なぜ、漫才やコントで笑ってしまうのか?
『サンキュータツオの芸人の因数分解』(サンキュータツオ・著/学研プラス・刊)は、30組のお笑い芸人を分析することによって、笑いの「文法」と「文体」を言語化しています。
Yahoo!(ヤフー)のことを「ヤホー」と言い間違えているように、ナイツのボケ担当・塙さんが「○○について検索した」という内容も、わたしたちが知っている事実とはビミョーに異なります。その「ズレ」や「あざとい言い間違え」が笑いを誘います。
土屋さんは基本的にコメントしてるだけ、塙さんは言い返しはしない、という独特な構造なのです。これらの方法によって彼らは、漫才としてこれ以上ボケを入れられない、というほどの密度とスピードを実現しています。
(『サンキュータツオの芸人の因数分解』から引用)
ナイツは「10秒ごと」にボケている
ちなみに、高速漫才で有名なNON STYLEと比較してみます。「エレベーター」というコントがあります。3分20秒のネタです。数えると、ボケは23回でした。8.6秒につき1回ボケています。会話形式のボケとツッコミなので、早口によって「密度とスピード」を実現しています。
一方で、「ダウンタウンについてヤホーで調べた」という内容のナイツの漫才は2分45秒のネタです。数えると、ボケは17回でした。つまり、9.7秒につき1回ボケています。ゆったりとした口調にもかかわらずNON STYLEに迫るくらいのボケ回数です。
ボケを成立させるためには、前フリとなる会話が必要ですNON STYLEの場合、早口会話によってボケまでの距離を縮めています。一方のナイツは、「インターネットの検索結果(ボケ)を羅列する」というスタイルによって、前フリなしで多くのボケを成立させています。
笑いのメカニズムは、学術的に説明可能です。たとえば、漫才コンビ「昭和のいるこいる」のネタが面白い理由は、言語学者のポール・グライスが提唱した「会話の公理」によって説明できます。
「昭和のいるこいる」のひみつ
のいるこいるのネタの妙味は、やや専門的に言いますと、グライスという学者の提唱した「会話の公理」という会話の「ルール」みたいなものを破っているところにあります。
(中略)
のいるこいるの場合は「関係性の公理」、つまり「関係のあることを言え」というルールを破っているのです。(『サンキュータツオの芸人の因数分解』から引用)
「昭和のいるこいる」といえば、ボケ担当の昭和こいる師匠が、反省すると言いつつ、前かがみになって両手を小きざみに振りながら「ハイハイハイハイ」と、テキトーに謝ってみせるネタが有名です。
ある漫才ネタでは、ツッコミ担当の昭和のいる師匠が「寒くなりましたね〜」と前フリをすると、ボケ担当の昭和こいる師匠は「あー寒い寒い寒い寒い」とテキトーにあいづちを打ちます。さらに、「寒いからインフルエンザが流行っている」という前フリには、「あー、流行ってるね。良かった良かった」と、チグハグな受け答えをします。
まさに「関係性の公理」を反転させた笑いです。テキトーでふざけているように見えますが、じつは高度な言語テクニックによって「笑い」が構築されていることがわかります。
30種類の「文体」と「文法」
『サンキュータツオの芸人の因数分解』は、新旧さまざまな芸人たちにまつわる「笑いの分析」を収録しています。
【コンビ芸人】
サンドウィッチマン、ブラックマヨネーズ、笑い飯、おぎやはぎ、中川家、チュートリアル、オードリー、U字工事、Wコロン、南海キャンディーズ、ナイツ、パンクブーブー、しずる、ジャルジャル、スリムクラブ、昭和のいるこいる、はんにゃ、ハライチ、マシンガンズ、タカアンドトシ、POISON GIRL BAND、キングオブコメディ
【ピン芸人】
バカリズム、ヒロシ、AMEMIYA、中山功太、世界のナベアツ、いとうあさこ、キャプテン渡辺、柳原可奈子
どれも「なるほど!」と思わせる分析です。笑いのテクニックを理解したあとに、それぞれの漫才やコントを観直してみてはいかがでしょうか。
【著書紹介】
サンキュータツオの芸人の因数分解
著者:サンキュータツオ
発行:学研プラス
お笑いを研究する早稲田大学大学院卒の学者芸人・サンキュータツオが、同業者を舌鋒鋭く分析する「お笑い芸人研究本」!
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