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2021/8/9 6:00

黎明期の電子書籍ビジネスを支えた経営者の激動の回顧録がすごい!

2021年、日本ではスマホやタブレットで電子書籍が大量に読まれています。今でこそ当たり前のような読書風景ですが、この電子書籍にも産声をあげたばかりの時期がありました。そして、その陰には、普及を目指し力を尽くした人たちがいたのです。

 

新しいステージとしての電子書籍

筆者の私も、電子書籍との関わりはかなり初期からあり、自身の著作が初めて販売されたのが1997年でした。当時は表紙もなく、テキストデータをダウンロードしてPCで読むというシンプルなものでしたが、新しい販路ができたことは、私をワクワクさせました。全然有名でもない私にとって、これはチャンスかもしれないとさえ感じました。

 

2004年ごろからケータイ小説のブームが起きた際は、夢中になって多くのサイトに小説を発表しました。当時ケータイばかりいじっていた私にとって、これが紙の本とは全く違う新しい表現ができる素敵な場だと感じたのです。何しろ文字の色を変えたりBGMを設定することも簡単にできました。新しすぎる経験の連続だったのです。

 

当時から感じていたのは、電子で本を読む層と紙で本を読む層に違いがあるということでした。電子のほうが忙しい合間にちらっと読む人が多い印象だったので、さらっと読めるようなあまり複雑ではない物語を書くように心がけました。続きをアップして3分後に読者からの感想が書き込まれるようなスピード感も刺激的でした。

 

電子書籍の草創期

なかったことにしたくない ~電子書籍をさがすなら hon.jpの5122日』(落合早苗・著/ボイジャー・刊)は、日本における電子書籍の草創期から今日まで、会社社長の目を通して綴られたドキュメンタリーです。

 

著者の落合早苗さん(020 Book Biz代表)は、電子書籍と伴走し続け、成長を見守ってきた貴重な証言者です。その落合さんがどうしても書き残したいという使命感からリリースしたこの書籍は、電子書籍の歴史の本らしく、電子書籍 とオンデマンド版のみでリリースされています。

 

落合さんが初めて電子書籍に取り組み始めたのは、2004年。ガラケーでケータイ小説を読むという時代で、前年度(2003年度)の電子書籍の売上は18億円ほど。2020年度の4821億円とは比べ物にならないくらいささやかな数字でした。そして彼女はさまざまな仕掛けを試みていきます。

 

コースターやニュース発信

表参道のカフェ十数店に小説の出だしだけが書かれたコースターを配布するというプロモーションを行なったのは斬新でした。コースターの裏を見るとQRコードがあり「続きはこちら!」と書かれていたのです。

 

落合さんがそのキャンペーンを行ったのは2005年。来店者がおぼつかない手つきでガラケーでQRコードを読み取って小説を読んでいて、そこだけが未来空間のようでした(実際2021年の現代は多くの人が当たり前のようにQRコードを読み、目指すサイトにアクセスしています)。

 

電子書籍と共に

また共同創業者の塩崎さんと共に「hon.jp」という電子書籍検索や電子書籍関連のニュース発信のポータルサイトの運営にも携わり、次々と新しい試みをやってのけたのです。今の電子書籍の盛り上がりの影には、こうした人たちの試行錯誤があったのだと、本を読むと改めてわかります。

 

電子書籍が世に出始めてから普及するまでの激動期が包み隠さず書かれたこの本は、資料性も高い貴重なものです。そしてさらにドラマが起き、深く考えさせられます。そういえば電子書籍って、どうやってこんなに普及するようになったんだろう? と気になった時にはこの本を開くと、知的な分析と同時にその努力に圧倒されるはずです。

 

 

【書籍紹介】

なかったことにしたくない ~電子書籍をさがすなら hon.jpの5122日

著者:落合早苗
発行:ボイジャー

hon.jpの元社長・落合早苗自身が2004年の起業から2018年の会社解散までを書いたノンフィクション。落合は2004年にインプレス創業者・塚本慶一郎と出会い、電子書籍検索サイトhon.jpを運営するインプレス100%子会社の経営を任される。だが、まだまだ支援が必要な時期に塚本が倒れ、1年後のリーマンショックで親会社から事業撤収を告げられる。事業を継続するにはスピンオフしかない。もう一人の経営者・塩崎泰三とMBOへと動き、2009年に独立。黒字化も果たし、待望の『電子書籍元年』を迎えたが……

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