近ごろ副業が話題です。副業というと、本業のかたわらにお小遣いを稼ぐための手段のように受け取られがちです。実際、短時間のアルバイトに励む人も少なくありません。もし、副業として自分が好きなことで小規模な起業(ナリワイ)ができたら、人生が面白くなるかもしれません。
高学歴=高収入ではない時代
偏差値の高い大学を出る人は高収入の仕事に就き、リッチな生活を送る。そんな幻想を抱く人が多いのではないでしょうか。けれど、最近、最難関と言われる大学を出た人たちが、できるだけお金を稼がない方法を模索し、そして実践しています。もしかして彼らは、貨幣という価値の軸ではない、まったく別の価値基準をいちはやく見出しているのではないでしょうか。
東京大学経済学部卒の山崎寿人さんは『年収100万円の豊かな節約生活』(文藝春秋・刊)で、20年間無職でいるコツを丁寧に解説していますし、東大文学部卒の鶴見 済さんは『0円で生きる: 小さくても豊かな経済の作り方 』(新潮社・刊)でお金がかからなくても楽しく文化的に暮らすコツを伝えています。
自分で職名を作る時代
そして、京大農学部修士課程卒の伊藤洋志さんは『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方 』(東京書籍・刊)で小規模なナリワイを複数組み合わせて生きる術を伝授しています。
本書によると、大正時代までは日本には約3万5千種もの職名があったのに、現代はわずか2167種に減っているといいます。確かに江戸時代には「甘酒売り」や「油売り」など販売業だけでも多種多様なものがありました。
伊藤さんは「仕事に多様性を」と提案しています。言われてみれば、これほどに世界や人の好みが多様化しているというのに、職業や働きかたについては大きな変化がありません。学校を卒業するころに一斉に就職活動をし、企業に入っていく人がほとんどではないでしょうか。けれど本当は個々人や世の中のニーズに合ったさまざまな働きかたや職業があるはずで、日々の生活に沿って自分で工夫して産み出した仕事が「ナリワイ」だというのです。
実際に職業を作ってみたら
筆者の本業は物書きですが、複業(マルチに活動するという意味で、副業ではなく複業と書くことにしています)としていくつか肩書きを自称しています。それは「イケメン評論家」「審査員」などです。
イケメン評論家はそう名乗ってブログを始めた途端、テレビ局からコメント依頼が来たくらい、今までありそうでなかったナイスな職名だったようです。審査員については職業として審査員と名乗る人はいないので名乗ったら面白いだろうなと。実際、年間何件か審査員を担当しています。なのでこの本に同意できることが山のようにありました。
自分で「こんな仕事が会ったら楽しいな。私がやりたいな」と思う職業名を創るわけですから、当然好きなことが仕事になる。しかも、それで生活しようという気概があるわけではありません。人から「今どんなイケメンが人気ですか」と聞かれたら、嬉々として趣味が高じて詳しくなった知識や目利きを披露するのが仕事です。楽しくてたまらず、もう16年も続けています。
自分で仕事を作る方法
著者の伊藤さんは、自分で仕事を組み合わせて生活していくといいと書いています。これからの時代はひとり3つ以上のナリワイを持って暮らしていくと面白いともあります。けれど、企業に属して働くことに慣れてしまった人にとって、仕事を創るということ自体がとてもハードルが高く感じるのではないでしょうか。でも、それは今の時代、案外簡単なことだと思うのです。
たとえば自分だけが詳しい「なにか」があれば、その研究家を自称すればいいのです。そしてそれについてSNSやブログで発信すれば、仲間も増えていくでしょうし、うまくいけば仕事の依頼もやってくるかもしれません。
週に1日バーの店長をするのもナリワイのひとつだと本書にもありました。その日は好きなことをテーマに店を開けばマニアックな夜になりそうです。
本書には自分が得意なことを近所の人に伝えることで仕事になった事例や、周囲を見回してこういうことが足りないと気付き、仕事を作った事例などが載っていました。職名を作り、まずは名乗ってしまうのもありなのではないでしょうか。言い出しっぺは目立ちますから、なにかと声がかかるかもしれません。
【書籍紹介】
ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方
著者:伊藤洋志
発行:東京書籍
仕事も、ほしい物も、自分でつくるのは面白い。「ビジネス」でも「ワーク」でもなく、「趣味」でもない。DIY・複業・お裾分けを駆使した「ナリワイ」で、現代社会を痛快に生きる。ポストグローバリゼーション時代の滋味溢れる働き方、非バトルタイプのためのゆるやかな作戦。
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