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2020/5/11 21:45

謝るのが仕事! 知られざる”添乗員”の実態に迫る——『派遣添乗員ヘトヘト日記』

アフターコロナにやりたいこと、行きたいところは「国内旅行」と答える人が多いそうだ。海外旅行は各国の入国規制もあり、近いうちには叶わないかもしれないが、日本国内を旅することは、そう遠くない日に可能になるだろう。それが、地域を活性化し、観光業を応援することにもなるのだから。旅行業界では、早くも感染対策を万全にした企画が進行中らしい。

 

さて、パッケージツアーに欠かせない人といえば、”添乗員”だ。彼らのおかげで私たちは安心して、また気楽に旅を楽しめる。今日、紹介する『派遣添乗員ヘトヘト日記』(梅村 達・著/三五館シンシャ・刊)は、旅行業界を底辺で支える添乗員たちの実態に迫った一冊だ。

 

 

添乗員のほとんどが”ハケン”だった!

旅行会社の社員が添乗業務を行うのは非常に稀だそう。大半は添乗業務を請け負う派遣会社に所属する人で、本書の著者・梅村さんもその一人。

 

梅村さんの経歴をざくっと紹介しておこう。若いころは映画関係の仕事をするのが夢だったそうだが、やがて現実にぶち当たり、家族の生活を支えるために30歳になる前に学習塾へ就職。講師兼マネージャーとして働き続けたそうだ。

 

40歳になったとき旅行ライターを養成する学校の講義を受け始めたのがきっかけで、その後、塾で稼ぎつつ旅行ライターを副業とすることとなった。50歳でライター一本で生きていくことを決めたものの仕事の波は激しい。そんなとき、アルバイトで添乗員をやってみないかと誘われ、添乗員の世界に足を踏み入れたのだそう。

 

梅村さんは現在66歳、15年以上に渡り、旅行業界で見過ぎ、世過ぎしてきた彼の悲喜こもごもを綴ったのがこの本で、私たちが知らない旅行業界の裏側をそっと教えてくれているのだ。

 

本書の構成は、

 

第1章 派遣添乗員、本日も苦情あり

第2章 ハズレの仕事、ときどきアタリの仕事

第3章 添乗員を取り巻く奇妙な人びと

第4章 旅行業界残酷物語

 

と、なっている。

 

日当1万円の日雇い添乗員

添乗員を派遣する会社は大別すると2つに分かれるという。大手旅行会社系列は、社会保険が完備され待遇もいいが、そこに所属するのはやはり若手が圧倒的多数。それ以外の中小規模の派遣会社はいわゆる日雇いの日給システムがほとんどで所属するのは中高年が多いそうだ。

 

派遣添乗員の報酬は、だいたい日当1万円ほど。(中略)添乗員は派遣業務の前後には、旅行会社で準備、精算をしなければならない。そのため派遣業務ができるのは、月に20日くらいが限度となる。(中略)私の年間の収入を月平均ならすと、およそ月収10万円といったところだ。

(『派遣添乗員ヘトヘト日記』から引用)

 

梅村さんは、2011年の3・11のあと、添乗業務のほとんどがキャンセルになり、収入がゼロになってしまった時期があると綴っている。そして、今また、コロナ危機で多くの派遣添乗員が窮地に追い込まれているに違いない。本書を読むと、彼らが一日も早く復活できることを願わずにはいられないくなるのだ。

 

 

添乗員の通信簿はアンケート

さて、募集型の団体旅行では、参加者の満足度を知るために、旅行会社ではアンケートを実施しているそうだ。ツアーの内容、電話応対、食事、宿泊施設……、そして添乗員など、各項目が5段階評価される。

 

添乗員としては当然、ほかの項目はともかく、自分の評価が気になる。通信簿がいつも「不満」「やや不満」に片寄るようならば、仕事を干されてしまうからだ。高評価を得る前提として、トラブルをできるだけ回避するように努力しなければならない。

(『派遣添乗員ヘトヘト日記』から引用)

 

バスツアーで大渋滞に巻き込まれ予定が遅れる、参加者に迷子が出て出発が遅れる、アクシデントによって列車や飛行機が遅れる、あるいは乗ることができないなどなど、旅にトラブルはつきもの。

 

梅村さんは、初心者のころはスケジュールを円滑に回すことだけに意識をかたむけていたという。が、経験を重ね余裕がでてくると、参加者に目を向けることができるようになっていった。参加者にツアーを楽しんでもらうことを常に意識していれば、たとえトラブルがあっても、「この添乗員なら許そう」と思ってもらえることに気づいたというわけだ。

 

彼は一度だけ、40人の参加者全員から「満足」の評価をもらったことがあるそうだ。それは札所巡りのバスツアーで、僧侶が同行し法話をしながらの旅だった。つつがなくツアーが終わったところで僧侶が言った。

 

「みなさんが今日、無事に回ることができたのも、添乗員さんや運転手さんが陰になって支えてくれたからです。それをお金を払っているのだから、当たり前と思ってはいけません。感謝の気持ちを忘れずに生きてまいりましょう」

僧侶の話しぶりは簡潔にして情感がこもっていた。車内はしばらく水を打ったように静まりかえった。

戒めの言葉の余韻がさめやらぬうちに、私は手早くアンケート用紙を配っていった。その結果が完璧な評価となった次第である。

(『派遣添乗員ヘトヘト日記』から引用)

 

 

平謝りが大切な仕事

とはいえ、どんなツアーにも”クレーマー”が一人くらいはいるのが常。理不尽な主張にも頭をさげなければならないのも、添乗員の仕事と梅村さんは割り切っているという。が、長年の添乗員生活で、クレームをつける人、つけない人は、表情、雰囲気、目つきでほぼ100%見分けられるようになっているともいう。

 

本書には国内外のツアーで繰り広げられたさまざまな事件が面白おかしく綴られていて、一緒に旅をしている気分になれる場面も多々ある。

 

最後に梅村さんが、新人添乗員にアドバイスした言葉で締めくくろう。

 

「参加者は楽しいひとときをすごすために、時間を作り、お金を払って、ツアーに来ているんだ。だから添乗員は楽しい雰囲気づくりをするのも、大切な仕事のひとつなんだよ。添乗業務では、とにかくどんな些細なことでも人を喜ばそうという自覚を持って臨んでみたら」

(『派遣添乗員ヘトヘト日記』から引用)

 

一日でも早くコロナが収束し、誰もが自由に旅を楽しめる日がすぐに来ますように!

 

【書籍紹介】

派遣添乗員ヘトヘト日記

著者:梅村 達
発行:三五館シンシャ

「謝るのが仕事だよ」……添乗員自身がなげく”日雇い派遣”添乗員のユーウツ、ときどき喜び。添乗員も、ドライバーも、バスガイドもみんな派遣?! 日雇い大国・ニッポンの縮図がここに!

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