本・書籍
2019/2/14 21:45

聴いてから歩くか? 歩いてから聞くか?――『落語散策そぞろ歩き』

2018年に80周年を迎えたという「スーパーマン」。アメコミの世界では他にも数多くの人気作品がありますが、「スーパーマン」の知名度は抜きんでていると言っていいでしょう。

 

 

狐狸窟彦兵衛はクラーク・ケント?

スーパーマンは地球人ではありません。まだ赤ちゃんのとき、滅亡寸前のクリプトン星から地球にやって来たという設定です。無事に成長し、大人になると、身分を隠して新聞記者クラーク・ケントとして働きながら、悪をやっつけるときだけスーパーマンになります。

 

今回、取り上げた『落語散策そぞろ歩き』(狐狸窟彦兵衛・著/レベル・刊)の著者・狐狸窟彦兵衛も、ひょっとしたら、クラーク・ケントによく似た人なのかもしれません。平日は新聞記者として働きながら、休日を利用して、とんでもないことを始めたのですから。

 

彼のたくらみは以下のようなものです。

 

笑福亭純瓶さんとよみうり天満橋文化センターで三年間にわたって開講している「噺家と行く 落語そぞろ歩き講座」のテキストを、一冊の本にまとめて出版することにいたしました。

(『落語散策そぞろ歩き』より)

 

これは言うのは簡単ですが、実行するのは大変です。手間ひまかかります。まして、本業を持ちながらやらねばなりません。体力的にもタフであることが求められます。

 

 

取材力のすごさ

狐狸窟彦兵衛は笑福亭純瓶の落語をまずは一席聴き、その話に出てくる大阪ゆかりの地を丁寧に巡ることから始めました。講座は月一回、開催されたといいますから、一冊の本にするには、三年分の講座に出席することが必要です。

 

それだけでは満足できなかったのでしょう。番外編として奈良や姫路、そして京都も加え、歩き回ったといいます。新聞記者だけに取材には自信があったのでしょうが、それにしても、この守備範囲の広さには驚かされます。

 

 

笑福亭純瓶も吐きそうになった(笑)

驚いたのは、私だけではないようです。講座を受け持つ笑福亭純瓶さえどっきりしたようです。

 

あるとき、『池田の猪買い』という噺の舞台を歩くことになりました。旧道にこだわったこともあり、歩いた距離は30キロ以上。さぞや、クタクタになったことでしょう。現に純瓶さんは翌日、筋肉痛がひどく昼まで寝ていたそうです。しかし、狐狸窟彦兵衛は違います。純瓶さんが起きてネットを見ると、すでにこの時の話を落語の取材として既にアップしてあったというではありませんか。

 

それに気づいた純瓶さんは言っています。「吐きそうになるくらい驚いた」と。す、すごい。私はうなってしまいました。落語家を吐きそうになるくらい驚かせるなんて。やっぱりスーパーマン? と、思いたくなるのもわかっていただけることと思います。

 

 

読むだけで、歩いた気になれます

『落語散策そぞろ歩き』は、古典落語に登場する名所を、テクテク歩いてなぞりながら、ウンチクを聞く本です。最近、私も健康のために歩くようにしようと思ってはいるのですが、ただ歩くのはやはり苦痛です。けれども、今し方聴いた落語に登場する場所を見て歩くのなら、できるかもしれません。映画のロケ地めぐりに似た楽しみがあります。

 

もっとも彦兵衛は言っています。「読むだけで歩いた気がする、落語を聴いた気がする、お得な本です」と。なかなかPRも上手ですね。ただ、正直に言うとやはり落語を実際に聞いて楽しんでから歩き、読むのがいちばん心にしみると思います。

 

 

歩けば歩くほど落語がわかる

取り上げられている散策地は様々です。「時うどん」の天神橋からの道のりを筆頭に全部で36景。「池田の猪買い」の丼池から淀屋橋、大江橋、蜆橋、お初天神、そして池田。このコースで、純瓶さんは筋肉痛になったわけです。

 

個人的には「いらち俥」の御堂筋の回を一番、楽しく読みました。この落語が好きなせいもあるでしょう。「いらち俥」は、人力車で難波周辺から大阪駅を目指す噺です。私は関西に住んで34年になりますので、難波と言われればすぐにわかりますが、関西以外の方にはわからない人もいるかもしれません。そもそも、大阪と梅田の位置関係も、説明するのが大変難しいものです。同じと言えば同じだし、違うと言えば違います。

 

まして、人力車を難波から大阪へ走らせるなんて、歩いてみなければ、実感できません。ちなみに思いついて、ナビで調べたところ、いらち俥で走った距離は3.9キロ。歩数にして5534歩で55分かかるのだそうです。

 

 

スーパーマンにインタビューしたい

時間が許せばいつも落語に行きたいなと思っています。実際、少し時間に余裕があったころは落語やジャズを聴きにいき、ライブってなんて楽しいのだろうと夢中になりました。

 

けれども、落語を聴いた後に舞台となった地を巡るというのは考えつきませんでした。もしトライしていたら、聞いたばかりの噺を身体に叩き込むことができたでしょうに。残念です。今はなにかと忙しく自分の時間はほとんどありません。

 

けれども、忙しい新聞記者だって成し遂げることができたのです。いつか私も落語噺めぐりができると信じて毎日を乗り切りましょう。やはり『落語散策そぞろ歩き』はスーパーマンが作った本なのかもしれません。では、狐狸窟彦兵衛はどこの星から来た人なのでしょう。今度、お会いしたとき聞いてみましょう。

 

 

【書籍紹介】

落語散策そぞろ歩き

著者: 狐狸窟彦兵衛
発行:レベル

古典落語に登場する上方の名所を、狐狸窟彦兵衛と笑福亭純瓶がご案内。読むだけで歩いた気がする、落語を聴いた気がする、お得な本です。もちろん、本書を片手に散策に出発!というのも行動派のあなたにピッタリ!とにかく、これであなたも落語通で大阪通になれるでしょう。
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