テレビやインターネットでは、AI(人工知能)というフレーズがもはや珍しくありません。「仕事を奪われる!」「人類を滅ぼす!?」という物騒なニュースもよく見かけます。
AI(人工知能)は、わたしたちの味方なのでしょうか?
それを知りたければ『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(松尾豊・著/KADOKAWA・刊)がオススメです。人工知能研究の歴史、機械学習とディープラーニングの原理、未来予測などを1冊で学ぶことができます。
「天気ゲーム」で人工知能を理解する
「日本の47都道府県のうち、10ヶ所だけの天気情報を元にして、残り37ヶ所の天気をできるだけ当てるゲーム」の話をします。人工知能を理解するときの助けになるからです。
はじめは、JIS規格で定められている「都道府県番号」の登録順に従って、まさに「機械的」に選んでみましょう。
特徴表現①:(北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬)
(『人工知能は人間を超えるか』から引用)
このピックアップの仕方では、高得点は狙えません。北海道・東北・北関東に集中しているため、そのほか地域の天気を予測しにくいからです。
高得点を狙うためには、どのように10ヶ所を選ぶのがよいでしょうか? この文章を読んでいる「あなた」は人間だと思いますが、高得点を狙うとしたら、どのような判断基準で選びますか?
知能は「ヒトの優越性」だが……
アタマが良い人ならば、「隣り合った都道府県は天気が似ている」ことに気づきます。つまり、全国の都道府県をまんべんなく選ぶことによって高得点を狙いやすくなります。
特徴表現②:(北海道、岩手、新潟、東京、大阪、島根、高知、長崎、宮崎、沖縄)
(『人工知能は人間を超えるか』から引用)
列島の一部分しか選ばなかった特徴表現①よりも、全国各地をまんべんなく選んだ特徴表現②のほうが、まわりの天気を推測しやすいので高得点を狙えます。
このように、ある条件を満たすために最適な判断をする能力、それこそが「知能」です。計算機にすぎないコンピュータにはできないことであり、わたしたち人類の優越性です。
しかし最近の研究では、ヒトの「知能」と同じ仕組みをコンピュータで再現することに成功しています。それこそが「ディープラーニング」という手法です。
ディープラーニングの衝撃
ディープラーニングは、データをもとに、コンピュータみずからが特徴量をつくり出す。
(中略)
ディープラーニングは、人工知能の分野でこれまで解けなかった「特徴表現をコンピュータ自らが獲得する」という問題にひとつの解を提示した。つまり、大きな壁にひとつの穴を穿(うが)ったということである。(『人工知能は人間を超えるか』から引用)
「隣り合った都道府県は天気が似ている」というのが、日本の天気データから読み取れる「特徴」です。「47都道府県のうち、10ヶ所だけの天気情報を元にして、残り37ヶ所の天気をできるだけ当てるゲーム」で高得点を得たいときには、きわめて有効な判断基準となります。
これまでは、人間がその「判断基準」をコンピュータに教える(プログラムする)必要がありました。しかし、ディープラーニング手法ならば、数十年分のデータを分析することによって、コンピュータの独力で「隣り合った都道府県は天気が似ている」という判断基準を発見できるようになったのです。
ディープラーニング分析を繰り返すことで、可能なかぎり、コンピュータは特徴を見つけ出そうとします。
特徴表現③:(全国、北海道、東北、関東、関西、四国、九州、日本海側、太平洋側、沖縄)
(『人工知能は人間を超えるか』から引用)
つまり、「天気が似ている都道府県は、いくつかの地方(グループ)に分類できる」という特徴です。
四国地方や北信越地方など、わたしたち人間は、地理の授業で教わったから知っています。一方で、ディープラーニング処理をおこなうコンピュータ(人工知能)は、地理の前提知識を与えられなくても、47都道府県の天気データを分析するだけで、日本の「○○地方」という意味づけを発見することができます。
AIは人類の敵なのか?
ニュートンやアインシュタインが画期的な物理法則を発見したように、この世のあらゆるものをディープラーニングで分析することによって、AI(人工知能)が新しい特徴量を発見できるかもしれません。頼もしい話ですが、人間よりも賢くなるということでもあって、ちょっと怖いような気もします。
AIやコンピュータは、わたしたち人類を脅かすのでしょうか? 新書『人工知能は人間を超えるか』の著者・東京大学の松尾豊さんは、次のような見通しを述べています。
いまディープラーニングで起こりつつあることは、「世界の特徴量を見つけ特徴表現を学習する」ことであり、これ自体は予測能力を上げる上できわめて重要である。ところが、このことと、人工知能が自らの意思を持ったり、人工知能を設計し直したりすることとは、天と地ほど離れている。
(中略)
生命が発生するということと、それが知能を持つということの間には、圧倒的な乖離がある。(『人工知能は人間を超えるか』から引用)
この言葉を信じるならば、AIが反乱を起こして人類滅亡!という事態は避けられそうです。安心しました。
【著書紹介】
人工知能は人間を超えるか
著者:松尾豊
発行: KADOKAWA / 中経出版
グーグルやフェイスブックが開発にしのぎを削る人工知能。日本トップクラスの研究者の一人である著者が、最新技術「ディープラーニング」とこれまでの知的格闘を解きほぐし、知能とは何か、人間とは何かを問い直す。