本・書籍
2019/4/17 21:45

飼うんじゃない。命を預かるんだ!――『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』

ネットで拡散した動画がワイドショーなど地上波の番組で取り上げられ、それをきっかけにしてさらに拡散するという傾向が年々強まっている。2年くらい前までは、目立ちたがり屋のバイトがウケだけを考えて撮影し、アップするいわゆる“バカッター動画”が主流だったのだが、去年あたりから動物を意図的に虐待する内容の動画が増えてきた。

 

 

“しつけ”という名の虐待

つい最近も、いたましい動画の存在が明らかになった。今年の2月には、京都市伏見区に住む女性が、飼っているラブラドール・レトリバーを散歩中に何回も蹴り上げる動画がツイッターに投稿され、あっという間に拡散した。そして3月には、福島県本宮市に住む女性が飼っているプードルを首輪ごと引きずりまわし、クローゼットの扉にぶつけるところを撮影した映像がツイッターに投稿され、問題になった。

 

いずれの飼い主も“しつけ”という言葉を強調した。いやいや、それは違うでしょう。絶対に。“しつけ”のために蹴り上げたり、首輪とリードを付けたままの状態で振り回してクローゼットの扉にぶつけたりという行いを思いつく時点で、ペットを飼う―それは命を預かることにほかならない―資格はまったくない。言葉では表現しきれない憤りを感じる一方で、こういうタイプの飼い主たちが実際にいるという事実も冷静に受け容れなければならない。

 

 

飼うんじゃない。命を預かるんだ

そもそも犬を飼うという行いの目的は、飼い主がその子の気持ちを無視する形で自分の思い通りに生かしていくことではないし、そうでありえるはずがない。それなのに、虐待動画のアップが増加傾向にある原因は何なのだろうか。筆者にはどうしてもわからない。いや、普通の感覚なら、わかりようがないのだ。

 

ここでありきたりな人道論をくどくど述べるつもりはまったくない。ただ、ペットを飼うということはその子の一生に対する責任を負う行いであるという事実を公の場で確認せずにはいられない気持ちなのだ。そういう過程のガイドとなってくれるのが、『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』(沢田俊子・文、野寺夕子・写真/学研プラス・刊)である。

 

 

「ハッピーハウス」に集まる命

「ハッピーハウス」という団体がある。動物の保護やその心身のケア、里親さがしなどを通して動物たちの生命を守る活動を行っている1990年に設立された団体だ。まずは、個の団体についての説明から始めるのがよいだろう。

 

ハッピーハウスは、大阪府豊能郡能勢町の、人里はなれた山の中にあります。車でしかいくことができないのですが、たいていの人は道に迷ってしまうほど、なにもない山の中です。

『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』より引用

 

こういう環境にあるハッピーハウスには、犬や猫など500頭あまりが保護されている。そんなに多くの動物たちがなぜ集まるのか。

 

迷子もいれば、捨てられたもの、ペットショップの倒産で置き去りにされたもの、たくさん飼いすぎて手におえなくなって運び込まれたもの、中には、引っ越すために足手まといになり、公園に捨てられたペットもいます。

『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』

 

こういう施設の絶対数は、身勝手で残酷な自称“飼い主”の数と比例しているにちがいない。

 

人間に見捨てられた犬たちにとって、ハッピーハウスは保護してもらえる「孤児院」であり、しつけを学ぶ学校であり、病気をなおす病院であり、老後を過ごす老犬ホームでもあるのです。

『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』より引用

 

 

痛ましい現実から目を背けないことの大切さ

動物保護の最前線で繰り広げられるリアルな日常をまとめた本なので、読むに堪えないようなエピソードも出てくる。以下に紹介するのは、2001年、大阪府高槻市の河川敷で発見された犬の親子の話だ。

 

「ようすがおかしい」と、ハッピーハウスに連絡がありました。子犬たちの耳が切り落とされているというのです。まさか…。でもほんとうに子犬たちは、耳を切りとられていました。中には、脚の先を切断された子犬もいます。はさみのようなもので、切られたらしいのです。その光景を想像するだけで、おそろしくなってきます。

『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』より引用

 

常軌を逸脱したとか、想像を絶するとかいった言い方で形容して終わるのは簡単だ。こうした状況をおそらく日常的に目の当たりにしているハッピーハウスのスタッフのハートは、どれほど強いのだろうか。表面的な残酷さや哀れさに心を奪われるのではなく、そこから先にすべきことを冷静に考え、集中するからこそ、現場で感情的に揺らぐことがないのだと思う。

 

 

ハッピーエンドの話で救われる

まさにハッピーエンドという話もある。ちょっと長くなるが、紹介せずにはいられない。

 

のら犬のダニーは、生まれながら脳に障害がありました。そのためか、たえず頭をふっています。見るからに、飼うには大変そうな犬でした。

だからといってハッピーハウスのスタッフはあきらめませんでした。ダニーもちゃんと訓練を受けました。その成果があって、イベントのときには、頭をふりながらも、デモンストレーションができるようになりました。

そして里親さんが決まったのです。二五〇頭もいる犬の中から、ダニーが選ばれた理由は、わかりません。里親さんとダニーとの運命としかいえないと甲斐さんはいいます。

『命の重さはみな同じ―みなしご犬たちの物語―』より引用

 

読み終わって、考えた。この本を一番読んでもらいたいのは誰か。それはおそらく、初めてのペットを欲しいと思っている子どもたちだ。8歳のビション・フリーゼと5歳のビション・プーと一緒に暮らす筆者にとって、この本に出てくるすべての話が他人事には感じられない。いかなる形であれペットとかかわる人たちが、手に取ってくれることを心から願う。

 

 

【書籍紹介】

命の重さはみな同じ みなしご犬たちの物語

著者:沢田俊子、野寺夕子
発行:学研プラス

大阪府能勢町にある認定NPO法人のハッピーハウスは、捨て犬や捨て猫を保護する施設。人間の勝手な都合で捨てられた犬やねこたちは、絶えない。この施設に収容された動物たちそれぞれのドラマを追いながら、命の重さを伝える感動ノンフィクション。

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