テレビ業界の「踏み絵」に抵抗するマツコ
ダウンタウンが司会を務める『爆笑!大日本アカン警察』では、容疑者(タレント)の所業について、「アカン(セーフ判定)」と「アカンくない(アウト判定)」による多数決をおこないます。
判定するのは、ゲスト審査員4人と警察署長に扮したダウンタウン松本による計5人です。判定ボタンを押した人の声で「アカン」or「アカンくない」という効果音が鳴ります。
事件概要はつぎのとおり。『爆笑!大日本アカン警察』スタッフが、判定ボタンの生ボイスを録音するために、マツコの楽屋を訪れました。さっそく「アカン」「アカンくない」を録音しようとすると……なぜかマツコが難色を示します。
「なんで関西弁、話さなきゃいけないの?」
「イントネーションは標準語でいくから」
「アカンくないって何だよ」
「首都を大阪にするつもり?」
「なんか魂売ってる気がするのよアタシ」
「こんなオンナじゃなかったもん5年前」
(2010年9月10日『爆笑!大日本アカン警察』から抜粋)
ゲスト出演するからには、番組スタッフに協力しなければいけません。しかし、関東(千葉県)で生まれ育ったマツコは、何かと理由をつけて、関西弁である「アカン」のボイス録音を免れようとします。
しまいには、スタッフが着ていた「キング牧師(人種差別反対運動の指導者)のトレーナー」にイチャモンをつけてまで、関東育ちのアイデンティティを蹂躙されることに抵抗しますが……結局のところマツコは、不服ながらも「アカン」「アカンくない」を録音することになります。まさに抱腹絶倒のやりとりです。
毒舌、こだわり、正論、当意即妙、自虐、あきらめの境地。マツコ・デラックスの魅力がすべて詰まっているワンシーンでした。
「マツコ人気」はいつまで続くのか?
芸能界の人気タレントは、2つのパターンに分類できます。
【Aタイプ】ネタが尽きない
【Bタイプ】つかみどころがない
Aタイプを代表するのは、明石家さんま、松本人志。Bタイプを代表するのは、タモリ、所ジョージ、マツコ・デラックス。
つかみどころがないBタイプをすべて消費する(飽きる)には、多くの時間を要します。
マツコは、自分のような存在がいまもてはやされている意味について次のように語ったことがある。
(中略)
「あたしって、次の何か大きな潮流だったり、みんなが目指す何かが見つかるまでの繋ぎだと自分で思っている。あたしは所詮すべての繋ぎなのよ」(『SWITCH』2016年5月号)。
(『マツコの何が“デラックス”?』から引用)
2018年現在におけるマツコ人気は、まだまだ衰える気配がありません。
NHK紅白歌合戦の総合司会をマツコ・デラックスが務める日は、それほど遠くないように思います。皆さんの予想は、いかがですか?
【書籍紹介】
マツコの何が“デラックス”なのか?
著者:太田省一
発行:朝日新聞出版
「共感・伝える力」の見事さにおいて、いまマツコ・デラックスを超えるタレントがいるだろうか?「食べる」「装う」「懐かしむ」……『中居正広という生き方』が話題になった気鋭の社会学者が、マツコを象徴する「動詞」に着目し、その唯一無二の魅力に迫る。