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2019/5/28 21:45

ディープランニングで蘇る「19世紀の日本」

ここ数年、話題に上ることが増えた「AI」「ディープラーニング」「機械学習」などのキーワード。皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 

「AIが発達したら人間の仕事がなくなるのでは?」などと言われていたりもしますが、現在はまだそこまでのレベルにはなっていないと思われます。ただ、確実にAIやディープラーニングはさまざまな世界で、これまでは不可能と思われたことを実現できるようになってきています。

 

50万枚の画像データを読み込ませて当時の色を再現

江戸の風景と人びと AI Color Series』(Pearbook編集部・編/Peerbook・刊)は、そんなディープラーニングの技術を駆使した一冊。1868年にイギリスで刊行された『Views of Jppan』という写真集を、ディープラーニングによりフルカラー化したものです。

 

忠実な色再現を行わせるために、50万枚の画像データを読み込ませたとのこと。かなりの数ですね。なお、この『Views of Japan』という写真集の詳細は以下の通りです。

 

“Views of Japan”は、イタリア生まれのイギリス人写真家フェリーチェ・ベアト(Felice Beato)が、慶応2年、3年(1866、1867年)当時の日本人の様子を写真に記録したものです。

『江戸の風景と人びと AI Color Series』より引用

 

一部は、当時白黒写真に人間が着色したカラー写真が販売されており、ベアトも日本人着色画家を雇って一部の写真に着色をしています。

 

 

自動着色の江戸の風景は何となく違和感がある

着色された写真は、「風景編」「人物編」、そして「元となった写真編」に分かれています。

 

風景編には横浜、箱根、そして江戸城などの写真があります。今と違い、「ああ、江戸時代だな」という写真ばかり。このような江戸時代の写真が残っていることがとてもすごいことだと感じます。

 

ディープラーニングによる着色ですが、現代のカラー写真という感じではありません。木々の緑や家並みの茶色い感じは出ていますが、空や水の青などはあまり出ていません。また、派手な色がほとんどないため、ずっと見続けているとセピア色に退色したカラー写真を見ている感じになります。

 

また、風景に映り込んでいる人々がどこか現実味が感じられません。顔の色が土気色で、服の色もほぼモノクロかちょっと藍色っぽい感じばかり。蝋人形が立っているように感じます。表情があまりないのも、そう感じる要因だと思います。

 

一方、人物編を見てみると、多少は写っている人たちに生気が宿った感じがします。それでも、顔の色が暗く、なかには真っ黒の人も。僧侶の着ている袈裟や女性の着物などは割と派手に着色されているので、わかりやすい服装ならば対応できているのかなと感じました。

 

よく考えてみると、当時のカラー写真という「正解」がないので、正確には再現できないものなのかもしれません。

 

 

モノクロ写真に色を付けてもあまり感動しないかも?

最後に元となった写真が掲載されているので、そちらを眺めてみると、どうも人の顔などは元写真から黒いようです。ということは、江戸時代の人は顔が黒い人が多かったのでしょうか。お風呂に毎日入るといった習慣もなかったでしょうから、そんなものなのかもしれません。

 

また、一部技師により着色された写真もあるのですが、青がかなり使われています。お相撲さんの写真があるのですが、ディープラーニングではまわしが茶色に着色されていますが、元写真の着色は青となっています。どちらが正しいのかは今となってはわかりません。

 

元写真を見ていると、やはりモノクロ写真に無理矢理色を付けないほうがいいなという印象。モノクロ写真にはモノクロ写真のよさがありますし、そもそも元の色がわからないのでカラー写真にされても、なんとなく違和感を感じます。

 

この着色のディープラーニングがもっと進化を遂げて、何十年か後にはさらに正確な色が再現できるようになるかもしれません。でも、やはり当時を知らなければ、それが正しいのかどうかわからないまま。恐竜の皮ふの色がわからないのと同じことでしょう。

 

ただ、このような技術がどんどん進化しているのも事実。あと10年、20年したら、今の僕らには想像できないようなことができるようになっているかもしれません。そんな可能性を感じさせてくれる一冊です。

 

 

【書籍紹介】

江戸の風景と人びと AI Color Series

著者:Pearbook編集部
発行:Pearbook

本書は、1868年にイギリスで刊行された ”Views of Japan” を、ディープラーニングによりフルカラー化した写真集です。ディープラーニングには、可能な限り実際の色を再現できるよう50万枚の画像データを学習させています。着色の自動処理には、学習データからディープラーニングが手軽にできると話題の「keras」を使用しています。

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