私の息子は、大学院で哲学を学んでいます。プラトンの研究者になりたいといいます。けれども、私はプラトンについてまったく知識がありません。名前くらいは知っていますが、内容となるとちんぷんかんぷん。
一応、良いお母さんになりたい私は、何とかして息子の学んでいるプラトンについて理解しようとしてきました。けれども、やはり難しくてよくわかりません。
プラトンを理解したいのだけれど
反省した私は、せめてと思い哲学に関する本を読むことにしました。プラトンの『パイドン』にもトライしました。ベストセラーになった『ソフィーの世界』も読みました。けれども、これがなかなかに手強いのです。
どれも私には難しく、もうあきらめようと思ったりしました。
それでも、今回、もう一度、挑戦と思い、『倫理・哲学の特別講義』(大磯仁志・著、清水雅博・監修/学研プラス・刊 )を手に取りました。息子が必死で勉強していることをまったく理解できないのも、情けないではありませんか。
幸い、この本は読者の代表として「チカ」と「テツ」という二人の生徒が登場し、先生に質問しながら理解を深めるといいます。なんだか楽しそうでしょう?「チカ」は「エチカ(倫理)」から取った名前で、「テツ」は哲学から名付けたのだそうです。
広大な世界
『倫理・哲学の特別講義 思想の流れと、現代の諸問題』は実に広範囲な領域を扱っています。次のような内容ですから、すべてを網羅しようとしているのかもしれません。
第1章 現代社会の特質と青年期の課題
第2章 源流思想
第3章 西洋近・現代思想
第4章 日本思想
難しい言葉も多く、挫折しそうになりました。けれども、膨大な考え方、信じられないほどの言葉の数々に触れているうち、私はその広大さを感じるだけでいいのだと思うようになりました。実際の研究は、天文学的な言葉の数々から本当にたった一言の持つ意味について、深く掘り下げていくものなのでしょうが、私はほんのちょっとだけ覗けばそれで満足なのです。
勇者の履歴書?
著者は、前書きでこう述べています。
いまあなたが手にしているこの小さな本は、そのような思考という場を舞台に格闘を繰り広げた勇者達の履歴書ともういうべきものです。
この履歴書に飽き足らなくなった人は、ぜひ彼らが残した著作を直接手にとってみてください。その一言一句に、刻み込むようにして記された彼らの思考の軌跡を読み取ることができます。(『倫理・哲学の特別講義』より抜粋)
私はこの前書きに励まされ、通読することができました。わからないこともありましたが、言葉の一つ一つをチェックしながら読み進むのは、楽しい作業でした。
魂を分類
とくにプラトンに関する記述は熱心に読みました。プラトンが人間の魂を3つに分類していることも知りました。
すなわち、イデアを認識する理性、現象界の肉体に結びついている本能的な欲望、その間にあってロゴスに従い意欲的に行動する気概(意思)の3つだそうです。専門家には当たり前のことなのかもしれませんが、私には魂を分類しようとする行為それ自体がかなり特殊なものに思えてなりません。哲学者とはやはり特殊な訓練を経て、ようやくなれるもののようです。
閑暇は大事だと思う
輝くような言葉も知りました。
古代ギリシャで、哲学や芸術が開花した背景には、自由精神活動の基盤となる閑暇(スコレー)を、市民たちが存分に享受できたことが挙げられる。
(『倫理・哲学の特別講義』より抜粋)
「閑暇」を広辞苑でひくと、するべきことのない状態、とあります。おまけに、スコレーとはスクールの語源でもあるそうです。もし、そうなら、学校とは本来は暇であるべき場所だったのではないでしょうか?
暇だから考える、あくびしながら本を読むというのが、私の理想の生活です。息子を理解したくて読んだ本でしたが、最終的には自分のために読むことができたのですから、哲学という学問は、考えていたより間口が広く、専門家になろうとしなければ、私のような素人も受け入れてくれるものなのかもしれません。
【書籍紹介】
倫理・哲学の特別講義
著者:大磯仁志(著)、清水雅博(監修)
発行:学研プラス
センター試験に対応した「倫理」の電子書籍! 難しい「思想」の流れと概要を、見事なまでに簡潔に説明。対話形式だから読みやすく、短時間で得点力もアップすること間違いなし。高校生だけでなく、大人にも読んでほしい一冊。