日常において、我々はたいてい名字で呼び合っています。「田中さーん!」「はい、佐藤さん何でしょう?」というような感じです。
しかし、ちょっと考えてみてください。どうしてあの人は「田中」なのでしょうか。そして、なぜ同じ名字の人がいたりするのでしょうか。本日は「名字」の謎に迫ってみます。
「氏」「姓」「名字」の違い
日本人の場合、名字のほかに「氏」(うじ)や「姓」(かばね)と呼ばれるものがあります。これらは一見同じようですが、成り立ちが違います。
氏…親族集団の総称。藤原氏、源氏、平氏など。
姓…各氏族や個人に与えられた位。
朝臣(あそん)(例:平朝臣清盛)
宿禰(すくね)(例:武内宿禰)など。
名字…分家した結果、氏以外の呼び名が必要となり用いた称。現在の名字と同意。
例:渡辺、佐藤など。(『名字の世界 あなたのルーツがわかる』より引用)
「氏」は天皇から賜ったもので、「姓」は当時の役職。そしてそれ以外は「氏」から派生して地方に移り住んだものたちが自ら名乗ったものなのです。
現在では「氏」も「名字」も同じものです。しかし、歴史上の人物において「氏」と「名字」を簡単に区別する方法があります。フルネームを呼ぶときに「の」が入れば「氏」、入らなければ「名字」なのです。
たとえば「藤原鎌足」は「ふじわら“の”かまたり」となるので「氏」、「徳川家康」は「とくがわいえやす」で「の」が入らないので「名字」ということです。
「名字」の由来は「住んでいた場所」と「職業」
さて、「氏」から派生してできた「名字」ですが、みなさんはどうやって名字が生まれたと思いますか? 「田中」さんは「田んぼの中に住んでいたから」というように、そのとき適当に付けたということを聞いたことがあるかもしれませんが、実はそうではありません。
名字のほとんどは、「住んでいた場所」と「職業」を由来としています。例をいくつかご紹介しましょう。
◆住んでいた場所に由来
そこに住んでいた一族、または移住してきた一族がその地名を名字とした例。また、その地域の習慣や、集落での位置から名字となった例もある。
渡辺…摂津国渡辺橋が発祥。嵯峨源氏の流れをくむ源綱(みなもとのつな)が居住し名乗ったことに始まる。
高橋…大和国高橋邑が発祥。神社にある「高」い丸木「橋」に由来するとする説がある。
鈴木…紀伊国熊野が発端。この地方では、刈り取った稲穂を積み上げたものを「スズキ」と読んでおり、それに漢字を当てたもの。
中村…集落から発生。中心となる村という意味で、本村や本郷と同じような意味。
◆一族の職業に由来
一族の官職、生業(なりわい)を名字とした例。そのまま使用する場合と、少々変化させる場合がある。
佐藤…藤原北家の藤原公清(ふじわらのきみきよ)が就いた官職「佐」(すけ)から、「佐」の「藤」原さんとしてつくられた名字と言われる。
伊藤…公清の孫・尾藤基景(びとうもとかげ)が伊勢国に領地を得て「伊」勢国の「藤」原さんを名乗ったことが発端。伊豆国の場合も。ちなみに尾藤は「尾」張国に領地を得た「藤」原さん。
忌部(いんべ)…古代の職業部「いんべ」に由来。紙に奉仕する職業である。
服部…古代の職業部「はとりべ」に由来。衣服の製作を行っていた。(『名字の世界 あなたのルーツがわかる』より引用)
日本の名字のほとんどは、このどちらかのパターンが元となっています。「佐藤」「伊藤」「斎藤」など「藤」の付く名字は、ほとんどは「藤原」という氏が発祥というのがわかりますね。だから、日本に数が多いのでしょう。恐るべし、藤原氏。
「三浦」のルーツを探る
僕の名字は「三浦」です。父親は宮城県石巻市の出身。子どものころ聞いた話では、「東北地方に多く、元々は豪族だった」ということです。確か、日本史の教科書にもちょっとだけ名前が出てきたことを記憶しています。
実際に、この「三浦」という名字はどういう経緯でできたのでしょうか。
三浦半島に端を発する桓武平氏、いわゆる坂東平氏の一氏族。平氏でありながら源氏方で戦い、源頼朝の挙兵の際にも呼応している。奥州合戦の際に移住した一族があり、このため現在も東北地方に三浦姓は多い。
(『名字の世界 あなたのルーツがわかる』より引用)
おお! 確かに神奈川県には三浦市があり、三浦半島もあります。そこから東北に移り住んだ一族が、僕のルーツということになりますね。父親の言っていることはだいたいあっています。
名字を学べば歴史がもっと身近になるかも?
しかし「平氏でありながら源氏方で戦い」というところ、なんとなくわかります。僕、東京生まれ千葉県育ちですが、生粋の阪神タイガースファン。これは父親の影響なのですが、父親は周りが読売ジャイアンツファンばかりなので、あえて阪神ファンになったとのこと。こういうところも三浦の血なのでしょうか……。
(文:三浦一紀)
【文献紹介】
名字の世界 あなたのルーツがわかる
著者:インデックス編集部
出版社:イースト・プレス
名字の世界は広く深い。庶民が名字を持つようになったのは明治初期だと広く認識されているが、実際はもっと古い時代から人は名字を与えられていたとされる。本書では古今東西の名字、約1900種類を網羅した。名字の歴史に触れることは、自分の歴史、そして日本の歴史に触れることにつながる。あなたのルーツはどこにあるのか。商家か武家か、もしかしたら源平の血を引いているかもしれない。そんな名字の世界、そっと扉を開けてみよう。