旅行が好きだ。特に、文化も言葉も違う海外の街を歩くのはワクワク、ドキドキして楽しいものだ。といっても、私がこれまでに行った国はせいぜい10か国程度で、まだ広い世界のほんの一部しか知らないのだ。しかも、それは欧州やアメリカなどゆたかな国ばかりだから、世界を見て知ったうちには入らない。
本当に世界を知るためには、『深夜特急』の沢木耕太郎氏のようにバスを乗り継いで大陸を横断したり、また、今日、紹介する森本たつを氏のように時間をかけて世界を回るべきだろう。そこには予期せぬハプニングあり、またその土地で生きる人々との出会いがあり、驚きの連続に違いない。
でも、そういう海外旅行は誰にでもできることではない。私にしても世界を一周する勇気などないから、せめて彼らの書いた紀行文で“擬似体験”をしてみたいと思うのだ。
会社をやめて旅に出る
ビジネスマンの森本たつをさんは、今からちょうど10年前の2008年の夏、いきなり仕事を辞めて世界一周旅行に出ることになった。社会人として9年間仕事をし、それなりにお金も貯まっていて1年くらいなら大丈夫、帰国後も仕事はあるだろうと楽観的だったというが、やはり普通はなかなか真似できることではない。
それでも、この暴挙と思えるような選択をすると、人は何を感じ、どう変わっていくのかは興味津々だ。
『ビジネスクラスのバックパッカーもりぞお世界一周紀行 ドイツ&日本編』(森山たつを・著/学研プラス・刊)はシリーズの中の一冊だ。ひとりの日本人ビジネスマンが自分の足で歩いた世界、自分の目で見た世界を、飾らず素直な文章でおもしろおかしく私たちに伝えてくれる。
ビジネスクラスの世界一周航空券は80万円
さて、本書のシリーズ1である『ビジネスクラスのバックパッカーもりぞお世界一周紀行 日本&インドネシア旅立ち編』によると、森本氏は80万円で世界一周ができるビジネスクラスの航空券を手に入れ、日本を飛び立つこととなった。
そもそもビジネスクラスで世界一周をしようなんてバカなことを考えたのがこの旅のはじまり。日本の社会では、ビジネスマンが長期旅行に出るのが非常に困難。でも、ビジネスマンであるために、やりたいことをやらないのも嫌だったので、とはいっても、ビジネスマンであることを放棄して貧乏旅行をするのも嫌だったので、とことんまでやりたいことをやろうというメッセージも込めて、「世界一周、ビジネスクラス」というむちゃくちゃを試みたわけです。
(『ビジネスクラスのバックパッカーもりぞお世界一周紀行 ドイツ&日本きっちり編』から引用)
リーマンショックの最中に訪ねることになった「アメリカ金融危機編」をはじめ、「メキシコお気楽編」「キューバ驚愕編」「カリブ、中米前途多難編」「南米3大氷河&イースター島編」「イスラエル&エジプト中東複雑編」「チベット郷愁編」などなど、どれも興味深い内容ばかりだ。
そして本書はシリーズ第11弾で、ドイツ、一時帰国した日本、そしてイギリスについて書かれている。
南米から欧州へ。店もモノも多すぎる!
世界を巡るということは落差、格差を目の当たりにすることでもあるようだ。森本氏は真夏の南米イースター島から真冬のドイツへ移動することになった。
フランクフルト→ケルン→ベルリンと、1週間近くうろうろ。感想は…すごい都会だ。店が多すぎる! そして、モノが多すぎる! 私の大好物のグミ、ハリボだけでも、こんなにたくさんの種類が。清涼飲料水が3種類しかないキューバを見習え!
(『ビジネスクラスのバックパッカーもりぞお世界一周紀行 ドイツ&日本きっちり編』から引用)
こういう感想はゆたかな国だけを旅していたらぜったいに湧いてこないだろう。
ドイツ編では、この他、「ベルリンの赤い雨 ドイツの二大悲劇の軌跡を見る」、「前四半期 世界で一番車を売ったのはフォルクスワーゲンっぽいです ドイツ経済」、「几帳面なドイツ 芸術家のベルリン」という項目があり、著者の独特の視点で語られるドイツの姿がなかなかおもしろい。
世界は自分の目で見ないとわからないことばかり
わざわざ自分の足で歩かなくても、テレビの旅番組を観たり、インターネットを使えばバーチャルな旅はいくらでも楽しめるという人もいるかもしれない。けれども、自分の目で見ないとわからない現実はやはり世界にはたくさんある。
2009年当時、新型インフルエンザ騒ぎで日本中がマスク姿の人々があふれていたが、その最中に森本氏はロンドンへ向かった。本書のイギリス編ではそのときのことが綴られている。
ロンドン(感染者数71人)…マスクをつけているのは日本人のみ。豚インフルエンザに関する張り紙などもなし。ちなみに、地下鉄で拾った新聞3紙ほどに目を通しましたが、豚インフルエンザの記載はなし。(中略)マスコミが流した情報をそのまま信じるのではなく、新聞の中の数字を見て自分で考えてみたり、ちょこっとインターネットを検索して海外のサイトとか詳細な数字を調べてみることで、どの部分が嘘で、どの部分が本当かを自分で判断する必要があるわけです。(中略)最後に、いつもの一言を。「日本人の皆さーん。目を覚ましてくださーい!」
(『ビジネスクラスのバックパッカーもりぞお世界一周紀行 ドイツ&日本きっちり編』から引用)
森本氏は、現在、自らの経験を生かし、海外を目指す人たちにその方法を伝える「海外就職研究家」として活躍している。
【書籍紹介】
ビジネスクラスのバックパッカーもりぞお世界一周紀行 ドイツ&日本編
著者:森山たつを
発行:学研プラス
突如会社を辞めて、世界一周旅行へ! しかも、チケットは、ビジネスクラス! イースター島からビジネスクラスでやってきた先は、真冬のドイツ、フランクフルト。モアイ柄のアロハシャツが滅茶苦茶浮く…。
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