再ブレイクを果たした「ルネッサ〜ンス」
髭男爵。黒いシルクハットをかぶったヒゲづらの男が、ワイングラスを掲げて「ルネッサ〜ンス」と挨拶をする。そのあと「貴族のお漫才」と称するコント形式のネタが始まる。相方のひぐち君がボケると、山田ルイ53世がツッコミながら、2人は息を合わせてワイングラスをカチンと重ねる。革新的なスタイルです。
2018年にあらためて鑑賞してもオンリーワンの内容であり、面白さの完成度も高い。それなのに漫才の内容よりも「ルネッサ〜ンス」のほうが爆発的に流行ってしまったので、ワンフレーズ型の「まぐれ」で売れたにすぎないと勘違いされがちです。
一発屋は、本当に消えてしまった人間なのだろうか。否である。彼らは今この瞬間も、もがき、苦しみ、精一杯足掻きながら、生き続けている。
(『一発屋芸人列伝』から引用)
敗残者の代名詞になっていますが、それは誤った認識です。一発屋=成功するまで続けた人。そして多くの一発屋が、困難である二発目(再ブレイク)にチャレンジしています。
山田ルイ53世さんは一発屋のレッテルを乗り越えるために、取材と執筆をコツコツ積み重ねて、本書『一発屋芸人列伝』の上梓にこぎつけました。その結果、第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞の作品賞を受賞しています。
本書は、一発屋芸人の著者が一発屋芸人について掘り下げた正統派ルポルタージュであり、平均的なタレント本とは一線を画するものです。著者である山田ルイ53世は、文武両道ならぬ…… 文「笑」両道を達成しています。
そのまんま東『ビートたけし殺人事件』から又吉直樹『火花』に至って、芥川賞受賞という絶頂期を迎えたお笑い芸人が小説を書くムーブメントに隣接するかたちで、本書『一発屋芸人列伝』を位置づけることができます。
文笑両道ムーブメントの旗手たち
文笑両道ムーブメントを考えるにあたっては、浅草キッドの水道橋博士による『藝人春秋』(文藝春秋・刊/2012年)を抜きにしては語れません。本書『一発屋芸人列伝』は、芸人が芸人について語ることを試みた『藝人春秋』の流れを汲んでいるからです。
さらに言えば『藝人春秋』は、俳優・山城新伍さんによる『おこりんぼさびしんぼ』(廣済堂出版・刊)の精神を色濃く受け継いでいます。この本は、役者を広義の芸人と見なした「若山富三郎・勝新太郎兄弟についての語り」です。そのほか、噺家にも文笑両道の人は多いですが ── それはまた別の話。
『藝人春秋』の文庫版には、追加コンテンツ(ボーナストラック)として「2013年の有吉弘行」が掲載されています。まさに『一発屋芸人列伝』を先取りした「番外編」と言えるものです。ご存知のとおり、水道橋博士も「文笑両道」の代表的人物です。
さらに付け加えるならば、『藝人春秋』文庫版の解説文を担当しているのは、お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんです。現役かつ売れっ子のお笑い芸人にしか書けない見事なセルフポートレイトに仕上がっています。若林さんは名文家として知られており、上梓したキューバ旅行記『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』が第3回「斎藤茂太賞」に選ばれました。
オードリー若林さんは、話題作である『天才はあきらめた』(山里亮太・著/朝日新聞出版・刊)という自伝の解説文も担当しています。南海キャンディーズ・山ちゃんが思いの丈を綴った『天才はあきらめた』も、通常のタレント本とは一線を画した「文笑両道」ムーブメントのなかに位置づけられる著書です。お試しください。
【書籍紹介】
一発屋芸人列伝
著者:山田ルイ53世
発行:新潮社
誰も書かなかった今の彼らは、ブレイクしたあの時より面白い!? レイザーラモンHG、テツandトモ、ジョイマン、波田陽区……世間から「消えた」芸人のその後を、自らも髭男爵として“一発を風靡した”著者が追跡取材。波乱万丈な人生に泣ける(でもそれ以上に笑える)、不器用で不屈の人間たちに捧げるノンフィクション!