本・書籍
2018/12/10 21:45

ハマの番長も激推し! ベイスターズファンは2倍楽しめる深イイ一冊――『青空トランペット』

子どものころに思い描いていた「将来の夢」。実際に叶えた人って、どれくらいいるのだろうか。

 

ある求人情報サイトが実施したアンケートによると、「小学生のころになりたかった職業に就けた」と回答している人は、16.6%。つまり、6人に1人以上の割合で、夢を叶えた人がいるという結果が出ていた。

 

私自身のことを振り返ってみると、小学生のころは「学校の先生」になりたかった。母親が教師をしていた影響が大きい。中学生のころは、「新宿アルタで働きたい」と卒業文集に書いた覚えがある。ウッチャンナンチャンの大ファンだったので、『笑っていいとも!』の舞台であるアルタに行けば、きっと会えるに違いないという邪な理由からだ。

 

結果的に、教師にもアルタの店員にもなっていないので、私は子供の頃の夢を叶えられなかったその他大勢に入るわけだ。

 

 

夢を持つことって、案外難しい

一方、先のアンケートで「なりたい職業・夢がなかった」と回答した人も、実は約10%いた。6人に1人は夢を叶えているが、10人に1人は子どもの頃に”将来の夢”がなかったということになる。

 

そう、自分が大人になったら何になりたいか、将来の夢を持つことって、結構難しいのだ。そして、やたらと周りの大人から「将来の夢はなに?」「どんな仕事に就きたいの?」などと尋ねられることは、自分のやりたいことが見つけられていない子どもにとってはテンションだだ下がりの質問である。だが、大人はそのことに気づいていない。

 

今回ご紹介するのは、まさにそんな憤りを抱えている小学6年生の男の子が主人公の『青空トランペット』(吉野万理子・著/学研プラス・刊)。

 

主人公・広記の大好きなものは横浜ベイスターズで、大好きなことはベイスターズを応援すること。生まれつき視力が弱い妹を守る使命もある。だけど、「将来の夢は?」と聞かれると困ってしまう。そんななか、周りの友達や妹までもが少しずつ夢に向かって進み始め…というストーリー。

 

ティーンズ文学館、いわゆる児童文庫のジャンルだ。いつ以来だろうか、子ども向けの小説を読むのは。だが、久々の児童文庫は、ずいぶん凝り固まってしまった頭で、こっち(大人)側の考え方に染まっていた私に、とても良い気づきをくれた。

 

 

「応援する人」と「応援される人」はどちらがエライ?

たとえば、この部分。

 

大人って、子どもが「ゆめ」を持っているのが当たり前だと思うみたいだ。

しんせきの澄美おばちゃんも、そう。ぼくと何をしゃべっていいかわからないみたいで、会話がとぎれると便利な決まり文句みたいに、いつも「広記くんは将来、何になりたいの」ときいてくる。

(『青空トランペット』より引用)

 

ああ、そうだった。明確な夢を持っている子はいいけれど、まだ模索中の子にとっては、「将来の夢は?」なんて質問、いい迷惑なのだ。とりあえず、無難な職業を言って凌いでいる子だって多かろう。私だって、かつてそう感じたことがあったのに。

 

にもかかわらず、小2の息子に「何かやりたいことはない?」「大きくなったら何になりたい?」などと、おせっかいにも程があることを度々言っていた。反省しきりだ。

 

また、こんな台詞もある。

 

これから、自分が応援されるような人間になっていけるか。一生、だれかを応援するだけで終わっちゃう人間になるのか。うちのかーちゃんは、おれが応援するだけで終わったら、ガッカリだって言うんだ。

(『青空トランペット』より引用)

 

応援するということは、どういうことか。応援する側ではなく、応援される側の方がエライのか。はたまた、声の届かないような相手を応援することに、はたして意味はあるのか。子ども向けと侮るなかれ、大人もなかなか考えさせられるエッセンスが散りばめられている。

 

 

野球ファン、特にベイスターズファンなら倍楽しめる!

もうひとつ特筆すべきは、横浜ベイスターズの選手をはじめ、実名がたくさん登場すること。野球ファン、とりわけベイスターズファンにはたまらない内容なのではないだろうか。

 

もちろん、野球に関してまったく知識がなく、唯一知っていたのは「ハマの番長」というネーミングくらいという私でも、十分楽しめた。登場人物それぞれの想いや悩み、葛藤、各話のエピソード、それらが最後にはすべてつながり、心地よい感動が胸中に広がる。あの読後感は実に爽快で、同じ作者の作品をもっと読みたくなった。

 

夢を持つことを他人から強いられる必要はないし、夢は途中でどんどん変わっていいし、ひょんなことから大好きなことが見つけられるものだし、大好きな人を応援することで、自分までパワーがもらえることもある。野球少年や毎日を悶々と過ごしている子どもたち、そして少年の心を忘れてしまった大人にもおすすめしたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

青空トランペット

著者:吉野万理子、宮尾和孝
発行:学研プラス

「応援する人じゃなく、応援される人になれ」。建太郎がハハオヤに言われたんだって。「応援する」って、どういうことだろう。人は誰かを応援したり、応援されたりしながら生きていくんだよな。前を向いて。顔をあげて。
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