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2020/11/24 6:30

「歴史」から教わるコロナ危機の乗り越え方━『コロナ時代の経済危機』

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。人の移動を完全に止めてしまえば感染者は激減するだろうが、それでは経済がどんどん冷え込み、失業者が街に溢れるようになってしまう。コロナ禍は私たちにさまざまな問題を投げかけている。

 

これから紹介する『コロナ時代の経済危機』(池上 彰+増田ユリヤ・著/ポプラ社・刊)は、たった今、不安に駆られ、生きるヒントを模索している人に向けた一冊だ。

 

復興へのヒントは歴史の中にある

本書は、わかりやすいニュース解説でおなじみの池上 彰氏、そして増田ユリヤさんという二人のジャーナリストのテレビでの対談をまとめたもの。危機の歴史を知ることで、いたずらに怖がらず、未来に備えようという主旨で話が進められている。

 

恐慌の歴史は、1927年の金融恐慌、1929年の世界恐慌、1930年の昭和恐慌、1939年の第二次世界大戦勃発、1973年のオイルショック、1991年のバブル崩壊、2008年のリーマンショック、そして今年2020年のコロナショックと続いている。それぞれの危機に於いて時のリーダーたちはどう発言してきたのかが、この本では詳しく解説されている。目次はこのようになっている。

 

第1章 世界恐慌からコロナショックを考える

第2章 ルーズベルトから学ぶ、危機への対策

第3章 日本は昭和恐慌にどう立ち向かったか

第4章 オイルショック、リーマン・ショックという苦い経験

第5章 危機の時代のリーダーとは

第6章 コロナ時代の新しい生活様式を考える

 

世界貿易の減少は、世界恐慌で起こったこと

今回の新型コロナウイルス拡大による経済への影響は「世界恐慌以来」などと表現されているが、”世界恐慌”とはどんなものだったのかをおさらいしておく必要がある。本書での解説を抜粋してみよう。

 

1920年代のアメリカは「永遠の繁栄」と呼ばれる時代だった。1918年に第一次世界大戦が終わり、世界経済が復調、安定してきていた。特にアメリカは本土の戦争被害がなかったため、輸出で多大な利益を得て世界経済はアメリカの一人勝ち状況にあった。人々は働いてお金を得るだけでなく、投資によってお金を儲けようという意識が芽生え、株への投資がブームになり、借金をしてまで株を買うようになった。当時のフーバー大統領は、そんなアメリカの状況を、「永遠の繁栄」と言っていた。しかし、ある日突然、それは破綻。1929年10月24日木曜日、株価の下落は恐怖に駆られた投資家たちの間に売りの嵐を呼び、結果、ニューヨークのウォール街にある証券取引所で株価の大暴落が起こった。この「暗黒の木曜日」を発端に、アメリカでは1933年までに6000あまりの銀行、9万もの企業が倒産して失業者が大量に発生してしまった。不況は世界へと広がり、1930年代の後半まで世界恐慌は続いたのだ。

『コロナ時代の経済危機』から引用

 

危機を救ったルーズベルト大統領の3Rとは?

世界恐慌の最中に大統領になったルーズベルトは第一期の就任演説でこう語った。「わたしたちが恐れるべきものは恐怖そのものです。(中略)幸福は単にお金を所有することではありません。達成したときの喜びに、創造的な努力をするときの感動にあるのが幸福です。はかない利益を追いかけまわすのではなく、働くことの喜びと道徳的な高揚感を決して忘れ去ってはなりません。こうした暗黒の日々が、教訓を学ぶ機会となるのなら無駄にはなりません」

 

ルーズベルトはすべての国民を仕事に就かせるために、ニューディール政策を打ち出した。その基本方針は3Rと呼ばれた、リリーフ(救済)、リカバリー(回復)、リフォーム(改革)だ。

 

池上 ニューディール政策は、ざっくりいうと経済復興と社会保障の増進の二本立てなんだよね。ルーズベルトの前のフーバー大統領が、世界恐慌に際してほとんど有効な策を打ち立てなかったのに対し、ルーズベルトはアメリカ連邦政府の権限を強化して、経済統制を積極的に行っていった。

(『コロナ時代の経済危機』から引用)

 

持たざる国が辿った歴史

世界恐慌では、資源や植民地を持っていない国、ドイツ、イタリア、そして日本が資源などを求めて近隣諸国への侵略を始めていった。

 

増田 それこそが、第二次世界大戦につながるわけですが、今はその歴史をしっかり踏まえ、どうすれば国際的に協調していけるか、検討していかなくてはいけません。

池上 今もコロナ禍によって、各国ともに自分たちの国の経済を守るため、また、マスクや医療品、ワクチンの開発など、自分の国を中心に対策を考えざるを得ないところがあります。どうしても内向きになりがちですが、これからどうやっていくか、ですよね。これを機に、今後の経済や国際協調のあり方をどうするか、模索が始まるでしょうね。

(『コロナ時代の経済危機』から引用)

 

人やモノの移動が制限された状況下だが、情報や物資を互いに補い合って、各国が協力していくことが必至。そのための新しい発想が求められているのが今なのだ。

 

国民に向けて語るリーダーの言葉

本書では危機を乗り切るためにはリーダーの発言、行動力がいかに大事かが繰り返し語られている。日本が昭和恐慌を脱出できたのには、高橋是清という財政のプロがいたことが詳しく解説されている。また、現在進行中のコロナショックでは、ドイツのメルケル首相が取り上げられている。2020年3月18日、メルケル首相はロックダウンするにあたり、国民にこう言った。

 

増田 メルケルさんの次に紹介する演説は感動的でした。「次の点はしかしぜひお伝えしたい。こうした制約は、渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとり、絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものなのです。民主主義においては、決して安易に決めてはならず、決めるものであればあくまでも一時的なものにとどめるべきです。しかし今は、命を救うためには避けられないことなのです」

(『コロナ時代の経済危機』から引用)

 

東ドイツで育ったメルケルさんが自らの体験を踏まえたこの発言は説得力があった。さらに、補償の問題にも触れ、経済に対する取り組みも行うことが同時に明言された。

 

この他にも、危機に直面したとき私たちはどうすればいいのか、本書を読むとそれが見えてくるだろう。

 

【書籍紹介】

コロナ時代の経済危機

著者: 池上 彰、増田ユリヤ
発行:ポプラ社

世界恐慌、オイルショック、リーマン・ショック、そして、コロナショック。歴史的な経済危機の時にリーダーたちがどう振る舞ったか、何を伝えたか、そして、どのような政策をとったかを検証することで、復興へのヒントを探る。危機の事態にどのような対応をするべきか、その答えはいつも歴史にある。

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