本・書籍
2020/10/27 21:45

岸田奈美さんのエッセイを何度も読み返したくなる理由。「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」

「赤べこ」「弟 万引き疑惑」「母 死んでもいいよ」「車椅子 沖縄旅行」「櫻井翔さん」−−これらのワードに「ん?」と思った方は、おそらく岸田奈美さんの文章を読んだことがあるに違いない。

 

岸田奈美さん。作家。noteで書かれた家族の話、日常の話がTwitterなどで拡散されまくっているお方だ。

 

そんな注目の彼女が初エッセイ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(岸田奈美・著/小学館・刊)を出したという。なんだか、B’zの曲名みたいなタイトルだ。だからというわけではないが、これは読むべきだろう!と早速拝読した。

 

知らず知らずのうちに、岸田奈美の文章に出会っていた件。

そして、冒頭の「ん?」である。

 

私自身はnoteをチェックしたことがほぼないのだが、本書を読み進めるうちに、あれ、この話知ってる……がいくつも重なった。そして、これら全部、岸田さんの文章だったのか! と一人膝を連打した。

 

おそらく、Twitterで誰かがシェアしていた記事を読んだのだろう。恥ずかしながら、書き手が「岸田奈美」さんだということを、赤べこの話以外は認識していなかった。それぞれの話を別のタイミングで読み、同じ人が書いたともつゆ知らず、感動していたのだ。

 

岸田さんには、知的障がいがある弟さんと、車椅子ユーザーのお母様がいる。お父様は、中学生のときに亡くなっている。些細な言い争いの末「パパなんか死んでしまえ」と言い放ったその夜に、急性心筋梗塞で倒れ、意識が戻らないまま亡くなったそうだ。

 

ここまでの経緯を知り、しかも本のタイトルを見ると、その悲運な身の上を切々と語った、ある種お涙頂戴的な内容かと思う方もいるかもしれないが、まったくもって違う。もっと明るい。そして、押し付けがない。ウィットに富んでいる。心がほっこりする。ああ、日本も捨てたもんじゃないぞ、と希望の光が差す。

 

個人的に、エッセイはあまり読み返したりしないのだが、岸田さんのエッセイは、何度も読み返したくなってしまう。そんな文章なのだ。

 

ちなみに、先程から「赤べこ」と述べているのは、岸田さんのエッセイが爆発的に世に広まったきっかけとなった作品だ。ある日、弟さんが学校から返ってきたら、コカコーラのペットボトルを持っていた。所持金はゼロなのに。これは、万引してしまったに違いない。そう慌てた岸田さんとお母様は、弟さんが持っていた「お代は、今度来られるときで大丈夫です」と書かれたレシートのコンビニに馳せ参じ、赤べこのように頭を下げまくった。けれど、よくよく話を聞いてみると、そして弟さんの周囲を見渡してみると、あたたかく接してくれる人ばかりだった。そんな素敵な弟さんの話だ。未読の方は、ぜひ本書もしくはnoteの岸田さんのページで読んでいただきたい。

 

岸田さんの“ミラクルづくしの人生”が私たちに与えてくれるもの。

岸田さんのプロフィールには、「一生に一度しか起こらないような出来事が、なぜか何度も起きてしまう」と書かれている。確かに、納得だ。なぜこんなにも、ありえないようなすごいことが度々起こってしまうのか。こんなの、エッセイに記すしかないじゃないか。そんな少々嫉妬めいたことまで思ってしまうほど、岸田さんの人生はユニークで、ハプニングだらけ、それでいて、とてもとてもあたたかい。

 

なかでも、写真家・幡野広志さんに家族で写真を撮ってもらい、それらの写真が「どれもことごとく、ばかみたいに泣けるものばかりだった(本文ママ)」と書かれていて、いかほどまでに泣ける写真なのかが気になって気になって仕方がなくなったタイミングで、いい頃合いのページとページに、その写真が一枚挟まれていた。そして、赤の他人の家族写真を見て、どうしようもなく胸が熱くなった。

 

もうひとつ。読み終えてからもしばらく気づかなかったのだが、カバーを外すとそこにも、岸田ファミリーを幡野さんがとらえた一枚が載っていた。カバーでもなんでも、外してみるものだ。

 

おそらく岸田さんは、この先もミラクルな出来事ばかりを引き寄せ、その経験を私たちに素敵な言葉を紡いで伝えてくれるだろう。そして私たちはそのエッセイを読んで、世の中捨てたもんじゃないよね、と大切な誰かと笑い合えるだろう。ささくれだった日々に、岸田さんの文章が癒やしを与えてくれる。

 

【書籍紹介】

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

著者:岸田奈美
発行:小学館

車いすユーザーの母、知的障害のある弟、急逝した父ー情報過多な日々をつづる笑いと涙の自伝エッセイ。

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