ひとりぼっちで食事をする。会話する相手がいない。ひとりごとが増える。内省的になる。不快な記憶がよみがえる。憂鬱になります。
『鬱ごはん 1』(施川ユウキ・著/秋田書店・刊)は、ひとりで食事をするときの「内省」と「独白」を描いたグルメ漫画です。
この漫画の主人公は、就職浪人の青年です。気が弱いくせに、斜に構えた性格のせいで人生がうまくいきません。生きづらい毎日のなかで食べることだけが楽しみなのですが、孤独であるがゆえの「困難」や「試練」にぶつかって、いつも悩んでいます。
食券店から去るタイミングで一声かける?
食券制は
食べ終わったらそのままスッと帰るので
食い逃げしてるような気分になる目の前に店員がいれば
「ごちそうさま」の一言も言いやすいが…(『鬱ごはん 1』から引用)
たとえば、牛丼屋にて。店員さんが厨房の奥で作業している、という仮定のシチュエーションです。
もしも2人以上だったら、ツレの相手に「さあ、帰ろう」などと声をかけることができます。厨房にいる店員さんも察しやすく、「ありがとうございました」と言って見送ってもらえるので、名実ともに清々しい気持ちで退出できます。
ひとり客の場合、ひとりごとで「さあ、帰るかなー」などと言えるはずもなく、だからといって「ごちそうさまでした」と言うのが気恥ずかしい場合、落ち着かない気持ちで店の出口へと向かいます。
このとき、ドキドキします。席を立った物音で気づいてくれることを祈りながら……。たいていの店員さんは、ドアの開閉音を目安にしているようですが、それでも気づいてもらえない時があります。食券機で支払いは済んでいるにもかかわらず、背後から「ありがとうございましたー」の一声がもらえなかった時には、まさに「食い逃げ」の気分を味わうことになります。
ハンバーガーショップでこぼしたときは?
トレイを持って階段を上がるのは
大人になっても緊張するな…うおぅ!? あ!
やべっ トレイがびちょびちょに…!
後ろから見られてないよな…
怖くて振り向けない(『鬱ごはん 1』から引用)
セットメニューを注文すると、Mサイズ以上のドリンクがついてきます。店内で食べるときには、ハンバーガーやポテトフライなどがトレイに載っています。ドリンクが入っている紙カップにはプラスチックのフタをかぶせてあるので、たとえ転倒しても、運が良ければカップのなかの液体はこぼれません。
フタがはずれて、トレイ上にドリンクをぶちまけたとしても、トレイ内で納まってくれれば大事(おおごと)には至りません。「せっかくのハンバーガーやポテトフライが水浸しになってしまった」で済みます。
恥ずかしいのは、こぼれた液体がトレイを乗り越えてしまった場合です。ドリンク入りの紙カップを、床やテーブルに落下させた場合には、大恥をかくことになります。
そんなとき、2人以上で来店していれば、「恥ずかしさ」を分かち合うことができます。しかし、ひとり飯の場合、耐えがたい恥辱を一身に受け止めなければならず、まさに生き地獄を味わうことになります。
次に紹介するのは、「ひとり飯」中級者向けのシチュエーションです。
コンビニのイートインに先客いたらどうする?
イートインコーナーでゆっくり休憩しながら
ソフトクリームを食す
コレが正解だ!!
(中略)
せ…先客を見落としてたー!!!
女子高生のグループだと…!?(『鬱ごはん 1』から引用)
コンビニ店内のカウンター席(イートイン)は、狭小空間です。1つの席が埋まるだけで圧迫感が生じます。
●=着席
○=空席
【例】
●○○○○●
ひとり飯の場合。6席のうち4席以上が空いている、もしくは1番乗りでなければ、イートインコーナーで飲食する気持ちにはなりません。
【女子高生グループ】
●●●○○○
一見すると、右端にインサートする余地がありそうですが、心理的ハードルは高いです。ひとりで来店した成人男性が、ソフトクリームを持ちながら乗り込むには勇気がいるシチュエーションです。
ミスドのセルフサービス列の順番ルールは?
な…並ばれてる!?
そうか! コレはレジに並ぶのと商品を取るのが
同時に行われるシステムなのか!ヤベエ!!
オレのせいで流れが止まっている!
あわわわわ……(『鬱ごはん 1』から引用)
休日の午前中、平日の夕方ごろ。ミスタードーナツに行くと混み合っています。トレイとトングを取って、レジに向かって並んでいるうちに、食べたいドーナツを選びます。
ひとり飯(ひとり喫茶)の場合、食べられる量は1つか2つなので悩むことはありません。しかし、2人以上で来ている人たちは、ひとり客の2乗の時間をかけてドーナツを選んでいる印象があります。
家族連れの場合、子どもが食べたいものをすぐに決められません。友人連れやカップルの場合、どちらか片方が決めあぐねています。そのほか、ひとり客のように見える「持ち帰り客」の場合も、10個以上のドーナツを選ぶために時間をかけています。
ミスドのセルフサービス行列においては、「追い越しにくい」のが実情です。目の前にいる家族連れの客が「迷いトング」をしているので追い越そうとすると、「追い越される」と悟ったのか急にトングの動きが速くなったりします。「追い越されたくないモーション」です。気持ちはよくわかります。誰だって自分の順番を飛ばされるのはイヤでしょう。
無理な追い越しはトラブルの元です。こちらとしても、相手が望まない追い越しをするつもりはありません。しかし、わたしが追い越さなければ、わたしの背後で待っている「すでにドーナツ選択を終えた客」が、わたしのことを追い越そうとします。殺るか殺られるか。ミスドの行列では、いつも脇汗をかいてしまいます。
この世は、多勢に無勢と決まっています。ひとり飯は苦難の連続です。グルメ漫画なのに胃が痛くなる『鬱ごはん』。お試しください。
【著書紹介】
心とカラダを浄化する方法 すっきり、キレイに生まれ変わる!
著者:施川ユウキ
発行:秋田書店
就職浪人生・鬱野たけし。人と食事するのは好きじゃないし、たいして食に興味もない…。鬱々とした想いの中で日々、ひとりめしを食う。 読むと食欲が失せるアンチグルメ漫画!