大作家・瀬戸内寂聴の行く先々で、介添えをしている肉食系美女。数年前から公の場で目撃され始めました。
彼女の献身ぶりについては、多くの人たちが目撃しています。「秘書」と名乗っているけれど、熱狂的な寂聴先生のファンが嫉妬しかねないくらい、ふたりの仲は親しげです。
師弟愛? もしかして、寂聴先生が得意なエロスの新境地では!? 出版関係者や寂聴ファンのあいだで、さまざまな憶測がささやかれていました。彼女は、いったい何者なのでしょうか?
美人秘書の正体
美人秘書の名前は、瀬尾まなほ。1988年生まれの女性です。1922年(大正11年)生まれの寂聴先生とは、なんと66歳差! 曾孫(ひまご)ほど離れているのに、まるで女学校の姉妹(スール)のように仲良しです。
そんな彼女が、大作家・瀬戸内寂聴との関係を赤裸々につづったのが、『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(瀬尾まなほ・著/光文社・刊)というエッセイ集です。
無名な書き手のデビュー著書にもかかわらず、2018年3月16日現在、発行部数が11万部を突破しています。ゴシップ趣味で読んでみたところ、驚くべき内容が書いてありました。
寂聴も認めた敏腕女子
「もう、起きているかな?」
と先生が寝ている部屋のふすまを開けるとき、わたしの朝も「耳を澄ませる」ことから始まる。
「グー。グー」いびきが聞こえると、「良かった。死んでいなかった」とホッとする。(『おちゃめに100歳! 寂聴さん』から引用)
瀬尾さんは、とにかく型破りです。ふつうは恐縮して口に出さないようなことでも、寂聴先生に言ってみせます。
「無礼者!」と寂聴ファンに叱られたこともありますが…当の寂聴先生は、瀬尾さんの「物怖じのない言動」に腹を立てることはないそうです。むしろ、面白がっています。
寛大な扱いには、もちろん理由があります。瀬尾さんが、寂聴先生の食事、洗濯、原稿〆切のスケジュール管理などを引き受けて、すべて見事にこなしているからです。京都嵯峨野にある寂庵(寂聴先生の住まい)の離れで寝起きしているので、もはや家族同然といえます。
66歳差の秘書・瀬尾まなほさんは、もうすこしで100歳をむかえる寂聴先生に楽しい変化をもたらしました。それは思わず「えっ、本当に?」とびっくりする内容です。
寂聴先生、90代でパン好きになる
わたしが献立を考えるときは、苦手な和食はパス。必ず洋食にし、パンが欠かせない。「パンなんて普通じゃない」と拍子抜けされるかもしれないけれど、先生はわたしと朝食をとるまで、ほとんどパンを食べなかったそう。
(中略)
先生はメイプルキャラメル味がお気に入りで、「おいしい。おいしい」とうれしそうにほおばってくれる。(『おちゃめに100歳! 寂聴さん』から引用)
寂聴先生が、美人秘書の瀬尾さんに教わったのは「パンのおいしさ」だけではありません。じつは、寂聴先生が「お菓子」を食べるようになったのも、若い女性である瀬尾さんの「スイーツ好き」に影響されたからだそうです。
菓子折りをおみやげにして寂聴先生を訪ねてくる人は、あとを絶ちません。しかし寂聴先生は、いままで甘いお菓子に見向きもしませんでした。
それなのに、スイーツ好きの瀬尾さんが来てからは「お菓子っておいしいのね。こんなにおいしかったなんて。今まで食べなかったのが惜しい」と言って、天台宗の尼僧からスイーツ女子へと宗旨替えしたそうです。
奇縁が結びつけた「最強のふたり」
先生は強い人だけど、先生は孤独だ。孤独を好んで生きてきた。本当に苦しいと弱音を言える人はいるのだろうか。誰かに心から頼ったりできるのだろうか。
「わたしは死んでも先生を守ります、先生が嫌じゃなければ」という気持ちでいる。(『おちゃめに100歳! 寂聴さん』から引用)
寂聴先生が健やかなときだけでなく、90歳をすぎたときに発覚した「胆嚢がん」の闘病生活を支えたのも、瀬尾さんでした。衰弱と激しい痛みと向き合う寂聴先生を、身の回りの世話をしながら瀬尾さんは励まし続けました。
今でこそ、離れがたい関係になったふたりですが…。じつは、瀬尾さんは「瀬戸内寂聴」のことを何も知らず、ただのお坊さんの世話係のつもりで面接を受けて採用されてしまった、というエピソードがあります。
新米秘書の瀬尾さんは、生身の「瀬戸内寂聴」と寝食を共にするなかで、多くの人たちに慕われ尊敬される姿を目の当たりにします。そのあと、興味をもったので、出家する前の「瀬戸内晴美」時代の著書を読んで、おちゃめに見える老作家が歩んできた修羅道のような人生を知りました。
話題の美人秘書・瀬尾まなほさんは、「過去の栄光」から瀬戸内寂聴のことを知ったのではなく、「ありのまま、生身のすがた」から寂聴の本質を感じ取るという貴重な体験をした人物です。本書を読むと、人と人が理解しあうことの不思議や大切さについて考えさせられます。
【著書紹介】
おちゃめに100歳! 寂聴さん
著者:瀬尾まなほ
発行:光文社
95歳の寂聴先生。2014年の壮絶だったがん闘病、そして今年はじめの緊急入院で2回のバイパス手術。しかし、目を見張る回復ぶりで術前より元気が漲っている―――。「まなほが来てから、よく笑うようになったと言われるのよ」その年齢を超越した元気の源は、7年前から傍らで24時間支えている秘書の著者だ。なんとその年齢差66歳!