私はこの25年ほど、ほとんどの週末を競馬場で過ごしてきました。
ボクシング観戦以外、とくに趣味がなかった夫が、突如として競馬ファンになったからです。彼は馬券を買うことは買うのですが、レースを現地で観戦するのが何より好きなので、競馬ファンというより競馬場のファンなのかもしれません。
私はといえば、子供の頃から、競馬に縁が深い環境で育ちました。通っていた小学校と中学校が競馬場のすぐそばにあって、クラスメートの中には競馬場で働く家庭の子供もたくさんいました。
ゴージャスなレジャーランド
たまには競馬場以外のところで週末を過ごしたいと思うこともあります。けれども、競馬場が秀逸な遊び場であることに間違いがありません。200円の入場料さえ払えば、何億円もするサラブレットのなめらかな肌をすぐ近くで見ることができるのです。
馬主さんや有名人を眺めることもできますし、運がよければお話もできます。北島三郎さ んに声をかけることができる空間なんて、そうはないでしょう?国民的な歌手であるサブちゃんは、キタサンの冠名を持つサラブレットのオーナーです。ファンの声援に応えて、素晴らしい笑顔を見せてくれます。
パドック周辺の風景
競馬を始めて、私は様々なことを学びました。競馬の世界だけで通じる特殊な用語も多いので、勉強しないとついていけないのです。何よりも、馬券でもうけようと思ったら研究が欠かせません。
競馬新聞を熟読し、天気や馬の調子やジョッキーの顔色まで、チェックすべきことだらけです。競馬場には、レース前に馬の状態を観客に見せるパドックという場所があります。下見所とも呼ばれる柵に囲まれた楕円形の空間ですが、多くの競馬ファンが集まり、馬の動きを厳密にチェックする場所となっています。
『そうだったのか!今までの見方が180度変わる知られざる競馬の仕組み』の著者・橋浜保子さんも、競馬場に朝早くから通い、パドックを周回する馬に熱心なまなざしを注いでいます。
彼女は競馬専門紙「競馬サイエンス」に入社し、坂路の調教と厩舎の取材を担当していたといいます。そして、今はJRDB(Japan Racing Data Bank)に所属し、競馬ファンに向けて情報を提供しています。
競馬の教科書?
『そうだったのか!今までの見方が180度変わる知られざる競馬の仕組み』は、著者のこれまでの研究が惜しむことなく披露されている本です。これを読めば、複雑でわかりにくい馬の世界が私たちに近づいてくれることでしょう。
まず最初に、サラブレッドの部位の名称が、写真と共に示されていてとても便利です。競馬を始めたばかりの頃、私はパドックを見ながら「ほら、あの、足の内側に削れたみたいなところあるでしょ? 蹴ったのかな?」「どこ?」「ほら、3本目の足」「3本目って? 前なの? 後ろなの?」「前の右の、ほれ」などと、言っていたのですが、この本があれば、写真を指させば万事解決できます。不思議に思っていた削れたように見える部分が「夜目」と呼ばれ、拇指(おやゆび)が退化した痕跡であることも書いてあります。
脚が大事
走るために生まれてきたサラブレッドですが、いつも絶好調というわけにはいきません。生き物ですから、その日の調子というものがあるのです。
では私たちは何を基準に、馬の調子を知ればよいのでしょうか?
チャプター1では脚元と調教から馬のサインを読み取る方法について、専門家ならではの意見が開陳されます。馬を苦しめる脚の病気、たとえば蟻洞(ぎどう)についても、その恐ろしさや治療法について、詳しい写真付きでレポートされています。
蟻洞は蹄の角質層の中に空洞ができてしまう病気です。私は長い間、蟻洞はアリに食われたことが原因だと誤解していましたが、乾燥や疲労など様々な要素がかみ合って発症するもので、アリは関係ないといいます。馬とその関係者にとって深刻な病気です。闘病には長い時間とお金が必要となることも知りました。
パドックでの馬の見方
馬券を当てようと思ったら、パドックで馬の様子を検証するのはとても大切な作業です。もっとも、私は何年かかっても、よくわからず「私には観馬眼がないんだわ」と、思っていました。けれども、見ている場所が間違っていたのかもしれません。
『そうだったのか!今までの見方が180度変わる知られざる競馬の仕組み』によると、仕上がりの見方の1つとして、まずは腹回りのチェックが必要だといいます。お腹の周辺の皮膚がほどよく張っている、つまり「実が入っている」馬を探しましょう。次に、腰回り、気配、毛づや、汗など、順番に注意していく必要があるとのことです。私もこれからは、あきらめることなく自分の眼力を信じようと思います。
当てるのはあなた!
競馬は推理で成り立っているゲームだと私は思います。ある馬が、今日、勝利できるかどうか?それは天候や体のコンディション、今までのレースの様子や、騎手との相性、そして、もちろんその馬が生まれながらに持つ才能など、数え上げたらきりがないほどたくさんの要素を検証し、筋道を立て、勝ち負けを推理していくものでしょう。その意味で、競馬ファンは全員が探偵なのかもしれません。
『そうだったのか!今までの見方が180度変わる知られざる競馬の仕組み』には、どの要素をどのように考えるべきか、専門家のヒントが満載されています。私たちの強い味方になってくれるでしょう。ただし、勝ち馬はこれだ!とは書いていません。それは私たちが自分で考えるべきことだからです。
推理小説も結末を知っていたら、つまらないでしょう? それに、あくまでも探偵はあなたなのですから。
【書籍紹介】
そうだったのか! 今までの見方が180度変わる知られざる競馬の仕組み
著者:橋浜保子
発行:ガイドワークス
ひとえに馬体といっても、見なければいけない部分は細部にわたります。馬体全体の形はもちろん、脚の長さや繋ぎの角度、蹄の形など。実はこれらの要素は馬を知る意味でも、馬券を獲る上でも非常に重要なこと。知らなければ損してしまうことばかりなのです。しかし、大方の競馬ファンは、馬体を“難しいもの”と捉えて、蔑にしてしまいがちです…。ただ、この一冊があればもう大丈夫!