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2015/4/30 0:00

厄年を信じていない人がひどい目にあった話

1995年に朝日新聞社がおこなった「あなたは厄年を気にしますか?」という調査では、54%の人が「気にする」と答えた。厄年は、とくに「本厄」と言われる年齢が話題になることが多く、数え年で「男性の42歳」「女性の33歳」が気をつけるべきとされているのはご存じのとおりだ。

 

 

・大病をわずらう
・思わぬ困難にあう
・本厄(大厄)だけでなく「前厄」や「後厄」がある

 

先の調査結果にもあるように、少なく見積もっても日本人の3割程度は厄年になんらかのおそれを感じているようだ。もちろん、迷信にすぎないという意見もある。本厄をむかえた者が必ずしも大病や不幸に見舞われているわけではないからだ。

 

はたして「厄年」の正体とは何か? ひとりの宗教学者がその謎に挑んだ。

 

 

無信仰の著者が厄年を信じてしまったワケ

 

『厄年の研究』(学研パブリッシング/刊)の著者である島田裕巳さんは宗教学者だ。さまざまな宗教を研究しているものの、あまり信仰心はない。

 

宗教学とは、客観的で中立な視点によって宗教を理解しようとする学問だから、敬虔なキリスト教徒が聖書を研究する「神学」とは区別される。島田さんは無信仰であり、天罰や仏罰ましてや厄年など気にしたことがなかったという。

 

90年代から文化人コメンテーターとしてテレビに出演していた島田さんは、1995年に発生した地下鉄サリン事件のせいで思わぬとばっちりを受けることになる。オウム真理教がらみで濡れ衣を着せられて、勤務先の大学を辞めざるをえなくなったのだ。

 

それが43歳のとき。島田さんにとって「後厄」にあたる年だった。しかし不遇の時代が長引くことはなく、2001年のアメリカ同時多発テロによって、宗教の専門家である島田さんはふたたび脚光を浴びることになる。テレビ出演や原稿依頼が殺到した。

 

このまま順風満帆かと思っていたら、あるときパセドウ病と診断され、入院生活を余儀なくされる。思えば、後厄のときにイヤなことがあったのに、島田さんは厄払いをしなかった。この出来事をきっかけに、厄年についての考察がはじまる。

 

 

偉人たちの厄年。その歴史

 

『厄年の研究』によれば、西暦970年に成立した陰陽道の書物には「13、25、37、39、61、73、85、91歳」が厄年として定められている。このとき、現代で本厄とされている33歳や42歳は含まれていない。古くは『源氏物語』に厄年についての記述があるという。おもに貴族たちが気にしていたようだ。

 

男性の42歳や女性の33歳が本厄となったのは、どうやら江戸時代あたりからのようだ。この頃になると庶民も厄年を気にするようになる。島田さんによれば、1838年に成立した『東都歳時記』には、厄払いで有名な川崎大師で知られる神奈川県平間寺に足繁く通う江戸の庶民たちが記録されているという。

 

平安時代に比べて厄年の回数が減ったのは「江戸から片道20km以上も離れている厄除け大師まで通うのが面倒だったから」という説もあるらしい。

 

 

厄年を「役を得る年」として受け入れる

 

さまざまな調査を経て『厄年の研究』の著者である島田さんは、ひとつの結論に達する。

 

厄年は「役年(やくどし)」と言い換えることができるのではないか?
たとえば、わが国の仏教の開祖たちは41~43歳のときに転機をむかえている。弘法大師空海が真言密教を確立したのが43歳。最澄の天台宗が国家公認されたのが41歳。法然が浄土宗を立教したのが43歳。いずれも前厄・本厄・後厄に相当しており、その人物にしかつとまらない「役」を得ている。

 

厄除け大師として有名な妙法寺は日蓮宗の本山だが、開祖である日蓮上人が1度目の流刑を赦免されたのが42歳。このとき、師の帰還を願うために弟子の日朗が願いを捧げた木片は「厄除け祖師像」として妙法寺に安置されている。

 

織田信長が武田氏を滅ぼしたあと安土城に移って「天下布武」の印をつかいはじめるのが43歳のとき。小牧・長久手の役において、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった秀吉に一歩も譲らなかったときの徳川家康の年齢は43歳だ。このとき負けなかったからこそ、秀吉をはじめとして他の戦国武将たちにも一目おかれた。

 

現代とは異なり、むかしの偉人たちは大病や不幸事というよりも、厄年のあたりで人生の転機がおとずれている。著者である島田さんの「厄年は役年である」とする主張を補強できるものと言えなくもない。

 

 

現代の厄年は人生の折り返し地点だ

 

男性の本厄である40代初めごろといえば「不惑」の年齢であり、いままでよりも大きな仕事を任せられることが多くなる。女性の本厄である30代は、出産を選ぶかキャリアを選ぶかという選択を迫られがちな時期ともいえる。いまだ育休や子育てにまつわる制度が充実しているとは言いがたいからだ。

 

厄年は、かならずしも迷信とは言い切れない。
なぜなら、20~30代を懸命に生きぬいている人にとって、家族との関係を確認したり大きな病気の兆候に目を向ける良い機会となるからだ。厄年というスケジュールがあることで、あらかじめ心構えや振り返りをうながす効用がある。

 

今回ご紹介した『厄年の研究』には、全国の厄除け大師マップが収録されている。人口8万の街に年間50万人の参詣客が訪れるという日本でもっとも有名な「佐野厄よけ大師」をはじめ、全国の厄払いスポットを参照できる。まさに、厄年ガイドブックの決定版だ。

 

ちなみに厄年は、数え年で計算する。生まれた年を1歳とする数え方で、私たちが書類に記入している満年齢とは異なるので注意が必要だ。「厄年 計算」というキーワードで検索して、ぜひ確かめてはいかがだろうか。

 

(文:忌川タツヤ)

 

 

厄年の研究

著者:島田裕巳(著)
出版社:学研パブリッシング
空海、親鸞、日蓮から、頼朝、信長、家康まで、みんな厄年を乗り越えて大きくなった? 厄年はほんとうに俗信なのか? 著者の実体験から、厄年の真実とその乗り越え方を考察する一冊。佐野厄除け大師への直撃ルポ、厄払いの神社仏閣ベスト42なども収録!