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2018/7/23 23:00

捨てられたり、被災した犬猫を一頭でも多く救いたい ━『助かった命と、助からなかった命 動物の保護施設ハッピーハウス物語』

ペットも家族の一員だから、その一生に責任を持つのが当たり前と大半の飼い主は考えている。が、それでも捨てられる犬猫の数はなかなか減らない。“殺処分ゼロ!”を目標に各自治体が対策に取り組んでいて、殺処分の数は確実に減ってきているが、それでもなお、国全体としては年間5万もの犬猫の命が消えているのも現実だ。

 

そんな中、一頭でも多くの命を救いたいと各地では民間の動物保護団体の活動も活発化している。『助かった命と、助からなかった命 動物の保護施設ハッピーハウス物語』(沢田俊子・著 野寺夕子・写真/学研プラス・刊)を読むと、犬や猫がどのように保護され、命を守られていく様子がとてもよくわかる。

 

 

命を守る舞台

ハッピーハウスは大阪府の人里離れた山の中にある。2000坪近い敷地内には約600頭の犬猫が保護されているそうだ。被災したり、迷子になったり、捨てられたり、保護の理由は様々だが、行き場をなくした犬猫はここで命を守ってもらっている。

 

スタッフは40名ほどで、受付班、飼育班、訓練班、募金班、事務・広報班に分かれている。さらに、診療所もあり獣医、看護師、訓練士もいるというからその活動は本格的だ。

 

新たに犬や猫を保護した場合の対応は次の順序で行われる。

 

写真をとり、一頭ずつファイルを作る。
    ↓
診療所で健康診断をし、カルテを作る。
    ↓
病気の予防接種をうつ。
    ↓
警察や動物愛護センターにとどけでる。
    ↓
迷子の可能性があるようなら、元の飼い主をさがす。
    ↓
犬は役所で登録する。
    ↓
けがや病気があれば、診療所で治療をする。
    ↓
かみぐせのある犬は、訓練士がしつける。
    ↓
飼い主がわからない犬やねこは、避妊や去勢の手術をする。

 

そして、次にすることは、新しい飼い主を見つけること。それがハッピーハウスの役目です。

(『助かった命と、助からなかった命 動物の保護施設ハッピーハウス物語』から引用)

 

里親のもとで、幸せに暮らせるようになった犬猫は、これまでに4000頭以上にもなっているそうだ。

 

 

動物の孤児院誕生の秘話

ハッピーハウス代表の甲斐尚子さんが、犬猫を保護するようになったきっかけは、愛犬の死だったという。その愛犬も保護犬だったそうだが、老犬になったとき不慮の事故で命を奪われてしまった。

 

しばらくはペットロスに陥り、それからは、捨てられた犬猫を見つけるとますます無視できなくなり次々と保護していくうちに家では飼いきれない頭数に増えていったのだそうだ。どこかに動物をたくさん飼えるところはないかと探しはじめたとき、甲斐さんは心優しいひとりの地主に出会った。

 

当時八十歳の地主さんは、こういってくれました。「もともと土地いうもんは、個人が独占するべきもんやないんや。かわいそうな犬や猫のために使うんやったら、使うてんか。土地もよろこぶやろ。」

(『助かった命と、助からなかった命 動物の保護施設ハッピーハウス物語』から引用)

 

これが1990年のことでハッピーハウスの始まりだった。

 

現在は保護活動に専念している甲斐さんだが、当時は昼間は犬猫の世話を手伝ってくれる人に任せ、自らは動物たちのえさ代を稼ぐために山奥から街まで会社通いをし、夜はたったひとりで動物たちを見守るという日々を送っていたそうだ。

 

 

命の大切さを学ぶ場にも

本書の表紙の犬は「海」という名で、高知県の保健所で殺処分が決まっていた一頭だった。穏やかで人懐こい性格だったため動物保護団体の人が救い出し、京都府にもらわれていったものの、海はそこでもあまり大切にはされなかった。そこで再び保護され、ハッピーハウスにやってきたのだ。

 

ハッピーハウスでは動物を安楽死をさせることがけっしてない。甲斐さんはこう言っている。

 

来たときは、とてもやせていて、右前足を引きずっていましたが、まだ目は見えていました。ハッピーハウスで引きとったあと、緑内障を発症して、目が見えなくなりました。今は、受付スペースで、自由にのんびりとくらしています。(中略)ハッピーハウスにいる動物たちは、目が見えなくても、足が不自由でも、どんなつらいときでも一生けんめい生きてきました。みんなも一生けんめい生きてください。そして、自分の命も、ほかの命も大切にしてあげてください。

(『助かった命と、助からなかった命 動物の保護施設ハッピーハウス物語』から引用)

 

ハッピーハウスは見学もできるため夏休みなどの長期休暇中はもちろんのこと、それ以外の日にも家族連れがやってくるそうだ。犬や猫を撫でたり、抱いたり、また、世話をする体験もさせてくれるという。

 

生まれたばかりの赤ちゃん猫から、寝たきりになった老犬までいるハッピーハウスでの体験は、命の大切さを学ぶよい機会になっているようだ。

 

もし、今後、犬や猫を飼いたいと思ったらペットショップを訪ねる前に、保護施設やボランティア団体に出向き譲り受ってもらうのもいいだろう。

 

そういえばペット大国フランスの”ファースト・ドッグ”も保護犬だった。マクロン大統領夫妻が一頭の犬を保護団体から譲り受けたおかげで、かわいそうな捨て犬はエリゼ宮で暮らせるようになったのだ。

 

私も次に犬を飼うときは、保護犬の中から選ぼうと決めている。

 

 

 

【書籍紹介】

 

助かった命と、助からなかった命 動物の保護施設ハッピーハウス物語

著者:沢田俊子、野寺夕子、公益財団法人日本アニマルトラスト
発行:学研プラス

大阪にあるハッピーハウスは、行き場のなくなった動物たちを保護し新しい飼い主をさがす団体で、約550頭の動物が生活する。その多くは飼い主に捨てられたり、虐待されたり、高齢で飼えなくなったりした犬や猫たちだ。そんな動物たちそれぞれの命の物語。

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