホント?:試してみました ウワサの食べ合わせ』は、さまざまな食材の組み合わせでまるで違う味を創り出すレシピをフィールドレポート的に紹介する、体を張った一冊だ。 超初級編のプリン+しょう油=ウニから、変化球的なテイストのヨーグルト+イカの塩辛=キャビア、そして味の類似性・食感・香り・見た目・おいしさという各パラメーターで満点を叩き出した甘納豆+ブランデー=マロングラッセまで、60種類以上のコンビネーションが紹介されている。 実は、子どもの頃、ロッテのフルーツガムと草加せんべいを一緒に食べるのが好きだった。甘じょっぱくて、ものすごく食感がいい極上羽二重もちのみたらしフレーバーみたいな食べ物になる。ただ、ガムを飲み込むと体内に7年間残るという都市伝説を知ってからやめた。

 

味蕾が起こすイリュージョン

味を感知して脳に伝える味蕾の感度は人さまざまで、加齢と共に感度に変化が訪れることも知られている。そういえばこの間、近所の天ぷら屋さんで天丼にダバダバしょう油をかけておいしそうに食べているおばあさんを見た。
人種によって味蕾の絶対数に差があるのも事実だ。ざっくり分けると一番多いのが黄色人種(特に日本人)、黒人、そして白人(黄色人種の70%程度)という並びになる。同じ白人種であっても、イタリア人とスペイン人などラテン系民族は味蕾の数が多く、逆にイギリス系アングロサクソン民族はかなり少ない。アメリカ国立衛生研究所の論文アーカイブにも、味蕾の絶対数と感度に関する論文がいくつか収められている。 ネット上でも変則レシピに関するネタは多い。カップ麺にナタデココとかマーマレードとか、さまざまな食材をちょっと足してありなしを判定する”ちょい足しレシピ”というコーナーが人気の番組もあった。

 

筆者も少し体張りました

それでは、味蕾が少ないとされている人たちにも”プリンにしょう油”あるいは”ちょい足し”的な感覚はあるのか? 調べてみると、なかなか面白い組み合わせのレシピが見つかった。これを忠実に守って作り、実際に食べてみたのが以下の6品。それぞれ絵面を想像しながらお楽しみください。

 

・ピクルスにフロストシュガー
顆粒状の砂糖をピクルス全体にまぶす。まあ、食べられなくはないというレベル。千枚漬けやべったら漬けみたいな味。歯ごたえがいまいちなのは、ピクルスのブランドによるものかもしれない。

 

・ミートソースにM&Mひとつかみ
M&Mの量は、手のひらいっぱいくらい。フランスにも〇〇のチョコレートソースがけみたいな料理があるが、甘味が際立つタイプのチョコレートでも意外に合う。色とりどりのコーティングのパリパリした食感もアクセントになって楽しい。

 

・ピーナツバターとマヨネーズのサンドイッチ
ピーナツバターは甘さ控えめのクランチタイプ。マヨネーズのほのかな酸味とあいまって、八丁味噌っぽくなる。見た目を裏切るおいしさ。

 

・マヨネーズとゼリーの層を交互に積み重ねて冷やしたやつ
完成品の色どりを考え、ゼリーはいちごとメロン、そしてレモンを使用。パフェグラスに入れるとすごくかわいいが、すごくまずい。食感も最悪レベル。

 

・いちごジャム入りグリルド・チーズサンドのトマトスープ浸し
フレンチディップ的な仕上がりを期待していたが、スープに浸した時点でどうかなという感じ。味がバラバラになると思っていたら、意外な一体感が生まれた。ベーコンとパイナップルのピザみたいな、甘味+酸味+塩味の絶妙なバランス。

 

・チートスを粉状にして衣にしたフライドチキン
チートスを粉々にしてフライドチキンにまんべんなくまぶし、レンジで4分ほどチンする。これが一番うまかった。ビールのあてに最適。オンザライスも試したが、ごはんとの相性も抜群。中高生のお弁当にもぴったり。

 

最初こそキワモノ扱いされていたテックス・メックスだって、今やアメリカ料理のメジャーなジャンルだ。”プリンにしょう油”的感覚は、新時代の味のトレンドの指標となる可能性を秘めている。偉大なるオーソドックスが、意外すぎるキワモノから生まれることだってあるはずだ。

 

(文:宇佐和通)

 

 

【文献紹介】
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プリンにしょう油でウニってホント?
著者:田中ひろみ
出版社:アドレナライズ

「プリンにしょう油をかけるとウニの味になる」 「キュウリにハチミツをかけるとメロン味になる」  巷に流れる食べ合わせのウワサ。あなたも耳にしたことがあるのでは?  好奇心いっぱいの著者は、さまざまな食べ合わせのウサワを集め、カラダを張って試してみました。

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