本・書籍
2019/9/18 21:45

じつは「交通整理」はできない! 約8割が70代の興味深き「交通誘導警備員」の実態

ちょうど一年前、我が家はミニバンを購入した。いわゆるファミリーカーという類のやつだ。家族5人が悠々乗れるので心底購入してよかったと思うが、なにしろデカイ。

 

できるだけ細い道や狭い駐車場は避け、安全第一でこの一年間乗り続けているので、今のところ事故はない。慣れてきたころが危ない!と自分に言い聞かせ、今日も気をつけてハンドルを持つ。

 

だが、どんなに避けていても、結構な頻度で出くわしてしまうのだ。恐怖の「片側交互通行」(通称:片交)に。

 

 

できれば避けたい、恐怖の片側交互通行!

片交の多くは、狭い道で道路の舗装や電線の修理などをしているケース。ミニバンの私にとっては、「ホントにその幅、通れるんですかー!」というくらいの車幅しかない。

 

赤いコーンははみ出し気味に置かれているし、作業員さんも結構ギリギリで立っている。そんなにこちらの運転技術を信用しないでいただきたいものだ。絶対に擦りませんように、コーンを倒しませんように、作業員さんの足を踏みませんように…そう祈りながら、細心の注意を払って左右のミラーを確認、慎重に乗り切る。

 

こんなとき、頼みの綱となるのが交通誘導警備員の人の誘導だ。ある人は、「大丈夫、こっち側余裕あるよ!」と合図してくれる。ある人は、不安げに運転しているこちらの様子など我関せず、ただ誘導棒を振っているだけ。ある人は「はやく通れ!」と言わんばかりにしきりに手招きし、ある人は体全身で「徐行!ゆっくり!」とアピールしてくれる。

 

交通量の多い道や駐車場出入口なども、同様だ。テキパキとドライバーに指示してくれる人もいるが、「どこ見て誘導してんねん!」と強めのツッコミをしたくなる人も多い。

 

人は往々にして苦い想いをしたことばかり記憶に残るもので、私の印象としては「交通誘導警備員はおじいちゃんばかりで、全然こっち見てない。危なすぎる!」というもの。炎天下でもずっと立っていなくちゃいけないし、過酷なのはわかるのだが……。

 

実際、どんな人が交通誘導の仕事をしているのか。知られざる交通誘導員の裏側が赤裸々に語られている本を見つけた。『交通誘導員ヨレヨレ日記』(柏 耕一・著/三五館シンシャ・発行/フォレスト出版・刊)、タイトルからして、いかにもヨレヨレよぼよぼのおじいちゃんが誘導棒を振っている様子が頭に浮かぶ。

 

 

現場が変われば環境も変わる。交通誘導員の日々 

全国でおよそ55万人強近くいる警備員のうち、約40%を占める交通誘導警備員。この仕事に2年半ほど従事している御年73歳の著者・柏氏は、自らこう述べる。「交通誘導警備員は、『誰でもなれる』『最底辺の職業』だ」と。はたして、そんな自嘲するような実態なのだろうか。

 

本書は、柏氏の日記形式になっている。とある日はマンションの修理現場の見守りと住民への喚起、とある日はガス管新設工事のため交差点を片交し、とある日はパチンコ屋の駐車場を交通整理する。

 

朝早くから夜遅くまで、食事もトイレ休憩も返上で働く日もあれば、ほとんど車も通らず、予定よりも早く上がれる日もある。共に働く交通誘導員の仲間もそれぞれ、遭遇する作業員やドライバーもひとクセある人が多く、なるほど、たしかに大変な仕事だ。

 

また、交通誘導員には「交通整理」の権限はないそうだ。なんとなくそんな気はしていたが、やはり。目の前で車が混んでいるからといって、勝手に交通整理をした場合、もしも接触事故でも起これば大問題なのだそう。

 

「工事現場等における人や車両の誘導はあくまでも相手の任意的協力に基づく『交通誘導』であり、警察官や交通巡視員の行う法的強制力を持つ『交通整理』とはまったく異なることに注意しなければならない」とは、交通誘導員のテキストに書かれている内容だそうだ。

 

けれども、「警備員が通れと言ったから」「警備員の誘導ミスだ」などと接触事故の際に抗議されることは珍しくないのだという。

 

まあ、気持ちはわかる。私だって、片交の道を通行中に万が一接触事故を起こしたら、「警備員さんがオーライって言ったから!」と言いたくなるかもしれない。だからこそ、あくまでも自己責任で運転しなくてはいけないなと、改めて。

 

 

どんな職業でも「コミュニケーション力」がモノを言う 

もうひとつ、本書を読んでいて思い出したのは、以前住んでいた家の周辺で行われていた工事のことだ。その土地には一年弱しか住んでいなかったのだが、誇張なくほとんどが工事中だった。やれ下水道の設置だ、やれガス管の移行だと、実に住んでいた期間の8割以上は工事をしていた。

 

だからこそ、作業員さんや交通誘導員さんの顔は、だいたい覚えてしまっていた。工事中で通行止めのときだって、その先に自宅があれば別。最初は窓を空けて理由を言って通してもらう…というやりとりがあったが、次第に顔パス状態になった。子どもたちと家の周辺を歩いているときなど、世間話をされるほど。挨拶も毎日交わした。

 

徒歩で工事現場を通るときも、実に丁寧にこちらの安全を確認しつつ誘導してくれた。そんなこともあって、工事でうるさい日が続いたが、「まあ、仕方ないか」とおおらかに過ごせた気がする。

 

この実体験からもわかるが、柏氏いわく、交通誘導員はコミュニケーション力が要なのだそう。住民と仲良くなれば、工事上で多少迷惑をかけても大事になりにくい。また無茶苦茶な言い分で通行止めしている道路に突っ込んでくるドライバー相手でも、言い負かすのではなく、なんとか協力を仰ぐようまくお願いをすること。こうすることで、トラブルを最小限に抑えられるのだそうだ。

 

なお、柏氏が在籍する警備会社では、約8割が70代とのこと。道理でおじいちゃんの交通誘導員をよく見かけるはずだ。いや、急激に高齢化が進む日本では、特段珍しくない光景なのかもしれない。

 

今日もおそらく、どこかで目にするであろう交通誘導員の人々。あの様子は現場入りしてすぐの新人さんか? あの人はベテランっぽいな。もしや、片交が苦手なタイプかもしれない。この道の誘導は、さぞ大変だろう。

 

この本を読んでさまざまな実情を知ったことで、憂鬱だった片交を通るのが、少しだけ楽しみになった。

 

 

【書籍紹介】

交通誘導員ヨレヨレ日記

著者:柏 耕一
発行:三五館シンシャ

通行人にクレーム入れられ、現場監督に怒鳴られ、警察に注意され …… 。「誰でもなれる」「最底辺の職業」と警備員自身が自嘲する―交通誘導員―の実態を、笑いと涙で描き出す快作。喜びも笑いも涙もすべて路上にあり! 全国 60 万人の警備員の 40 %を占める「交通誘導員」を克明に描いた初めての作品(警備員の小説はいくつかあります)。同僚の多くは 70 代、超高齢化社会に進む現代ニッポンの縮図がここに。

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