ワールドカップ・ロシア大会開幕まで3カ月を切った。コロンビアが相手の日本代表の初戦は6月19日。チームもサポーターもいよいよ本気モードに入った3月23日、ベルギーで国際親善試合の対マリ戦が行われた。前半PKで先制されてそのまま試合が進み、イライラさせられる時間が長かったが、アディショナルタイムも最後の最後、試合終了間際に代表戦初出場の中島翔哉選手が同点弾を叩きこみ、なんとか引き分けに持ち込んだ。
ウクライナ戦
続く3月27日のウクライナ戦。前半21分に相手のシュートをディフェンダーがヘディングでクリアミスし、オウンゴールで失点。41分にセットプレーから槙野選手がヘディングで合わせて同点として折り返す。
しかし後半24分に右サイドをドリブルで崩され、グラウンダーを絶妙な位置に折り返されて、そこに走り込んできた相手ミッドフィールダーがワントラップで右足から放ったシュートが決勝点になってしまった。
今というタイミング。1分け1敗という成績。マリ=仮想セネガル、ウクライナ=仮想ポーランドというコンセプトを考えれば、決して満足できる結果ではない。
救いは、マリ戦で同点弾を叩きこんだ中島翔哉選手がこの試合でも終了間際に光るプレーを見せてくれたことだ。日本代表新世代の中心選手になる可能性を強く感じ取った人が多かったはずだ。
監督と選手のコメントに感じる温度差
試合後のインタビューで、キャプテンの長谷部選手は「時間はあまりない」と語った。自らゴールを決めた槙野選手は「時間はまだある」と語った。本当のところはどうなのか。まだ3カ月を切ったばかりと考えるのが正解なのか? それとも、もう3カ月を切ってしまったと考えるのが正しいのか?
ハリルホジッチ監督は、次のようにコメントしている。
「マリ戦よりいい試合ができた。得点機が2、3回あって、勝てた試合だった。今回の強化試合はレギュラーだが呼べなかった選手もいるので、ワールドカップではよりいいイメージのチームを見せられると思う。日本代表にとって難しいチャレンジが待っているが、決意と意欲を持って準備していく」
うーん。なんともデジャブなコメント。あと3戦残っている試合の相手はガーナとスイス、そしてパラグアイ。たとえ親善試合でも、まさか1勝もできないまま本番突入なんてこと、ありえませんよね?
日本代表の過去5大会の戦績
過去5大会において、日本代表がグループリーグを突破したのは、ベスト16に残った2002年日韓大会(フィリップ・トルシエ監督)と2010年南アフリカ大会(岡田武史監督)だけだ。グループリーグだけの勝敗を見ると、5大会全15戦で4勝3分8敗となっている。2002年大会と2010年大会は、いずれも2勝した。
今のままの状態で、日本代表はコロンビア、セネガル、ポーランドが相手のグループHで2勝できるか? これまでの試合を見ていると、ハリルホジッチ監督は、縦方向の速さを強く意識した戦術を好むようだ。相手にプレスをかけてボールを奪い、素早く展開させていくというスタイルだ。
ところが、残念ながら満足行く結果が出ていない。戦術面に関し、長谷部選手は「積み上げたところから始めないといけない」、長友選手は「ボール保持という選択肢も必要」と語っている。ハリルジャパンは、この土壇場になって戦術変更を迫られているのかもしれない。実際、専門家の中には監督更迭論を声高に唱える人がすでに出てきている。
プレスとビルドアップ
『サッカー最新戦術ラボ プレスVSビルドアップ』(西部謙司・著/学研プラス・刊)は、実際の試合のデータを駆使しながら展開していく戦術解説書だ。2016~2017年シーズンのUEFAチャンピオンズリーグを中心にした世界のトップレベルの試合で繰り広げられた一流チームの実際の戦術がリアルデータとして扱われる。
定点観測的な考察のキーワードとなるのは、プレスとビルドアップだ。誤解を恐れず、ごく簡単に言ってしまおう。ハリルホジッチ監督が戦術の核として強く意識しているのがプレス。そして、長友選手をはじめとするフィールドプレイヤーの脳裏に浮かんでいるはずなのがビルドアップ。まさに、これからの日本代表の戦術を考えていく上で必要なコンセプトがすべて語られている。
本書の結論は明らかだ。「どちらか」では、トップクラスの試合――もちろんワールドカップも含まれる――では勝ちきれない。
日本のサッカーの方向性を見きわめるためのツール
こうしたコンセプトは、「はじめに」に書かれた次のような文章からも理解できる。
実際にCLの上位に進出するようなチームはビルドアップの能力が高く、同時に強烈なハイプレスを仕掛けています。ビルドアップはできるがハイプレスはやや苦手、逆にハイプレスは得意だがビルドアップがうまくいかない、そういうチームもまだあります。しかし、両方できなければ勝ち抜いていけないという時期はすぐに来ることでしょう。
『サッカー最新戦術ラボ プレスVSビルドアップ』より引用
ワールドカップ開幕までの3戦で、ハリルホジッチ監督は思い切った手を打つだろうか。2010年大会の直前、岡田武史監督はフォーメーション変更を含む戦術の大幅な見直しを行い、結果を出した。
自分が代表チームを任されたら、誰をどこに配置して、どういうサッカーを目指すか。ファンなら誰でもするはずの妄想に、具体的な理由とリアリティを加えてくれるのが本書だ。ゲームとは系統が違う脳内シミュレーションを徹底的に楽しむための一冊とも言えるだろう。
筆者はこの本で、開幕までの時間をひたすら理論武装に充てていくことに決めました。
【著書紹介】
サッカー最新戦術ラボ プレスvsビルドアップ
著者:西部謙司
発行:学研プラス
現代サッカー最先端は、前線からボールを奪いにいく「プレス」と、GKからボールをつないで攻める「ビルドアップ」のせめぎあい。今のサッカーの最新面白観戦ポイントだ。試合の趨勢を握るこの戦術対決の詳細を、著者が豊富な事例を交えながら明らかにする。
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