今週末、参議院議員通常選挙がある。毎度のことながら、投票案内状が届くと、いささか面倒に感じてしまう自分がいる。国を変えるためには、国民一人ひとりの声が大切だということ、若い世代こそ選挙に行かなければいけないと頭ではわかっているのだが、なんとなく投票所への足取りが重くなりがちだ。
「候補者の公約って難しいし、わかりにくい。しっかり読み込んでいないといい加減な投票になっちゃうんだよね。そんな適当な投票をするなら、行かないほうがマシかも」というママ友の声を聞いたことがあるが、これって結構核心をついている。
いまの日本の政治に問題があると感じてはいるけれど、じゃあどこの政党を選べば良くなるのか、現状を変えられるのかがわからない。投票率がなかなか上がらない背景には、マニフェストの難解さがあるような気がする。
そんななか、今回の選挙では、「政治なんて自分とは遠い世界」だと感じている特に若い世代に向けて、興味を持たざるを得ないようなさまざまな動きが巻き起こっている。
たとえば、大阪在住の20代が中心となって作成した各政党の政策の図解「#政党アレコレ比べてみました」がTwitterで話題だ。「消費税、上げる? 上げない? 無くす?」や「年金どうなる? 私の老後」など、テーマごとに各政党の意見がまとめられていて、とてもわかりやすい。
お笑いタレントのたかまつなな氏は、「1分でできる、政党の選び方」というチャートを作って公開、こちらも大きな反響を得ている。
また、「若者よ、選挙に行くな」と全力で煽ってくる動画もリツイートされまくっている。ご覧になった方も多いのではないだろうか。
そして、もっとも話題となっているのが、『新聞記者』という映画だ。「松坂桃李&シム・ウンギョンという実力若手俳優が挑んだ、前代未聞のサスペンス・エンタテインメント」という触れ込み。内閣官房VS女性新聞記者という対立図。「よく選挙前に公開できた」という巷の声にも後押しされ、先日映画館まで足を運んでみた。
フィクションでありながら、限りなくリアル。
政治に無関心ではいられない衝撃作
一言でいうと、「今、この時期に、観てよかった」。この感想に尽きる。
以前から、政治の不透明さ、そしてマスメディアによる印象操作や偏向報道に嫌気がさしていた私にとって、「やっぱり…!」と納得するシーンあり、「まさか…!」と衝撃を受けるシーンあり。フィクションではあるけれど、ストーリーに出てくるトピックが、まさにここ数年の日本のニュースを彷彿とさせるものばかりで、限りなくノンフィクションに近いという点も自然と惹き込まれる理由だろう。
皆それぞれが、お国のため、家族のため、自分を守るために、必死に生きている。
この国を良くしようという想いは同じはずなのに、なぜ?。観る者の胸に訴えかけてくるラストと、エンドロールが終わった後にかすかに流れる音にも注目してほしい。
この映画『新聞記者』の原案となったのが、東京新聞の記者である望月衣塑子氏の著書『新聞記者』(KADOKAWA・刊)である。望月氏といえば、菅官房長官の定例会見にて次々と質問を繰り出す姿が世に衝撃を与えた話題の人だ。
映画に強く感銘を受けた私は、その足で書店へと向かった。
さまざまな圧力にも屈しない女性記者の半生
『新聞記者』は、映画『新聞記者』の原案ではあるけれども、決して映画のストーリーが描かれているわけではない。そのため、映画の原作本的な内容を期待して読み始めると、少々期待を裏切られたような気持ちになるかもしれない。
けれど、読み進めていくうちに、望月衣塑子という一人の人間ができあがるまでの背景がよくわかり、記者の本質や真実を追い求めるストイックさ、時々に行く手を阻む権力のおぞましさが伝わってきて、最後まで目が離せない。
正直、彼女の一挙手一投足には賛否両論あって、『新聞記者』のレビューを覗いてみると、評価は真っ二つだ。彼女を応援する声が多数寄せられていることはもちろんだが、一方で主観が入りすぎている、主張が中立ではない、という声や心ないバッシングも少なくない。もしかすると、この中のいくつかは内調(内閣情報調査室)からの刺客では…と映画を見終わったばかりの私は疑ってしまったが。
情報はいかようにも操作できる現代、同じ事実を伝えるにしても、見出しひとつ、記事の書き方ひとつで、味方を作ることも敵を増やすこともできる。だからこそ、目に見えているニュースだけに振り回されず、「誰よりも自分を信じ疑え」(映画『新聞記者』より)ということが大切なのだなと強く感じた一冊だった。
『新聞記者』という映画と書籍に出会ってもなお、あなたは「選挙って面倒」だと一蹴できるだろうか。もしかしたら今回の選挙は、大番狂わせが起こるかもしれない。そんな期待を持ちながら、7月21日は投票所に行こうと思う。
【書籍紹介】
新聞記者
著者:望月衣塑子
発行:KADOKAWA
菅官房長官に質問をぶつけ続ける著者。演劇に夢中だった幼少期、矜持ある先輩記者たち、母との突然の別れ……。記者としての歩みをひもときながら、6月8日を境に劇的に変わった日々、記者としての思いを明かす。
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