本・書籍
2021/2/24 6:30

「全裸監督」村西とおる、借金50億の生命の危機を救った説得術「応酬話法」

Netflixにハマっている。ウィークデイもウィークエンドも洋画であれ邦画であれ見まくっていて、これまでの人生で一番映像に触れてるんじゃないかと思うくらいの勢いだ。

 

「ナイスですね」

映画だけじゃない。ドラマやドキュメンタリーのジャンルにも面白いコンテンツがたくさんある。気に入っているのは、ロードムービー的なテイストで進行するアメリカの料理番組。そしてドラマでは『全裸監督』。モデルとなっている村西とおるさんとは、筆者が通信社に勤めていたころにちょっとした付き合いがあった。そんなこともあって、このドラマは30年くらい前の自分を思い出す役割も果たしてくれている。

 

筆者世代のほぼすべての男子にとって、村西監督はAVに革命をもたらした人物として刷り込まれているはずだ。一般作品でたとえるならソダーバーグに匹敵するカメラワーク(筆者比べ)を開発し、「ナイスですね」というフレーズで一気にブレイクした。ただ、実際に会ったことがある筆者にとって最も印象深かったのは監督の言葉の選び方だ。どんな些細な内容の話であっても、カラフルな言葉遣いを繰り出す人なのである。

 

話法を軸に語られる人生

この原稿で紹介するのは、その村西監督が話法を題材に人生を綴った『禁断の説得術 応酬話法』(村西とおる・著/祥伝社・刊)という本だ。「はじめに」に、次のような文章がある。

 

本書はビジネス、趣味、恋愛など、あらゆる場面の人間関係で必要とされる、他人を説得する技術について、私が実体験から導き出した「解」を読者の皆さまにお伝えするために書きました。

『禁断の説得術 応酬話法』より引用

 

この文章の前段として、村西監督が50億円というゲームの世界でしか見ないような金額の債務を背負うに至ったエピソードが紹介される。そして5000万円借りていた人物に山奥のダムに連れていかれ、飛び降りるよう迫られる。そういう場面で繰り出したのが、本書のタイトルになっている「応酬話法」の究極形態だ。本書のエッセンスをぎゅっと詰めこんだ、読み手の気分を盛り上げるイントロダクションは、ジェフリー・アーチャーの小説のオープニングみたいだ。

 

映像と言葉

構成を見ておこう。

 

序章  応酬話法とは何か

第一章 質問話法―質問によって本音を炙り出す

第二章 間接否定話法―最初に肯定してから、ソフトに否定していく

第三章 繰り返し話法―相手の言葉を繰り返して、悪感情を緩和する

第四章 実例話法―具体例を示すことで、説得力・親近感・安心感が増す

第五章 聞き流し話法―論争を避け、自分のペースに持ち込む

第六章 大失敗

終章  自分を識る(しる)

 

百科事典のセールスマンとして大成功を収め、AV業界の頂点に立ち、その後、転落して巨額の負債を背負い、再び立ち上がるまでのプロセスが透けて見える。この人の生き方を彩る最も大きな要素は映像という媒体なのだろうが、その根底にあるものは言葉だったに違いない。

 

カラフルな人々の実践的な話法

章立てで示されたそれぞれの話法が実例と共に紹介されていく。実例にリンクする形で登場する実在の人物のカラフルさも強調しておきたい。元華族の血筋にあたる生保レディ。小柄で見た目は全然ぱっとしないすご腕スカウトマン。そして、十二時間にわたる大手術から生還した監督のリハビリを担当した理学療法士。

 

監督は、出会った人々から言葉に関する何かを吸収したわけではないと思う。そもそも身についていたもの、ずっと昔から知っていたことを確認するための触媒となったのが、こうした人々だったのではないだろうか。天賦の才能。それが違うなら、前世の記憶なんていうスピリチュアルな言い方が脳裏をよぎる。

 

年代史的な側面も楽しめる

本書のもう一つの特色は、監督の目を通して語られる日本社会の年代史だ。あの時代に流行っていたもの。思い出の女優さん。新しいテクノロジー。おそらく誰もが自分と関連付けることができるさまざまな記憶のかけらがちりばめられている。そして、構成的に優れていると感じたのは、第六章の「大失敗」だ。

 

応酬話法に関する文章の締めの部分として、監督自身が体験した「とてつもない失敗をもたらす何気ないひと言」の数々が、これも実例を通して語られる。監督の実体験である修羅場など想像さえしたことがない筆者でも、痛いところを指摘される感覚が何回もあった。最後に、この一冊の本質を強く感じさせる文章を紹介しておきたい。人間は困難に直面してはじめて本当の自分を知ることになる、という村西監督の主張に関する説明だ。

 

追い詰められて崖っぷちに立つと、自分がいかに臆病で、怠け者で、嘘つきで、計算高く、チャランポランで、根気がなく、能力に欠けているか―といった、どうしようもない実相をさらけ出すからです。そのあからさまな、言うならば裸の自分を受け止めること、それこそが「自分を識る(しる)」ことなのです。

『禁断の説得術 応酬話法』より引用

 

村西とおるさん。やっぱり全裸監督だな。

 

【書籍紹介】

禁断の説得術 応酬話法

著者:村西とおる
発行:祥伝社

言わずと知れたAVの帝王・村西とおる。彼が英語の百科事典のセールスマン時代に習得、全国一位の営業成績を上げるに至った技術が、応酬話法である。その後、テレビゲームのリース業で大儲けするが、応酬話法は設置先の開拓などで威力を発揮した。一九八八年にダイヤモンド映像を設立、素人女性から有名人までを口説き、AV出演を成功させた。その武器となったのは、もちろん応酬話法である。一九九二年、ダイヤモンド映像は負債総額50億円で倒産。過酷な取り立てで、命の危険にさらされることもあったが(「はじめに」参照)、応酬話法によって危機を脱出、やがて完済した。この秘伝とも言うべき禁断の説得術を、ふんだんな具体例(時に抱腹、時に涙)と共に開陳したのが、本書である。ビジネス、恋愛、趣味などあらゆる場面で応用可能。取り入れるか否かは、あなた次第です。

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