本・書籍
2020/3/6 21:45

人はいつでも誰かとつながりたいのだ――『知らない人に出会う』

私の母親は、70代になった今も、相変わらず誰にでも話しかけて暮らしている。誰かと話をすれば、確かに道中の暇はつぶせるかもしれない。けれど、お互いの連絡先も聞かずに別れてしまう束の間の出会いに、暇つぶし以外の何の意味があるのか、私にはそれが長いことわからなかった。

 

最低限のつながり

「TEDブックス」(朝日出版社・刊)は海外のプレゼンテーションイベント「TED」で好評だったトークを1冊の本に掘り下げたもので、シリーズで10冊以上刊行されている。そのなかの1冊『知らない人に出会う』著者のキオ・スタークは、見知らぬ人と人とが一瞬だけ言葉を交わすことについて研究しているという。

 

それは、専門用語で「最低限の社会的相互作用」というものなのだそうだ。そして、人はなぜそれを求めるかというと、全く知らない誰かとコミュニケーションすることで「人との結びつきをじかに感じ取り、それによって誰かとつながりたいという人間の根本的欲求を満たすことができる」からなのだという。他人に自分の存在を認めてもらう、そのことに価値があるらしいのだ。

 

 

人類みな友達

誰にでも話しかける母の横でモジモジしていた私も大人になり、いろいろなパーティーや交流会に参加するようにもなった。当時の母を見ていたからか、不思議なことに、ものおじせず誰にでも話しかけられたし、すぐに友達になることができた。どういうところにコツがあるのか自分ではわからなかったけれど、人から「あなたは誰にでも前からの親友であるように話をする」と指摘されて、そうかもしれないと思った。

 

実際そうなのだ。私には街を行き交う人誰もが大切な友人に思える。それは、母親がそういう態度で「世間」と接していたからで、いつしか私もそうすることが自然になっていた。電車でかわいい赤ちゃんがいたり、道で散歩中の犬が近づいてきたりしたら、お母さんや飼い主に「何か月ですか?」と尋ねることも多い。二度と会わない人かもしれないけれど、私の「かわいいですね」という気持ちを伝えられるし、挨拶みたいなものだと思っている。

 

 

一瞬の関わりの美しさ

日本には「袖振り合うも他生の縁」という素敵な言葉がある。見知らぬ人と袖が少し触れ合うのも、決して偶然ではなく決められた出会いなのだという意味だ。どんな小さな出会いもおろそかにしてはいけないという教えである。確かに旅先で知っている人がひとりもいないような時、道を教えてくれた誰かの存在にほっとする。自分はひとりぼっちではないのだという気持ちになれる。

 

キオ・スタークは、こうした見知らぬ人と言葉を交わすことで「誰かとつながっている感覚」を得られると書いている。それはとても大切なことなのだと。「互いに相手を認識し合うだけで、心からの喜びや一体感が湧いてくる」、だからこそ見知らぬ誰かとの交流は大切なのだと。つまり、見知らぬ他人は世界の一部とも言えるだろう。他人とつながった時、私たちは世界ともつながることができたかのような大きな悦びや満足感を得られるのだ。

 

【書籍紹介】

知らない人に出会う

著者:キオ・スターク
発行:朝日出版社

道を歩いているとき、バスに乗っているとき、買い物しているとき、勇気を出して、知らない人に話しかけてみよう。ちょっとした会話でも、驚きと喜びとつながりの感覚を呼び起こしてくれる。赤の他人だから、心を開いて話せることもある。そうした体験は、あなたを変え、日々の暮らしに風穴を開け、この「壁の時代」に政治的な変化をも生み出す。「接触仮説」は正しいか。「儀礼的無関心」をどう破るか。他者との出会いを日々研究し続ける著者が、路上の生き生きとした会話を引きながら、異質なものとの関わっていく「街中の知恵」を説く。

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