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2018/5/23 6:00

【今日の1冊】“そこそこの無理”をしてこそ、自分の立ち位置が見つかる――『ティンパニストかく語りき』

人それぞれに、天や神と呼ばれるものから与えられる立ち位置みたいなものがあるような気がしてならない。若い頃からそれを漠然と意識し、自ら望んで手に入れる人。まったく意識していなくても、人生の流れに乗って手に入れる人。パターンはさまざまだ。

 

 

自分ならではの輝き方を知る人たち

自分ならではの立ち位置に至る過程は、パターンもさまざまなら、それにまつわる選択肢もさまざまだ。多くの選択肢のなか、はた目から見れば「え!?  あえてそれ!?」と思ってしまうようなものに強く惹かれる人もいる。

 

ただ往々にして、普通に考えれば選ばないものを選ぶという方向でものごとを進めていく人のほうが、意識的であるにせよ無意識的であるにせよ、結果として天や神の御心どおりに生きられることが多いのかもしれない。こういう人たちは、あえて“ない”選択が自分ならではの輝きにつながることをどこかでわかっているからだろう。

 

 

選択の妙と、それを実現させる力

選択の妙とでも形容すべきものは、時として極端な形で現実化する。ついこの間、「密着! なぜソッチの人生選んだの?」という番組を見た。この番組で、とあるオーケストラのシンバル奏者さんが紹介されていた。

 

客席から見て前の方にいる弦楽器の奏者さんたちなら、オーケストラでの役割や練習の厳しさなどについて、なんとなくイメージできなくもない。それらしき人がそれらしき楽器を持っているのを電車で見かけることもある。でも、シンバル奏者さんの日常ってまず知らないし、知ろうと思ったら相当調べなければならないだろう。

 

この原稿で紹介する本の主役は、自らに与えられた立ち位置を早くから意識し、意図的にそこに向かうことを決め、無駄な回り道を一切せずに実現させた人である。その人の目線で綴られた文章はリアリティに満ち、説得力があり、そして何より魅力的だ。

 

その人の肩書は、新日本フィルハーモニー交響楽団首席ティンパニスト。そもそも、なぜティンパニという打楽器に惹かれたのか? どのようにしてティンパニストになったのか? そして、ティンパニストの日常ってどんなものなのか?

 

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