本・書籍
2019/3/28 21:45

普段マンガを読まない夫がハマった『恋は雨上がりのように』夫婦間でまったく違った感想とは

私の夫は滅多に漫画を読まないヒトです。彼は映像化された作品を好み、暇さえあれば映画を観ています。

 

ところが、先日ものも言わずに読みふけっているものがありました。何ごとかと盗み見ると、眉月じゅんの『恋は雨上がりのように』(小学館・刊)というタイトルのコミックでした。全部で10巻を既に取りそろえ、熟読しています。

 

その横顔を眺めながら、そんなにも面白いのだろうかと気になって気になってたまらなくなりました。

 

 

橘あきらの魅力

翌日、夫が働きにいくのを待ちかねて、私はリビングルームに積んだままの『恋は雨上がりのように』を読み始めました。実はその日、締め切りが重なり忙しかったのですが、途中で止められなくなり大変困りました。

 

けれども、心から思いました。確かにこれは面白いと。

 

まず、主人公の設定が秀逸です。ヒロイン・橘あきらは17歳の女子高生。美人でスタイルもよく、何よりもその目力といったら、半端ないのです。

 

ちょっとこわいくらいの大きな目。こんな目で見つめられたら男の子はイチコロでしょう。ただ、親しみやすいタイプではなく、いわゆるクールビューティ。あまり笑わないため、怒っているのかと誤解されたりしています。

 

 

うつろなJK

ただ、彼女は今傷心状態です。失恋? いえいえ違います。あきらは陸上部で活躍するスター選手でした。選手生活が何より好きで、もっと良いタイムで走りたいという目標に向かってひとり疾走していたのです。

 

ところが、練習中にアキレス腱を断裂するという大けがをしてしまい、部活動をあきらめざるを得なくなります。

 

それまでは学校に通いながら、練習、練習、また練習の日々でした。ところが、走れなくなったあきらは、病院に通う以外、何をしてよいのかわからなくなっています。

 

 

疾走する恋の行方は?

そんなあきらが恋をします。アルバイト先のファミレスの店長・近藤正巳、45歳のバツイチ男です。覇気もなく、お客さんのクレームにペコペコと頭を下げる毎日を送る彼は、ストレスによる円形脱毛症を患ってもいます。

 

誰が見ても不釣り合いなカップルで、近藤本人も自分があきらに恋心を抱かれているなどと信じることはできません。むしろ嫌われていると感じてウジウジしています。

 

けれども、あきらは本気なのです。陸上競技のトラックを駆け抜ける勢いで、いや、もしかしたらもっと切羽詰まった形相で、近藤店長に迫りに迫るのです。私は二人の恋の行方がどうなるのか、私はワクワクしながら読みました。

 

 

雨の中、恋は熱く濡れる

あなたも覚えがあるでしょう。ひたむきな片思いは甘く苦しく、何もかもがアンバランスなものです。まして、普通に考えたらあり得ないカップルなのですから。美しいJKが冴えない中年男をひたすらに思う。思って、思って、思い抜く。私にはメルヘンというより一種のスリラーのようにも思えてしまいました。

 

二人が出会ったのは、あきらが雨宿りをしていたときでした。あきらの心の中も雨に濡れていたのです。そして、あきらが自分の思いを、近藤店長に本気でぶつけるのは、土砂降りの雨の中でのことでした。

 

『恋は雨上がりのように』は、大事なシーンでいつも雨がついてまわります。あきらが雨女なのか、店長が雨男なのか。それでも二人は雨の中で幸福そうです。

 

ぎらぎらとまぶしい太陽の下にいるより、雨宿りしているときの空間の方がしっとりとした恋にはふさわしいのでしょう。かつては、私にもそんな瞬間があったはずなのにとうらやましくなりました。

 

 

夫が『恋雨』にはまったわけ

帰宅した夫に「あの漫画、読んじゃった」と告白すると、彼は「そうか」とため息をついた後、「故障した高校二年生の女子陸上選手をここまで正確に描いた漫画はないよ。ちょっとあり得ないくらい、見事だ」と言いました。さらに、

 

「本来なら、あきらは選び抜かれた陸上競技選手としてインターハイに出場し、明るい光を浴びているJKだ。けれども、現実には、ファミレスでアルバイトをしている。その落差が、この漫画に深みを与えているんじゃないかな」と言うのです。彼はかつては陸上競技の選手だったので、とらえ方が私とは違うのです。

 

映画にもなった『恋は雨上がりのように』

夫は驚くべきものをカバンから取り出しました。映画『恋は雨上がりのように』のブルーレイディスクです。私は思わず「だ、だんな、好きですね~~。本気っすね~~」と、言いそうになりました。こんなにもご執心になることは、最近ないことなので、たいそう驚きました。

 

待ちきれずに、早速観ました。主演は橘あきら役に小松菜奈、店長役は大泉洋がつとめます。二人とも、まさにはまり役です。

 

とくに、陸上競技のシーンは小松菜奈は本当の選手?と、思うほど、臨場感にあふれています。そのフォームの美しさといったら! また、二人が働くファミレスも、まったくもってホンモノの味が出ています。それもそのはず、セットではなく、閉店したファミレスをまるごと作り替えてロケをしたのだそうです。

 

 

夢、その成就のために

人は皆、夢を持っているものだと思います。けれども、多くの人がその夢を果たせないまま、もがいているものではないでしょうか。

 

橘あきらは陸上のトップ選手になる夢を絶たれ、その喪失感に苦しんでいます。近藤店長も、もう夢など見ないぞと決心しているかのようです。

 

そんな二人が雨の中で出会い、惹かれあい、いつか雨が上がる日が来ると信じるようになるのは、自然の流れだったのかもしれません。

 

私にも夢がありました。けれどもそれが果たされないと知ったとき、「叶う夢しかみない」と、決めました。夢をあきらめるみじめさを味わうのが嫌だと思ったからです。

 

けれども、『恋は雨上がりのように』は、私に「逃げずに夢を追いかけなさい」と、囁いてくれたようです。やがて雨は上がり、たとえ形を変えても、夢は必ず成就すると信じていい、今はそんな風に思えます。

 

【書籍紹介】

恋は雨上がりのように

著者:眉月じゅん
発行:小学館

橘あきら。17歳。高校2年生。感情表現が少ないクールな彼女が、胸に秘めし恋。その相手はバイト先のファミレス店長。ちょっと寝ぐせがついてて、たまにチャックが開いてて、後頭部には10円ハゲのあるそんな冴えないおじさん。青春の交差点で立ち止まったままの彼女と、人生の折り返し地点にさしかかった彼が織りなす、恋と青春の物語。

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