本・書籍
2018/9/27 22:00

殺害された7人の修道士たちから受け継がねばならないもの――『証言者たち』

1996年3月26日から27日の夜にかけて、アルジェリアのアトラス聖母修道院で陰惨な事件が起きました。

 

7人の修道士が拉致され、2か月間、監禁された後、殺害されたのです。誰が何の目的で彼らを連れ去り、どのように命を奪ったのか、今もはっきりしません。そして、2か月後の5月30日、修道士たちの切り落とされた首が見つかりました。

 

一時停止しながら観た映画「神々と男たち」

2010年、この悲劇をもとに「神々と男たち」という映画が製作されました。公開されるや数々の映画賞にノミネートされ、カンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞しました。
話題になっていましたし私も観たいと思っていましたが、映画館に足を運ぶことはできませんでした。重く深い内容だということはわかっていたので、恐ろしくてつい避けていたのです。

 

けれども、今頃になってようやくDVDを借りて観ました。予想通り、なんとも言えない苦しみと悲しさに満ちた作品でした。途中、息が苦しくなり何度も一時停止しながら、ようやく全部を観ました。

 

7人の犠牲者

そんなにしてまで映画「神々と男たち」を観ようと思ったのは、この事件を取り扱った「証言者たち」(ベルナルド・オリベラ・著、 木鎌安雄・訳/ドン・ボスコ社・刊)という本を読んだからです。今年の7月に翻訳が出版されたばかりのこの本は、事件が起きて間もなく、殺害された修道士たちの証言や、その後、彼らに寄せられたメッセージから成っています。

 

「証言者たち」を読み終わった今思うことは、修道士達が修道院の中で暮らしてはいても、決して世間知らずな人々だったわけではないということです。村人たちとも頻繁に接触していましたし診察も行っていました。

 

彼らは、自分たちが拉致され殺される可能性が高いとわかっていながら、アルジェリアにとどまりたいと願ったのです。

 

修道院のすぐ近くでクロアチア人が殺される事件が起き、危険が自分たちに迫っていると感じていながら帰国しようとはせず、修道院での生活を守り続けました。何が起ころうとも人々のために命をささげようと決心したからです。

 

「証言者たち」を読むことによって、映画「神々と男たち」に登場する修道士たちが拉致されるまでの日々をどう生きたか、さらに殺害後、周囲の人々が何を思ったかについて知ることができます。

 

 

心の花束となった7人

事件の犠牲者となったのは、次の7人です。著者であるベルナルド・オリベラは彼らを「7人の証し人」と、呼んでいます。彼らは自分の個性を声高に主張したりはしません。けれども、にじみ出る強さを隠すこともできません。

 

クリスティアン・ド・シェルジェ神父

アトラス修道院の院長を務め、皆のまとめ役でもありました。めがねをかけた温和な表情に触れると、その後の運命の残酷さに叫び出したくなります。彼は誘拐される3週間前に、死を覚悟していたかのような説教をしたといいます。

 

リュック・ドシエ修道士

50年以上もアルジェリアで生活し、医師として働いた人です。キリスト教徒だけではなく、修道院にやっている人々をわけへだてなく診察したといいます。

 

クリストフ・ルブルトン神父

修道院の修練長と副院長をつとめていました。著作家であり、情熱的なギター奏者でもあるなど、多くの才能を持っている人でした。

 

ミッシェル・フルーリー修道士

沈黙のうちに人々のために精を出して働いていた方として知られています。アルジェリアに生涯を捧げた人でした。

 

ブルノ・ラマルシャン神父

たまたまモロッコの別院からやって来て、アトラス修道院に滞在中、事件に遭遇したそうです。

 

セレスタン・ランギール神父

神父になる前は、アルジェリアで軍役についていました。売春婦や同性愛者などの宣教にも従事し、とりわけ深い思いやりに満ちた人物でした。

 

ポール・ファーヴル・ミヴィーユ修道士

修道院の庭園の水回りの責任者でした。誘拐される数時間前にフランスから戻ったばかりでした。

 

 

心の花束となった7人

7人が、誰にどのように拉致され殺害されたのか、いまだ知ることができません。けれども、それぞれがそれぞれの思いを胸に最期の時を迎えたのは確かです。著者・ベルナルド・オリベラは7人について、こう述べています。

 

忘れることはできません。なにごとも起きなかったかのようにページをめくり、生活を続けていくことはできません。彼らは無駄に死んだのではありません。

( 『証言者たち』より抜粋)

 

「証言者たち」は、7人への思いを新たにするために書かれたもので、いわば心の花束というべきものだと、私は思います。

 

アルジェリアは遠い場所か? それともあなたのすぐそばにあるのか?

私はアルジェリアに行ったことはありません。おそらく一生行くこともないでしょう。けれども、彼らの死を自分に無関係だと思うことはできません。どこにいても、何をしていても、私は私なりに彼らが遺した心の花束を胸に抱いて生きていきたいと思うからです。だからこそ、「神々と男たち」という映画ができたのでしょうし、「証言者たち」という本が編み出されたと信じています。

 

最後になりますが、「証言者たち」を翻訳した木鎌安雄の思いも忘れることはできません。彼はホスピスに入院中の妻とともに、この本を完成させたといいます。彼女は彼に寄り添いながら、いつも原稿の校正をしてくれた大事な大事な存在でした。

 

訳者あとがきにこんな言葉があります。

 

妻は、生前、私の著作の最初から、文章の校正をしてくれました。その意味で、私の本の共著者であり、共訳者であり、最初の読者でした。妻は、ホスピスに入院する前に、できあがった原稿を校正したいと言いましたので、お願いしました。しかし、「はじめに」の校正を終わると、力がなくなりました。それでも、妻は、本書の共訳者です。

 

翻訳者ご夫妻も「証言者たち」の一人であり、花束に寄り添った存在であると、私は思います。重く暗い内容ではありますが、そこにひとつの救いを見いだすのは私だけではないでしょう。

 

「力がなくなる」その日まで、とにかく生きて行かなくては…。今、私はそう思っています。

 

 

【書籍紹介】

 

証言者たち

著者: ベルナルド・オリベラ(著)、 木鎌安雄(訳)
発行:ドン・ボスコ社

映画「神々と男たち」のモデルとなった7人の修道者は、1996年テロリストたちによって連れ去られ、殺された。なぜ彼らは命の危険を顧みず、最後まで人びとの中にとどまる道を選んだのか。修道者たちの手紙や日記などからたどる。

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