カフェでお茶をしているとき、電車で誰かと移動するとき、ふとした瞬間に沈黙が流れるときがある。私はどちらかというとおしゃべりな方なので、その沈黙が耐えられない。
正確に言うと、なかには沈黙がなんとも思わない、むしろ心地よい相手もいる。だが、知り合ったばかりの友人や仕事先の相手となると、無言の時間を避けなくては…などと思ってしまうのだ。
就職して数年が経ったある日、大学時代の友人から突然連絡があり、久々に会って食事をすることになった。実はその友人とは大学時代そこまで親しかったわけではなく、仲が良いグループも別、2人で遊ぶことはおろか、食事などしたことがなかった。それなのに、突然「相談したいことがある」とメールがあり、仕事後に食事をすることになったのだ。
さして仲が良かったわけではない私に連絡するなんて、なにか深刻な相談事だろうか。いろいろと想像しながらも、お気に入りのお店を予約し、久々の再会を喜んだわけなのだが…。
これが、ビックリするほど会話が弾まない(苦笑)。
向こうは割とおとなしい部類の女子、こちらは沈黙が怖いおしゃべり女子なので、あれこれとこちらから話題を振ってみるが、ことごとく空振り。相談したいことがあったはずなのに、一向に切り出してこない。
あまりに会話が続かないので、途中からはひたすら2人、黙って食べ続けた。普段はあんなに美味しいロシア料理が、この日ばかりはろくに味がしなかった。苦い想い出だ。
会話の達人・女子アナにコミュニケーション術を学べ
あの一件以来、「沈黙恐怖症」になってしまったきらいがある。会話を途切れさせたくない、二度と、あんな気まずい雰囲気を味わいたくはない!
だが、「会話は途切れていい」と断言した一冊を見つけた。元フジテレビのアナウンサー・カトパンこと加藤綾子氏による『会話は、とぎれていい~愛される48のヒント~』(文響社・刊)だ。
カトパンというと、女性も見惚れる容姿を持ちながら、いまひとつ女子ウケがよろしくない印象。事実、「嫌いな女子アナランキング」では、毎年堂々の1位という不名誉な結果が出ている(とはいえ、好きな女子アナランキングでも上位に入っているので、良くも悪くも注目されているアナウンサーだと言えようが)。女子人気が芳しくないのに、「愛される48のヒント」なんて副題つけちゃって大丈夫…!? と気になって、思わず手に取ってしまったのも動機のひとつだが、相手から話を引き出すプロのテクニックが知りたくて、読んでみることにした。
今回は、カトパンから学ぶ、仕事とプライベートがうまくいく話し方・聞き方・気遣いの秘訣を紹介しよう。
「目で見て話す」にこだわらない
人の話を聞くときは「目を見て聞きましょう」。小学生のころに教わった、いわば常識ともいえるマナーだが、カトパンいわく「会話では、必ずしも相手の目を見て話す必要はない」とのこと。
もちろん、相手の目を真正面から見て、自信満々に話せる人はそれで良い。けれども、相手の目を見て話すことが苦手な人の場合、往々にして「目を見て話す」に縛られすぎて、自分が言いたいことを口に出せなかったり、会話に消極的になってしまったりすることがある。これは、とても残念なことだ。
だったら、目を見て話すことにとらわれず、たとえ下を向きながらでも素直に話した方が、相手に好印象を与えられるとカトパン。
目が合うか合わないかよりも、お互いが伝えたいことを伝えられるかどうか、会話の中から相手を知り、自分を知ってもらうこと、これがコミュニケーションで大切なのだ。
ゆずれない「一線」を持つ
大勢で会話しているときは特に、その場の雰囲気を壊したくないため、「ちょっと違うな」と思うことでも、つい同調してしまうことはないだろうか。
私自身、ママ友との会話の中でたまに経験する。とりわけ子育ての方針については人それぞれなので、賛同できないことも正直ある。けれど、異論を唱えるのも得策ではないので、多くの場合は聞き役に徹し、賛成するとも批判するともなく、あいまいに話を流している。
けれどカトパンは、時には収録の流れを止めてでも、自分が違うと思ったことにはきちんと声をあげ、違和感を持ったことはそのままにしない、という姿勢の先輩芸能人たちを数多く見てきたのだそう。そして、そういったこだわりこそ、多くの人に長く愛される秘訣なのではと述べる。
確かに、自分の意見を持たず、その場の雰囲気に合わせる発言を繰り返していると、信用を失ってしまう可能性も。時に摩擦を起こすことになったとしても、自分の信念を曲げずに伝えることは必要なのかもしれない。
人の話を聞くときは「ほっぺたキープ」
人の話を聞いているとき、無表情ではあまり良い印象を与えない。かといって、常に笑顔でいるのも不自然だ。
普段、怒ってないのに「怒ってる?」「つまんない?」と言われるような人におすすめしたいのが、カトパン流「ほっぺたキープ」。
自然で、なおかつ表情が死なないようにするためには、「口よりも頬の肉を意識してキープするようなイメージを持つ」と良いのだとか。上に持ち上げるというよりも、重力に対抗して平行にしておくようなイメージ。
知らないうちに撮られていた写真を見るたび、ムスッとした表情の自分に辟易している私は、ぜひ取り入れたいテクニックだ。
相手を心地良くさせるコミュニケーション術とは
会話の中で、つい自分が知っていることをアピールしたくなってしまうものだが、知っていることでも自分の口からは言わず、専門家やコメンテーターなど、番組が盛り上がる人に話してもらうよう会話を回す技術に長けたフリーアナウンサーの羽鳥慎一さん。
生放送の最後で、誤って時間よりも早くトークを収束させようとした司会者に対し、機転を利かせて番組を振り返る言葉をかけ、相手の自尊心を傷つけることなくさりげなくフォローした関根勤さん。
『会話は、とぎれていい』には、数々の著名人と仕事をしてきたカトパンだからこそ、体験し学んだコミュニケーション術が満載である。さまざまな芸能人の裏の顔を垣間見たようで、そこも楽しい。
そして何より、カトパンの控えめでとても丁寧な語り口調に好感が持てた。最近は、「~すべきだ」といったビジネス本を多く読んでいたので、柔らかい語り口調が新鮮に映ったこともある。言葉の選び方が綺麗で、すっと入ってくる文章だった。
私自身、もう、あの日味わった「沈黙の食卓」の呪縛から解き放たれていいのかもしれない。会話が途切れることを恐れず、言葉の前にある心の在り方を大切にし、日々のコミュニケーションを楽しもうと思う。
【書籍紹介】
会話は、とぎれていい
著者:加藤綾子
発行:文響社
目を見て話さなくたっていい、コミュニケーションは「先攻」だけじゃない、盛っていい話、ダメな話ー人気アナウンサーが数々の話し方の達人の隣で学んだ「会話の本質」とは? 話し方、聞き方、相手への気遣い、仕事に対する姿勢、人間関係の築き方…愛されるコミュニケーションのヒントが満載! 明石家さんまさん、タモリさん、笑福亭鶴瓶さん…超一流のコミュニケーション能力を持つ人たちは何を考え、どうやって人と接しているのか。『カトパン』がアナウンサー生活で学んだ48の「愛されるヒント」をこっそりと伝えます。
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