マンガ版を読めば原著はいらない?
元木:では、このマンガ版を読めば、原著を読んだ際と同じスキルが身につくと理解していいですか?
齊藤:いろいろな意見があると思いますが、マンガであろうと原著であろうと、どのカタチで読んでも読者にとっては、その“テーマの本”なんです。ここに気がつきました。他社さんのマンガ版もそうであると思っています。ただ、マンガ版はあくまでエッセンスを抜き出して構成していますから、学びの要素は原著のほうがたくさんあります。マンガ版は、入門書のような位置づけになるのかもしれません。
元木:マンガ版なら小一時間で読めちゃう。こんなに読みやすくしてくれて、それで本が売れて、原著の読者も増える。出版社にとってこんなにうれしいことはないですよね。“読みやすい”というのは、作画のタッチや登場人物のキャラクター設定が大きく関わってくると思いますが、齊藤さんはマンガ、お好きですか?
齊藤:少女マンガ、少年マンガからは脱却しましたが好きですよ。子どものときは、少女マンガの主人公に共感してドキドキしましたが、大人の今はあんなにドキドキしませんし、少年マンガのスピード感についていけませんから(笑)。最近は、『甘々と稲妻』(雨隠ギド・講談社)や『いぶり暮らし』(大島ちはる・徳間書店)といった“食べものマンガ系”にハマっています。
元木:もしや、マンガ編集者になるのが夢だったとか? それとも文芸の編集者を目指していたとか?
齊藤:いえいえ。実はそれほど本を読むのが得意ではなく。雑誌とかビジュアルで楽しめるものばかり見ていまして。大学時代もゼミの冊子を作ったりした経験もあって、デザインをやってみたいなぁ、と思っていました。たまたま小社でアルバイト募集があって、そのままズルズルと、産休を挟むと15年お世話になっています。
元木:お子さんを産んで復帰して、ベストセラーを出すとは輝かしい! この勢いで「まんがでわかるシリーズ」は第二弾の構想は、もう進んでいるんですか?
齊藤:もちろんです。『理科系の作文技術』でいわゆるハウツー書の実績を出したので、次はメンタル面についてのマンガ版を企画しています。ビジネス評論家の楠木 新さんの新書『定年後』のマンガ版が、4月25日に発売予定です。
元木:次はあの『定年後』の本がマンガ化になるのですね? 確か人生の後半戦を輝かせるためのコツが書かれた、ベストセラーですよね。
齊藤:はい。2017年に出まして現在25万部。マンガ版のあとには新書の第二弾も出る予定です。ほかにもラインナップが控えていますのでご期待ください!
今求められているのは“役に立つマンガ”
元木:ホント、中公さんは名著をたくさんお持ちだから、続々、マンガ版が登場するんでしょうね。
齊藤:マンガ版が成立するのは、原著がしっかりとした評価を得ているからだと思います。まったくなにもない状況で『マンガ 理科系の作文技術』なんて出しても、書店さんの棚にどーんと置かれると思いますか?
元木:そうですよね。本の内容が、ちゃんとしていてこそですね!
齊藤:それに原著がないマンガですと、マンガの棚に置かれる可能性もあります。ですが原著の実績があるから、今回、ビジネスコーナーに置いてもらえた。この差は大きいです。
元木:ビジネス書を見る人は、常に「自分の役に立つナニか」を探していますものね。マンガだろうと新書だろうと“身になる”本を探しているのかもしれませんね。
齊藤:「単なるマンガではなく、役に立つマンガ」が求められている。30代、40代のニーズはそこだと思います。
元木:はい。そこに気づいた出版社が増殖していて、「まんがでわかるシリーズ」は今現在の出版界のトレンドになりつつある。これからも、中公さんならではの、知識欲を刺激するきっかけになるマンガ版、楽しみですね。
今話題のマンガで読み解く名作
『まんがでわかる7つの習慣』1080円(宝島社)
主人公とともにステップアップしていることを体感できる『まんがでわかる7つの習慣』。原著は全世界で3000万部も読まれているスティーブン・R・ゴヴィーン博士の著『7つの習慣 成功には原則があった!』(キングベアー出版)
『まんがでわかる 伝え方が9割』1296円(ダイヤモンド社)
『まんがでわかる 地頭力を鍛える』1404円(東洋経済新報社)
どちらも主人公をかわいらしい女性に設定したことで、原著とは異なる層の女性読者が多い。
『漫画 君たちはどう生きるか』1404円(マガジンハウス)
児童文学者でありジャーナリストの吉野源三郎による『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)は80年前の著。写真中央は現代仮名遣い版で、写真右がマンガ版(ともにマガジンハウス)。
【プロフィール】
中央公論新社 / 齊藤智子(左)
大学卒業後、アルバイトで中央公論社(現・中央公論新社)に入社。現編集部にて一般書籍や美術書のほか、『猫ピッチャー』『母娘問題』などのコミック表現のジャンルにも携わる。
ブックセラピスト / 元木 忍(右)
ココロとカラダを整えることをコンセプトにした「brisa libreria」代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とつねに出版に関わり、現在はブックセラピストとして活躍。「brisa libreria」は書店、エステサロン、ヘアサロンを複合した“癒し”の場所として注目されている。